料理が下手すぎるとどうなるのか?
「レイさんレイさん、最近料理を学ぶようになったんですよ〜」
さっきまで本を読んでいたメリヤが、レイに急に話しかけてくる。
「料理を学ぶようになったのか?……じゃあ何か作ってみてくれ。あっそうだ……カレーとか作れるか?」
「カレー……確か野菜や肉が入った辛い液状のものをご飯にかけて食べる料理でしたよね?ちょっとやってみます」
そういうとメリヤは鍋を用意する。にんじんと玉ねぎとじゃがいもと牛肉を取り出し、それらを適切な大きさに切る。
スマホでカレーのレシピを調べながら、野菜と肉とルーを調理し、鍋の中に入れる。
メリヤはその時に気になったことがあったので、レイに聞いてみることにした。
「レイさんはどの辛さのカレーが好みですか?メリヤは辛いのが少し苦手なので甘口で行きますが」
「あー、じゃあ俺の分のカレーは中辛と辛口の間くらいに調節しておいてくれ。後入れの辛い調味料があったはずだから」
「料理習いたての人にとっては結構難しい注文ですね……でもちゃんとやりますよ!」
メリヤはカレーをそのまま手際よく作っていく。カレーにはライスが必要なので、米もちゃんと炊くことにする。
しかし、それが完成する頃に悍ましい匂いと色の液体が出来上がってしまった。それは茶色というよりおどろおどろしい漆黒の色をしており、異臭を放っていた。
メリヤはその異臭にも気づかず、鍋からカレーを取り分けて、レイの分に辛味のある調味料を加えていき、再び熱してかき混ぜる。
そうしてメリヤの分のカレーとレイの分のカレーをそれぞれのお皿に盛り付け、片方ずつ運んでいく。
「ちょ……ちょっと待て。これってカレー、だよな?」
「はい!メリヤはちゃんと作りましたよ?」
「どす黒い産業廃棄物にしか見えないんだが。臭いも最悪だし」
自分の料理を『産業廃棄物』と言われてプライドが傷ついたのか、メリヤは衝撃を受けて怒る。
「ちょっとレイさん!メリヤはちゃんと愛を込めて作ったんですよ!まずは一口食べてから考えてください!」
「そ、そうなのか……じゃあ、いただきます」
レイは目を閉じてカレーを食べる。しかし、一口目からすでに生ごみを漁った方がまだ旨みを感じられるほどの悍ましい味に襲われ、顔が見たことないくらい青白くなった。
「レイさん……大丈夫ですか?もしかしてメリヤの作ったカレー、そこまで不味かったりしたんですか?」
メリヤは心配して自分の分のカレーも口に入れてみる。味見をせずに渡したことを後悔する、悪夢のような味だった。
「う、うぅ……なんでこんな味に……」
結局そのカレーは廃棄せざるを得なかった。あえなくレイが備蓄していたカップ麺を食べて飢えを凌ぐことになった。
「なぁメリヤ、お前この前目玉焼き作った時はちゃんと作れてただろ?誰に料理教わったんだ?なんで悪化したんだ?」
「ああ、それはですね。ナオカさんに料理を教わったんです……」
「いやナオカは一番危ない目玉焼きの作り方してただろ!料理初心者があんなのを真似したらそりゃ酷いことになるな……」
メリヤは人間を疑う心を持っていなさすぎる、と改めて気付かされるレイであった。
なお、レイも料理はほとんどできず、朝食に簡単なものを作ることをのぞいてインスタント食品で済ませている身なので人のことは言えない。
だが、とりあえずナオカのことは叱ろうとしたレイであった。
————
翌日。
「おい、ナオカ。メリヤに料理教えたことで話がある」
レイはナオカのいる203号室の扉をノックしながらそういう。
『何?』と聞きながらドアを開けたナオカに対し、レイは怒った顔で続ける。
「お前、メリヤに料理教えるのやめてくれないか?お前は楽しいかもしれないが。こっちは困っているんだよ」
「え?いいけど。なんで?」
どうせ拒否すると思っていたナオカが食い下がらずに一瞬で了承してくれたことに、レイは思わず目を見開いて驚く。
「あ、いいんだな、お前……。俺がメリヤが料理覚えてるって聞いたからメリヤに料理作ってくれって頼んだんだよ。そしたらメリヤがとんでもなく不味いカレー作ってきてさ。思わず吐きそうになって食えなかった」
「なるほど……それは申し訳ない」
ナオカは口ではそう謝罪するが、仕草としては頷くように首を下ろすだけで、声のトーンも全く変わらない。
「それでなんだけどさ。一つ言いたいことがある。お前は料理がうまいのかもしれないけどさ、メリヤみたいな初心者に教えるのにお前みたいなののやり方は合わなすぎる」
「レイって私の料理食べたことある?」
「食べたことはないが、見たことはある。この前の目玉焼き回で焦げ付きかけるまで目玉焼きを加熱してたからな。あんな極端で難易度が高い作り方を勧めてれば、作ったことない料理を作るときに勝手にアレンジを加えて失敗する」
言ったことをちゃんと聞くナオカに対し、レイはまだ続ける。
「おまけに、お前は失敗した料理でもなんとなく食べそうだからな。あー、アレだ。お前って無謀すぎる性格だから——」
「無謀っていう言い方は心外。私は勇気の塊だから、何事にも挑戦しようとしてるだけ。でも確かにメリヤが料理作るのを失敗しても残さず食べてるってのは事実だね」
「やっぱそうか。でも、とりあえず料理を教えるのをやめてもらっていいか?」
「わかった。レイが私のせいで苦しむんだったら、やめた方がいいんだよね?」
こうしてナオカはメリヤに料理を教えるのをやめることにした。
————
「……メリヤ。ナオカじゃなくて別の奴に料理教えてもらうことにしたらどうだ?一応ナオカは説得してやめさせたから」
「わかりました。レイさんがそのせいで苦しむのは可哀想なので、別の人にします!うーん、家事全般得意って言ってましたし、シュウヤさんに頼んでみるとかどうですかね?」
「シュウヤか……確かにあいつはちゃんと料理を教えてくれそうだな。この前料理全部作ってるって言ってたし」
「じゃあ決まりですね!今から説得してきます!」
こうしてメリヤはシュウヤに料理を教えてもらうことになった。
————
料理を教えてもらいたいと言ったメリヤは、想像よりも早くシュウヤに料理を教えてもらうことができた。
特にベストセラー本を渡すとか言ったわけではなく、単純にナオカに料理を教えてもらうよりそうした方がいいとシュウヤが考えたからである。
「メリヤ。今日はハンバーグを作ることにするぞ。まずは粗熱を取るために玉ねぎをみじん切りにする。この時玉ねぎを切ると涙が出そうになることがよくあるからゴーグルをつけるといいぞ」
「粗熱が取れたら、合挽肉とさっき混ぜた奴、玉ねぎを合わせて混ぜる。そうしてハンバーグの種を作ったら形を整えて、片手から片手へ軽く投げるように空気を抜くんだ」
メリヤはシュウヤに言われるがままにハンバーグを作っていく。
シュウヤによる指導で、メリヤはハンバーグを作ることに成功。2人分のハンバーグがさらに盛り付けられる。
「美味しいですね、これ!」
「うん、初めて作ったにしてはうめぇな。合格。とりあえず定期的にここに来れば料理下手が改善すると思うぞ。よろしくな」
「ありがとうございます!」
目の前でシュウヤはハンバーグを美味しそうに食べる。この瞬間はシュウヤが怒りっぽいことを忘れてしまいそうになる。
「あぁ……やっぱりこの時のシュウヤさんの笑顔は可愛い……この笑顔が見れるんだったら来てもいいかもしれません……」
そう思いながらメリヤはケーイチと一緒に作った料理を食べ、満足するとレイの部屋に戻った。
————
数日後。
「レイさん、この前作ったカレーが不味かったの覚えてますか?」
「ああ、覚えてる。もしかしてちゃんと作ってくれるのか?」
「はい!もうシュウヤさんからカレーの作り方を聞いたので安心してください!」
メリヤはシュウヤに言われた通りにカレーを作る。今回は慎重にレシピ通りに作ったので、失敗することはなく、ちゃんとした茶色と微かなスパイスの香りのあるカレーになった。
「あー、確かレイさんは辛いカレーが好きでしたよね?辛くします」
「ありがとう」
そうしてメリヤとレイは作られたカレーを食べることにした。
「うん、味と香りで安心してたが、ちゃんと美味い。メリヤ、そっちの甘口のはどうだ?」
「こっちも美味しいですよ!やっぱり、ちゃんと作れば改善されるんですね〜♡」
「お前が典型的なメシマズキャラにならなくてよかったよ」
ちゃんと作った美味しいカレーを食べているレイはとても笑顔だった。
(あぁ、美味しいもので笑顔になってる人間さんが可愛い……)
その部屋では癒しの時間が流れていた。
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