こっくりさんをするとどうなるのか?
「あぁ……スイーツに散財しすぎて貯金が10円しかない……」
アサヒは自分の豚の貯金箱をひっくり返し、たった1枚だけ出てきた銅貨を見つめて憂鬱に浸っていた。
「それもこれも全部私に貧乏神がついているせいだ……いや、こんな食べて呼吸するだけで生きてる価値のない人間には貧乏神も好き好んで寄りつかないだろうけど」
そんな中、後ろからレイとメリヤがやってきた。
「アサヒさん、そんなに落ち込んで何があったんですか?まさか明日死ぬんですか?」
「それは考えすぎな。あとアサヒはいつも落ち込んでるだろ」
「それもそうですねレイさん。でも死なない限り人間さんが落ち込む必要はないんですよ!」
メリヤの圧倒的なポジティブ思考と人間への崇拝に、思わずレイとアサヒは何もいえずに見守ることしかできなかった。
それはそれとして、しばらくした後にアサヒが10円玉をつまんで見せつけてくる。
「それがどうしたんですか?」
アサヒはメリヤにそう言われると泣きながら10円玉をさらに近づけてくる。
「私の貯金がこれくらいしかないんだ!幸いまだ食材は冷蔵庫に残ってるし給料日からもそこまで遠くないけれど!でもたった10円しか残っていないのを見るだけでかなり辛くなるんだ……」
「いやそこまで辛くなる必要はないだろ。それに散財しすぎたお前の自業自得な」
「確かにレイさんならそうなりそうですけど……」
「ああ、地下労働するしかないのか……カ○ジみたいに……どうせ私にはギャンブルの才能なんてないだろうから……」
一線を超えてしまったアサヒの発言に、レイは一瞬どもりながらもなんとかツッコミをする。
「おいやめろ!そんなことしたらこの小説のジャンル変わるだろ!強制労働とかここで流せないから!レンレイとマーサの方でやれよ!」
「あ、はい。すみません……」
レイのメタツッコミをよそに、アサヒは謝罪する他なかった。
しばらくすると、突然ケーイチがそこに割り込んできた。
「なになに?そこのみんな、何の話してるのー?」
「ああ、ケーイチ?急に割り込んできたな……アサヒの貯金が10円しかないらしいんだよ。どう思う——」
「えぇっ!?10円あるの?借りていい?」
「ああ、借りていいが……それを僕から『借りる』ってどういうことだ?使った後に利子でもつけて返すのか?」
「うううん、違うよ!これをお金として使ってものを買ったりはしないよ!こっくりさんできるじゃんって思っただけー」
急なケーイチの発言に、レイとアサヒは何も言うことができなかった。
「こっくり……さん?なんですか、それ?」
「ああ、こっくりさん知らないんだね?こっくりさんっていうのは降霊術の一種でー、特定の内容を書いた紙の上に効果を置いてやるおまじないなんだよー。メリヤちゃん、もしかして興味あったりするー?」
「そんなこと聞くなケーイチ!後戻りできなくなるぞ!」
レイはなんとかメリヤを慌てて止めようとするが、その静止も虚しくメリヤはうなずいてしまった。
「はい!メリヤ、そのこっくりさんっていうのに興味があります!ぜひやってみたいです!」
「それじゃあ決まりだね!レイくん、付き合ってよー!」
「お、俺はやりたくねぇ……」
レイはそう言って外に出る。が、アサヒは能力を無効化してしまうので、硬貨に指を置く必要のある降霊術に使えないかもしれない。また、二人だけでやるのは寂しいのでもっと人数が欲しい、とケーイチは思った。
「あ、メリヤちゃん!ちょっともっと多くの人数呼んでくるから待っててねー!」
「具体的には誰を呼ぶんですか?」
「ユナさんとシュウヤくん!早速呼んでくるねー!」
「ちょっと楽観的ですね、ケーイチさん……」
と言いつつもケーイチには聞こえておらず、彼は遠くに行っていた。
しばらくすると、ユナとシュウヤを連れてケーイチが戻ってきた。ケーイチは相変わらず不満そうで、ユナも戸惑っていた。
「あぁ、なんでオレがこんなことに巻き込まれねぇと行けねぇんだよ!」
「まあまあ落ち着いてよシュウヤくん。ハンバーグ奢るからさー」
ケーイチがハンバーグを奢るというと、シュウヤは仕方なくそれに従わざるを得なかった。
(うわぁ、やっぱりこんなところで渋々従ってるシュウヤさんも可愛い……)
「それで、えぇっと……何をやるの?」
「あぁ、ごめん。ユナちゃんには言い忘れてたね。こっくりさんだよ!」
