ベジタリアンになるとどうなるのか?

ある日曜日、レイとシュウヤは安全な方法で、それぞれの異能力を使った模擬戦闘をして遊んでいた。


「これでオレが3敗だ……ああクソ!”あの”罰ゲームかよ……いやだ……まだ楽しみを失いたくねぇ……」


「ふぅ、早速ゲームでもしよっと。シュウヤ、明日からベジタリアン生活頑張れよ」


そのままトボトボとシュウヤは部屋に入った。その様子はいつも怒っているシュウヤにしては、どこか落ち込んでいるようだった。


その日、シュウヤは話を聞いてもらおうとメリヤを呼び出した。


「なぁメリヤ。一つ言いたいことがあんだが」


「なんですか、シュウヤさん?可愛いですから好きなだけ話していいですよ!」


普段なら拒否していたであろうポジティブすぎるメリヤの発言も、話を聞いてもらいたい今のシュウヤからしてみればありがたいものだった。


「オレと氷室で模擬戦闘ゲームをしたんだよ。そこで先に3敗した方が罰ゲームとして3日間自分の好きなものを1つ封印するってルールでな。氷室が負けたら3日間ゲーム禁止、オレが負けたら3日間ベジタリアン生活ってことにした。そしたらおれが2勝3敗で負けて、ベジタリアン生活をすることになった」


「なるほど。肉料理が好きなシュウヤさんからしてみれば辛い罰ゲームですね〜。でも自分で決めたことだから守るべきですよね?」


「ああ。自分にも厳しくしねぇとダメだと思ってるから、ベジタリアンの中でも一番きついヴィーガンにする。卵も牛乳もダメだ」


シュウヤはそういうが、心の底で少しやるせない気持ちになっていた。


メリヤの言った通り、シュウヤは肉料理全般が大好物。


ハンバーグもトンカツも唐揚げも食べられないとなると、彼の中に辛い気持ちがひしめく。


だが、好き嫌いはしないので野菜もちゃんと食べている。野菜を食べないと体に不調を来すのはそうだが、肉を食べなくてもタンパク質が足りなくなってしまう。


「やってみるか。しばらくバイバイな、オレの大好きな肉たち。……料理は自分でできるから安心しろ」


「はい!わかりました。それじゃあ、3日間のヴィーガン生活、よろしくお願いしますね!」


メリヤはそれだけ言うと、シュウヤの部屋を出てレイの部屋に戻る。そこでは、あいかわらずゲームをしているレイがいた。


「よっしゃあ!このまま徹夜でゲームしよっかなー。せっかく勝ったんだから楽しまないとな」


「レイさん、やっぱりゲームしてる姿が可愛いです……いい笑顔ですね……シュウヤさんは今頃本を読んでいるんでしょうか?」


「だといいが……」


本を読んで我慢しているシュウヤをそっと思い浮かべるメリヤ。そんなメリヤは、いつかシュウヤの笑顔も見てみたいと思った。


一応、レイもシュウヤがこういう時に真面目で、ズルや嘘は使わないことは知っている。なので彼のことはそういうところでは信用している。


レイがゲームをやめる気がしないので、メリヤは先に寝ることにした。そうして徹夜していつの間にか寝てしまったレイより先に起きると、シュウヤの部屋に向かった。朝5時30分に起きて夜9時30分に眠る彼なので、この時間帯には起きていて当然なのだ。


「シュウヤさんおはようございます!ヴィーガン生活1日目の調子はどうですか?」


「とりあえずサラダは作れた。ドレッシングにも動物性成分が使われてるかも知れねぇからそのまま食うぞ」


そういうとシュウヤはスマホを取り出してサラダを撮影する。そして、それをレイのところのLINEに送った。


『ヴィーガン生活1日目の朝。とりあえずサラダ作ってみた。普段から割と作ってるから自信ある』


トマト、きゅうり、レタスからなるそのサラダは、彩りや配置もあってかなり美味しそうだ。そして、タンパク質を摂る用の納豆とそれをかけるための白米も用意してとりあえず「いただきます」と言った。


シュウヤはサラダを1/3ほど食べると、納豆パックを開けてそこの納豆をご飯にかけ、納豆ご飯を食べ始めた。


「ちゃんと食べててえらいですね、シュウヤさん……」


メリヤはこのことをアパートのみんなに伝えようと色々なところを回った。


「えぇっ!?シュウヤさん、そんなことをしてるの?まあでもそういう精神力があるのは評価するわ……。まぁでも、あたしがそんなことを強要されたら耐えられない自信があるわね……」


「模擬戦闘勝負で負けた罰ゲームでそんなことになるなんて……模擬戦闘って怖いです!私は絶対にやりたくありません!」


「あぁ……罰ゲームで負けただけでそんなことをするなんて大袈裟すぎる……どうせなら私が代わりに糖質制限をしてやりたいところだ……」


いろんな人にこのことを伝えた後、メリヤはレイの部屋に戻った。その頃にはレイはちゃんと起きていた。


まだ眠りから覚めたばかりで床を這っているが、こちらの言葉には十分反応してくれるくらいの段階だ。


「レイさんレイさん。おはようございます。シュウヤさん、ちゃんとベジタリアン始めたらしいです。実際にサラダと納豆ご飯食べてました」


「納豆ご飯な……確かにベジタリアン生活をする上で大豆製品は本当に欠かせないだろう。タンパク質が豊富な植物性食材として重宝すると聞いている」


レイはシュウヤから届いた画像付きのLINEを見ながらそういった。


「もしかしたら痩せたりするかもしれないな、シュウヤ……。野菜ってのは低カロリーで食物繊維が豊富だから」


レイはそう小声で呟く。シュウヤは太っておらず体脂肪率はそこそこなのだが、これ以上痩せるかもしれないのだ。


まぁ、メリヤはシュウヤの体格が変わっても人間は人間なので愛するつもりだが、あくまでレイなりに気がかりなのだ。


「何か他にヴィーガンになることでの健康的な効果とかあるのか……?」


「ちょっと調べてみますね」


メリヤはそう言ってスマホを取り出して調べてみる。


「どうやら生活習慣病も改善したりできるみたいです。アサヒさんも糖質制限してみようかなとか言ってましたが、そういう面ではいいかもしれないですね」


「てかしろよアサヒは。4話前のエピソードで糖尿病になったんだし。糖分とってばかりであそこまで悲観的になるのも逆に珍しいと思うけどな」


そういうレイもコーヒーやエナドリが大好きなのでカフェイン中毒に気をつけるべきだろうが、そこには誰も触れない。


「あとは……腸内環境の改善にもつながるらしいです」


「腸内環境の改善?やっぱそれもあるか……まぁ食物繊維が豊富だって言ってたからな。野菜を食べると善玉菌が増えるらしいし。ただまぁ、肉ってビタミンB12や鉄分を多く含んでるから貧血になったりする可能性もあるぞ」


そう言われて、メリヤは人間の子供が野菜嫌いを克服するようしつけられるということを思い出した。


肉ばかり食べていると栄養が偏るとは聞いたが、逆に動物から獲れた食べ物を一切取らない生活をしている人にも同じことが言えると気付かされた。


「でもベジタリアンもそこまで舐めたものじゃないと思いますよ?」


————


一方その頃、シュウヤはベジタリアンとしてどうすればいいものが食べられるのか、食文化に関する本で探していた。


シュウヤにとっての必需品の片翼が封じられた今、シュウヤはいつにも増して本を読み込んでいる。


「ほう。大豆の代替肉に精進料理……ベジタリアンの食い物にも色々あんだな」


それもそのはず。ベジタリアンはマイノリティではあるが、極端に少ない派閥というわけでもない。


現に宗教的な理由によって食べるものに気をつける者が多いインドでは国民の40%——数字にして5億人以上がベジタリアンなのだ。


「うーん……野菜を揚げて精進揚げにした上でけんちん汁もつけて白米で食うか。デザートは切ったリンゴにして……」


シュウヤは3日分の献立を考えた。肉や魚を使わない縛りをしていて、献立を考えるときにパズルを解いているような気分になった。


ここだけの話、シュウヤは意外と家事が得意である。大学生である彼が一人暮らしをする以上、掃除、洗濯、そして料理は必須スキルとなっているのだ。


夜になって献立を作り、肉を食べられないことにイライラしつつも渋々食べる。


「やっぱ肉に比べてあっさりしてんな、コレ。体にはスゲェ良さそうだからいいけど」


その後も似たような感想を抱きながら、シュウヤは3日間ベジタリアン生活を貫いた。


大好物が食べられないことによるストレスで何度かレイに当たったが、幸い彼は怪我しなかった。


しかし、レイは何度かシュウヤの怒りに巻き込まれたことで、もう勝負する時に罰ゲームは設けないと戒めたのだった。

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