幽霊に遭遇するとどうなるのか?
心内アパートにて、ケーイチがメリヤに向かって話しかけている。
「あのさー、メリヤちゃん、聞いてほしい事があるんだ〜」
「何でしょう?」
「この前キョウカちゃんが黒い長髪で白い振袖を着た半透明の女の人に出会ったらしいんだよね〜。その女の人はちょっとだけキョウカちゃんを睨んだだけで、一歩も動かなかったらしいんだよ〜」
「えっ、それってまさか……」
「うん!オバケだったと思うよ。他の人にはその女の人、見えてなかったらしいし」
それを聞いた時、メリヤは少し身震いをした。
メリヤは怖い話が少し苦手だったが、我慢してそれを聞くことにした。
当然ながら、メリヤで少し怖がるのだから、キョウカがそんな話を聞いて無事で済む訳がない。
「にしても、ケーイチさんはオバケが平気なんですか?」
「うん!俺はそういう家系の生まれでオバケがはっきりと見えるからいるってわかるし、怖くないけど?でも、キョウカちゃんに見えたのはきっとマズイことになってると思うよ……」
「そうですか……聞いてみます」
メリヤは覚悟してキョウカの部屋に向かい、事情聴取をする。
それでメリヤがわかったことは、キョウカが遭遇したその幽霊には口や鼻がなく、大きな目が一つだけあったということ、そして1週間前にその幽霊を見て、3日前にも同じ幽霊を見たということ。
キョウカ曰く、幽霊が歩いたりする様子は見られなかったが、1週間前に見た時と3日前に見た時では、3日前の方が心内アパートに近づいていたらしい。
とりあえずこのことをケーイチに伝えてみることにした。
「ケーイチさん。キョウカさんが見た幽霊のことですが……」
「なになに?聞かせてメリヤちゃん」
ケーイチが迫ってきたので、メリヤはキョウカに言われたことを全て話す。
「……だったようです」
「あー、なるほどー!それで最近いろいろな人が被害に遭ってるって聞いたよ!じゃあキョウカちゃんもなんとかしないと危ないかもねー!」
食い気味かつ1ミリも変わらない笑顔でキョウカの危機を話してくるケーイチ。
人間が好きすぎる故に、メリヤは明確に引くようなことはなかったが、圧が強くて少し言葉が詰まった。
数秒後、メリヤは硬直が解けて口を開く。
「そ、そういえばケーイチさんはそういう家系の生まれって言ってましたよね?」
「うん、そうだけど?俺の生まれた千坂家は1000年前から続く霊媒師の家系で、そこに生まれた子供はオバケが見えるんだよ〜」
「元々はすごく有名で毎日のように頼られてたんだ。長い歴史の中でお大名様が来たこともあったらしいんだけど、いつの間にか非科学的なものに頼るなって風潮のせいで閑古鳥が鳴くようになってさ〜。今じゃ副業として普通の仕事やってるんだよね〜」
「なるほど、そんなすごい人だったんですか……じゃあ、そのことについてケーイチさんの家族に相談しても?」
「ああ、きっと乗ってくれると思うよ!普通の人なら『オバケが見える』なんて非科学的なものを信じないと思うけど、ここにいる人たちはみんな非科学的な力を使うからその辺に関してはノープロブレムだと思うし!」
「じゃあ決まりですね」
メリヤはそのまま、ケーイチの家に行くことにした。ケーイチは車の運転ができるらしく、その車に乗せてもらった。
1時間ほどして、メリヤとケーイチは千坂家にたどり着いた。思ったよりも普通の家で、鉄筋コンクリート製の二階建ての家だった。
「中に入ってよ、メリヤちゃん」
「はい」
ケーイチが鍵を開けて家に入ると、そのままメリヤは彼に案内される。しばらく歩いた先には、ケーイチにそっくりな男女がいた。それが彼の父と母であることは、なんとなく直感で理解できた。
しかし、母親がメリヤを一瞥すると、少し顰めっ面をした。
「何かしら、ケーイチ?そんな顔で妖怪を連れてくるとは……」
「いや、この子は妖怪じゃなくて、最近俺がいるアパートに来た妖精の女の子で……」
「お邪魔します!メリヤって言います!カイコガの妖精です!お二人とも可愛いですね……♡」
「妖精?……まさか海を超えて物怪がくるとは、何が起きているのかしら……それに、私たちのことを可愛いって」
「そこまで神経質にならないでください!あなたたち人間さんだって、犬や猫を見て可愛いと思うことはあるでしょう?それと同じですよ!」
「まあまあお母さん、そこまで排除しようとしなくてもいいじゃないか。お父さんにも見えてるんだからこの子は妖怪じゃない。別の何かだよ」
「え、お父さんにも見えてるの?なら余計に事態が難しくなるし、私たちでは祓えなくなるけど……」
まだ警戒している母に、どうすれば彼女の警戒を解いて話を聞いてもらえるか考える。
まず、ここで洗脳で強行突破すると、洗脳が解けた時に余計に怪しまれてしまう。
「そういえば、メリヤちゃんのためにお菓子でも出そうか」
「はい、メリヤは出されたら喜んで食べますよ〜」
そう言って父親は奥に行き、しばらくすると5枚のビスケットののった皿と、紅茶の淹れられたカップをトレーに乗せて戻ってくる。ビスケットをメリヤが持ち上げてよく見てみると、それぞれのビスケットは2枚1組からなっていて、間に赤黒いペーストが挟まっている。
メリヤがそれを口に運ぶと、メリヤの大好きな味が口いっぱいに広がる。
「もしかしてこれ、桑ジャム使ってます?メリヤはカイコガの妖精なので、クワが大好きなんです!」
「それはよかった……」
しばらくしてビスケットと紅茶を飲み切ると、メリヤは顔いっぱいに笑顔を浮かべた。それを見て、ケーイチの母も警戒心が解けていた。何より、ここまで美味しそうに食べていると追い出す気が失せた。
「それで、何か用があってきたんでしょう?」
「うん、僕の友達が——」
かくかくじかじかとケーイチが例の幽霊の見た目と目撃記録について説明すると、母はそれに対して答えてくる。
「それは『ニラミさま』ね。綺麗な目をした人に近づいて、4回目が合うとその人の両目を奪う。両目を奪われた人は即死すると言われている」
「それで、ここからが重要。ニラミさまに殺されないようにするためには、マグロの目玉を食べるといい」
「そうなんだ」
「ああ。お父さんも取り憑かれて、それでお母さんに治してもらったから、好きになって結婚まで行ったんだ。だからそれについては知ってる。おまけに、魚嫌いまでこの件で治ったからな」
(それは別の何かだと思うけどな、お父さん……)
「まあとにかく解決策は見つかったし、帰ってもいい?」
「ええ。その友達を大切にね」
そのまま両親は二人を見送り、二人は心内アパートに帰ってきた。
そしてその日の夜。メリヤはマグロの目玉を見た目の嫌悪感がなくなるように調理したものをシュウヤに作ってもらった。シュウヤは健康的な生活をしているので、料理がその過程で得意になっていたのだ。
「と言うわけで、キョウカさんにはこのマグロの目玉を食べてもらいます」
「マグロ……の……目玉……」
「ああ、すみません。怖がりなキョウカさんには辛いと思いますが」
「……はい……やっぱり怖い……病気になったりしないかな……」
そんな不安を抱えていると、キョウカとケーイチの前にニラミさまが現れた。
「今から対策しようとしてるのね?でももう遅——」
「あ、ニラミさま?俺千坂 ケーイチって言うんだけど、一緒にゲームとかしない?」
「……え?……え?」
「だから、ゲームとかしない?俺今暇してるんだよね〜」
(ちょっと、距離が近いんだけど……)
「UNOがいい?それともババ抜きとか?」
「いや、だから距離が近——」
「いーじゃんいーじゃん、友達になろうよー」
「よ、陽キャにここまで絡まれるなんて緊張する……」
「あのさー、人を殺してばっかりじゃつまんないよ。いいことしたら楽しくなれるよー」
メリヤからはニラミさまは見えていないが、それでも何もないところに話しかけているケーイチの様子を見て、ニラミさまに話しかけているんだなと直感的に理解した。
「来るな!来るなぁー!もう2度とこの女には近寄らないから許してくれ!」
そう言いながらニラミさまはどこかに消えていった。
「ふぅ、これで除霊完了!」
(ケーイチさんの除霊ってこんなのなの?あの幽霊ちょっと親近感湧いて可哀想だったな……それはそれで怖いけど)
「まあでもこれで私が目玉食べる必要はなくなりましたし……これ誰が食べますか?」
「うーん、食べないなら俺がもらっとくけど?」
「あー、お願いします。できれば目玉なんて食べたくないので」
「それじゃ、いただきます」
そうしてケーイチは柔らかく押し付けられた目玉を食べるのだった。
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