「えぇっ!こっくりさんってあの……おばあちゃんがやってたウィジャ盤みたいなやつ、よね?」
ちなみに補足しておくと、ウィジャ盤とはアルファベットや数字などの文字が書かれたボードとプランシェットという器具を使って行う儀式のようなものであり、質問をするとそれに伴ってプランシェットが答えるというものである。
「とりあえずアサヒから合意の上で貰ってきた10円玉があるからこれでこっくりさんやろうよ!」
「本当に合意の上なんだろうな?その10円玉盗んだりしてきてねぇだろうな?」
「それについてはこっくりさんに聞けばいいじゃん。ちゃんと教えてくれるよ」
シュウヤはそう言われたので、ケーイチがあらかじめ用意した紙の上に10円玉を置く。そして、3人が10円玉の上に指を置いた。
メリヤも指を置こうとしたが、身長と体の問題でうまく指を置けなかった。仕方なかったので3人でやることにした。
「「「こっくりさん、こっくりさん、おいでください。もしおいでになられましたら「はい」へお進みください」」」
そういうと、10円玉を乗せた指が動いて「はい」へと進んだ。
「ね!ちゃんとこっくりさんが来てるでしょ!俺、見えるよ!」
ケーイチが急に笑顔で言う。ケーイチは大声で笑いながら、遠くの方を見ていた。そこには狐の霊がいるが、他の人には見えない。
「えーっと、じゃあ、こっくりさん、こっくりさん、あたしたち3人の誕生日とかわかりますか?」
ユナがそういうと、10円玉が3人の誕生日を示し始める。
『ゆ』『な』『7』『か』『つ』『1』『9』『に』『ち』
『け』『い』『い』『ち』『8』『か』『つ』『1』『6』『に』『ち』
『し』『ゆ』『う』『や』『5』『か』『つ』『8』『に』『ち』
「本当に当たってるな、これ!じゃあ……こっくりさん、こっくりさん、ケーイチが協力してくれたら俺にハンバーグ奢るってのは本当ですか?」
シュウヤの質問に対し、10円玉は『はい』の方に向かった。
「こっくりさん、こっくりさん、ケーイチが合意の上でこの10円玉をアサヒから取ったってのも本当ですか?」
それに対しても10円玉は『はい』と答える。
「わぁ、すごいですね。もうそろそろ終わりにした方がいいんじゃないですか?」
メリヤが横槍を入れてくると、ケーイチが嫌そうな声で返事する。
「嫌だよ!まだ俺が質問してないもん!俺がやろうって言ったんだから一回くらい質問するものでしょ!」
「こっくりさん、こっくりさん、俺のことどう思ってますか?」
ケーイチの質問に対し、『こ』『わ』『い』と返答する10円玉。
「えー、そうなんだ。じゃあもうそろそろ終わりにした方がいいかな?」
『はい』と出るこっくりさんに対し、ケーイチは戸惑う。
「いや、こっくりさんに聞いたわけじゃないんだけど……それじゃ、みんなでいおっか」
「「「こっくりさん、ありがとうございました。お離れください」」」
ケーイチたちがそういうと、10円玉は『はい』を指し、そのまま鳥居へと動いていった。
————
「ということをシュウヤくんとユナさんとやったんだよねー。割といい幽霊だったよ?こっくりさん!」
数時間後、ケーイチは満面の笑みでアサヒにお金を返していた。
「はぁ……まあ僕は心霊の類には詳しくないが……まぁそれならよかった。10円玉、返してくれないか?」
「安心してよ返すから!俺がお金を返さないと思う?」
「まあ確かに返してくれるとは思っていたが……私は正直そのままお金を使われても怒る気力がないからな……」
「そういえば、俺がこっくりさんから怖いって言われたんだけどどう思う?レイくーん!」
「そりゃ、陰属性の塊みたいな存在の幽霊からしてみれば、お前みたいな陽キャの極みは怖いって思われて当然だろ……まぁ、でもいいんじゃないか?お前がいてくれればこのアパートが事故物件になることはなさそうだし」
「それもそうだねー!まぁ、正直霊媒師の家系に生まれた俺からしてみると、幽霊と仲良くできないのはちょっとアレだけどさ……」
「安心してください。幽霊に嫌われても、メリヤは愛してますよ」
「優しいね、メリヤちゃん!」
メリヤとともに二人で笑い続けるケーイチ。そんなケーイチの笑い声をバックに、暗い顔でアサヒはこっくりさんに使われた10円玉を貯金箱に入れるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます