1日性別が変わるとどうなるのか?
「ちょっと見て欲しいものがある」
ある日、ナオカは謎の薬を持ってアパートのメンバーを呼び寄せた。その薬は1人1錠ずつ配られた。その薬を見たメンバーはそれぞれの反応を返す。
「ヒィッ!なんの説明もない薬とか怖いです……!」
「まさか僕に自殺用のピルでもくれたのか……」
「おい来賀。俺たちに飲ませた薬が変なもんだったらゆるさねぇからな!」
「メリヤの分もあるんですか?人間さんの薬ですから可愛くなれるんですかね〜♡」
「えぇっ!こんな薬いったい誰からもらったの……?まぁ、毒薬とかじゃないとは思うけど……」
「まーまーまー。きっと楽しくなる薬だからさ。安心して飲もう?」
「楽しくなる薬とか言い方が酷い。まぁケーイチ的にそういうことはないんだろうが……」
「まぁ、劇薬だったとしても私が死ぬとは思えませんから」
周りが十人十色に取り乱すと、ナオカがそれを宥めようと、メイカが開発した薬に害が無いことを説明する。
「この薬は友達の
(自分で薬の実験するとかメイカもだいぶ狂ってんな……。まぁこんな小説に出てんだし、ナオカの友達でもあるんだからそれもそうか)
「それじゃぁ、いただきまーす」
メリヤが先にその薬を飲む。すると、しばらく体がだるくなり、メリヤはその場に倒れ伏した。
「う、うーん……特に何も変わっていな……あれ!?ちょっとメリヤの声、低くなりました!」
しばらくして、手がゴツゴツしていたり、背が少し高くなっていたり、髪が短くなったりしていることから、薬を飲んだメリヤの体が男になっていることに気づいた。
「もしかして、これって……」
「そうだよ。これは24時間だけ性別を変える薬『ジェンダーチェンジャーII型』。私も男の子になるね。さぁ、みんな飲も?」
「わーい!女の子って楽しそー!」
「とりあえず飲んでみましょう。僕は自分の力でなろうと思えば女性になれますが」
「えぇっ!?まぁ、命に別状がない薬なのはわかったから飲んじゃおう……」
「僕が女性になったところで可愛くなれるとは思わないが……それでも飲んでみるとするか……飲まなかったら殺されそうだし……」
こうして一人一人薬を飲んでいく。少し気まずい空気が流れていたが、一人一人が美男美女に変身した。
メリヤは儚げで素朴な感じの美少年に。
レイは肩までの長さの髪の真面目そうな美人に。
ケーイチは豪胆そうな感じの大きな胸のお姉さんに。
アサヒは病んだ顔をそのままに幸薄そうだが美しい女性に。
シュウヤはツンツンした顔をそのままに綺麗な顔の美少女に。
ユナは大らかそうでどこか頼り甲斐のあるお兄さんに。
キョウカは金髪を除いてどこか根暗な感じのするマッシュヘアの少年に。
ナオカは青いショートヘアをそのままに、背が高くなって少し凛々しい顔立ちの美男子に。
……チユトは元の中性的な外見も相まってあまり変わっていなかった。
ちなみに補足しておくと、アサヒは仮に異能によるものなら能力無効化による打ち消しができるのだが、メイカの発明品は科学の力を利用したものであるため、アサヒにもちゃんと有効なのだ。
「とりあえず、みんな性別が変わっても可愛いですね……。ていうか、よく見たら服も変わってません?」
「読者からすれば文字だけだからわからないと思うが、確かに変わってるな。まぁ、そこら辺は物語上の都合ってやつだろ」
「相変わらずメタいね、レイは。とりあえずメイカちゃんによると24時間このままらしいから、明日の朝8時までみんな異性として生きよう」
こうして、1日だけの異性生活が始まった。
————
「とりあえず飯……ご飯作ってきたぞ。これが女子力高い……ってやつなのかな?割と家事は全般できるけど」
シュウヤは定期的に作った料理を他人に渡す。今日も例に漏れず、その料理を提供した。今日作ったのは一般的な朝食のセット。目玉焼きとベーコンとレタスと味噌汁と白米からなる。
「お前は女子になっても言葉遣いとか気をつければなんとかなりそうだな」
「そ、そうか?」
「うん。前に食べたときは美味しかったし。いただきます」
メリヤとレイは目玉焼きを口に運ぶ。いつもよりも少しだけ頑張って作ったからなのか、とても美味しく感じた。
目玉焼きはふわふわしていて、ベーコンはカリカリに焼かれている。味噌汁はちゃんと出汁が聞いている上に具沢山。全てが高得点だった。
それによく見ると、シュウヤはかなり身だしなみがしっかりしている。
「シュウヤ、お前なんでそんなに……」
「女になったんならちゃんと女として振る舞わねぇとって思ってな。あー、なんだ。形から入るってやつ?」
「なるほどな」
この後、レイもヘアスタイルぐらいは変えようと思った。
————
「せっかく女性になったんだから、僕もちょっとおしゃれなスイーツ店に行こうかな……」
甘いものが好きなことに別に性別は関係ないのだが、女性ならスイーツの話題で割と盛り上がれるかもしれない。
生粋の陰キャであるアサヒにそんなことができる余地はないのだが、とりあえず写真を撮ってSNSに投稿するぐらいのことはしようと思った。
「あの、このシフォンホイップドーナツください……」
コンビニに入店したアサヒは、とりあえず新作スイーツの「シフォンホイップドーナツ」を買って、一口千切って食べる。その断面と自分の顔を写した写真を撮り、SNSに投稿した。
「まぁ僕の画像なんてアパートのみんな以外見ないと思うけど……」
そう言った後、アサヒはアパートに戻る。1時間ほどしてSNSを見てみると、すでに100ほどの高評価が溜まっていた。
————
「せっかく男の子になったんだし、ちょっとやってみたいことがあるな〜」
ユナはトイレの中で、男になった自分は何をすべきか考えていた。
「といってもトイレは共用のを使ったほうがいいのかしら?このアパートのトイレは個人用で性別で分かれてなくてよかったと思ってる……」
流石に立ち小便はできない。とりあえず一つ嬉しいことがあるなら、それは直前まで悩んでいた生理痛がこなくなったことだった。
あまり生理が痛い方ではないのだが、0と1で言えばの話なのでかなりスッキリする。
「運動でも初めてみよっかな?あまりやったことはないけど……まぁ、走り回るくらいなら」
魔女(今は男なので魔法使いだが)のユナはそこまで足の速さは重要ではない。移動はだいたい箒で事足りるからだ。
そうしてユナは必死で走る。アパートの前を走るにつれて、次第に風が吹いて気持ちよくなってきた。
「えぇっ……スポーツってこんなに気持ちよかったんだ」
そのままユナは無我夢中で走り続けてしまった。
————
「うーん、男の子は可愛いよりもかっこいいほうが好きなんですかねぇ……」
メリヤは男子になったゆえにあれこれと考えを巡らせていた。普段メリヤは人間を可愛いと思っているのだが、それが男として異常な行為なのかもしれないと思っていた。まぁ、女だからといって普通になるわけでもないのだが。
「とりあえず、人間さんの男の子が好きらしい番組でも見ますかね」
そう言いながら、メリヤはレイが登録している番組の配信サイトで、特撮番組をとりあえず見る。
「やっぱり人間界のテレビ番組って面白いですね〜」
そのまま3話ほど特撮番組を見続ける。話としてはよくできたと思っていたが、結局メリヤの人間に対する意見は変わらなかった。
「……この番組に出てる人間さんも可愛いなぁ……。それに、自分のために誰かを守れるって素敵ですね……」
「結局お前の口から出るのはそれか」
と、レイは呆れていた。
————
そうして1日が過ぎていく。その日の夜、ナオカは寝る前にみんなに聞いて回った。
「あの、みんな。異性として生きてみるの、楽しかった?」
大体のメンバーは好意的な感想を示した。言うまでもなく、異性として生きてみるのは新鮮な体験だったからだ。
中には2人か3人ほどもう一度なってみたいと思う者もいた。しかし、この薬が今後どうなるかはナオカにもわからない。
「メイカちゃん、発明は大成功だったよ。私も男の子として生きるの楽しかった。特に、背が伸びたのが嬉しかったかな。それじゃあ、おやすみ」
そうしてナオカも眠りについた。みんなが目覚める頃には、みんなの性別は元に戻っていた。
結局自分の体が一番落ち着くので、次の日はいつも通りのルーティーンで、でもいつもより穏やかに過ごすのだった。
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