ゲーム依存症になるとどうなるのか?

「はぁ、はぁ……あと少しでプラチナデーモン討伐だ……」


ある日メリヤが目覚めると、レイが夜遅くまで電気をつけずにゲームをしていた。


「レイさん。なんで夜遅くまでゲームしてるんですか?」


「あーあー、遅くまで起きてて悪いか?メリヤ」


「いえ、そんなことはないですよ。ゲームしてるレイさんも可愛いですし……」


「じゃあ止めないでさっさと寝てくれ。これでようやく5連勝できるんだよ」


「わかりました。放っておきますね」


レイに言われたので、メリヤは再び布団の中に潜って寝た。直後にレイが無事にゲームに勝って喜ぶ声が聞こえた。


翌朝にメリヤが起きると、レイはゲームのしすぎなのか、疲れて布団の外で眠っていた。


「とりあえずこのことをアパートの皆さんに報告しなくては……」


その後、メリヤはレイ以外の7人を別の部屋に集めて、レイがゲームを徹夜してやっていたことを報告した。


「ええっ!?氷室さん、ゲーム依存症になってしまったの……?それはちょっと危険な感じがするわ……」

「クソが。オレなんか朝6時半に起きて夜9時半に寝る生活してるってんのに、レイのヤツは徹夜でゲームしまくってるとか気が知れねぇ……」

「ひゃあっ!ゲーム依存症って怖い……」

「そうか……そんなことになるとは、とても悲惨だ……」

「僕はいいと思いませんけどね。そんなことに時間を費やすのはもったいないかと」

「あはは、ちなみになんてゲームなの〜?」


急に的外れな質問をするケーイチ。しかし、それにもメリヤはちゃんと答える。


「ゲームの名前はわからなかったんですけど、プラチナデーモン討伐って聞こえた気がします」


「プラチナデーモン討伐……それじゃあビリブレじゃない?」


即答するナオカに対し、あまりゲームに明るくないメリヤは首を傾げる。


「ビリブレ……ってなんですか?」


「ビリオンズブレイブ、略してビリブレ。MMORPGって言って、他の人とゲーム上で交流しながらダンジョンを攻略したりとかするゲーム。私もやったことがあるよ」


「そうなんですか。とにかく、そのビリブレをここ最近熱中してやり続けてるんですよね……」


「それは良くない……ゲームをやり過ぎて依存症になると、生活に影響をもたらすと言われていますからね」


「チユトさん、知ってるんですか?」


「ええ。2019年5月にはWHOによってゲーム障害が正式に精神疾患として認定されていますから」


「精神疾患!?あたしもゲームはまあまあやる方だけど、レイさんがそこまで重症になっているとは……」


「ああ、そうだぞ。あとな、メリヤ。氷室が夜遅くまで起きてて今は寝てるって言ったな?それ、昼夜逆転ってヤツだぞ。生活リズムが狂うとそうなる傾向にある」


「昼夜逆転……昼に寝て夜に起きることの何がいけないんですか?」


「ほらな、大抵の人間って昼に行動して夜に寝るだろ?そうなると昼夜逆転したやつは他の人間にリアルで関わろうとしても難しくなる。それに、日光を浴びないと精神面や健康面で問題が出るってのも聞いたことがある。ま、だからオレは健康に死ぬほど気配ってんだけどな……ただでさえ怒りっぽいし」


「なるほどです……。それじゃあ、レイさんの依存症を治す方法を考えてきますね」


メリヤはそう言って上に向けてまっすぐ拳を突き出す。扉を開けて外に出ようとするが、ケーイチが一つ提案をする。


「あのー、メリヤちゃんの洗脳能力でゲーム依存症を治せばいいんじゃないの?」


メリヤは振り向いて、お辞儀をしながら説明する。


「あ、あの……。私の洗脳能力は一時的なんです。ですから私が洗脳を解除するとレイさんのゲーム依存症が戻ってしまうんですよね……。だからそういうことには使えません。それに私の洗脳能力は1度に1人までしか洗脳できないんです」


「そっかー。それはごめんねー」


ケーイチの謝罪を受け取ると、メリヤは早速レイの部屋まで戻った。


「いけっ、いけっ……今回のイベクエはベスト50までいかないといけないんだ……じゃないとトロフィーがもらえない……」


「レイさん!」


ドアを開けて駆け込んできたメリヤにレイは反応する。


「あ?なんだよメリヤ。他のやつとつるんでればいいものを……」


「ちょっと話があるんですよ。他の皆さん心配してたんです!このままだとアパートの皆さんと疎遠になってしまうかもしれません!いいんですか?」


「いいに決まってるだろ。そんな連中よりゲームの中のギルドメンバーの方が大事だ。大体俺はあそこまで変な連中ともなるべく関わりたくない」


「ああ、レイさん……それに、こんなに散らかしてるじゃ無いですか。もう一度掃除してあげてもいいんですよ?」


メリヤが掃除しながらレイをおだてようとする。しかしその目論見はうまくいかず、レイは舌打ちして返してきた。


「掃除?したかったらしてもいいがゲームの配線に触れて電源を切ろうものならアパートから追い出すからな」


(うわぁ、これはかなり重症ですね……可愛い人間さんに人間さんをもっと大切にしてもらうためにも、別の案を考えてきます)


作戦が失敗したことに少し悲しみながら、メリヤはレイの部屋から出る。そして、次の作戦を考えるために別の部屋に行く。


「ダメでした……」


「レイさんの遊んでるゲームってどんなのなのかしら?」


「ユナさん……ちょっと私が説明してあげる」


ナオカによると、『ビリオンズブレイブ』とは有名なゲーム会社が作ったMMORPGで、中世ヨーロッパのような剣と魔法の世界でモンスターを倒したりアイテムを集めたりするのが醍醐味のゲームらしい。


『剣と魔法』という言葉を聞いて、メリヤはレイとそのゲームの間に一つの関係性を見つけた。


「もしかしてですけど、レイさんは勇者の剣に選ばれた人だから、ゲームの中でも勇者になりたがってるんでしょうか?」


「あぁ、まあそれはあるかもしれないな……元々あの人がゲーム好きなのは知っているが、ここまでハマったところは見たことがないしな……」


「それはありえるかもしれませんね。氷室さんならそんなことがあってもおかしくないです……がゲームしてばかりなのはいけません」


「チユトさんの言うとおりです。ですので、私としてもレイさんになんとかゲーム依存症を治してもらいたいです」


レイのゲーム依存症をなんとか治そうと、しばらくメリヤは考える。


まず、メリヤはどうすれば効率よくレイを部屋の外に出せるかを考えた。しばらくして、他の人に協力してもらってレイが出た後にドアを閉じるというアイデアが出た。


しかし、部屋の外に出したところで何か別の楽しみを与えなければならない。そこで、メリヤはレイの特徴からヒントを得ることにした。


15分に及ぶ思考の末、メリヤは答えを見つけることができた。


「これです!これでレイさんをゲーム依存症から救うことができます!」


答えを見つけたメリヤは、もうすでに部屋に戻っていたキョウカとシュウヤに声をかけた。シュウヤをテレポートさせ、キョウカの部屋に連れて行った。


「あ、あの、キョウカさん、シュウヤさん」


「ヒィッ!なんですか?」「なんだよ、メリヤ。俺と文倉に何を頼むんだ?」


「私に協力してくれませんか?あなたの超知覚能力……第六感でレイさんが外に出たのを確認したら、シュウヤさんにそれを伝えてください。そしたらシュウヤさんはレイさんのアパートの前に出て、サイコキネシスでレイさんに見えない角度から扉を強く閉めてください」


「ま、まぁやってみます」「仕方なくやってやる」


「ありがとうございます、二人とも!」


プランはこうして実行されることになった。


まず、メリヤが洗脳で少しゲーム欲を削ぎ、自分に一時的に従順にさせてドアの外に出す。


「レイさん、勇者の剣を持って部屋の外に出てください」


「はい……」


レイが剣を持って部屋の外に出ると、それを第六感で把握したキョウカがシュウヤに伝えて、それによりシュウヤが扉の死角に現れて、そこから扉を閉めて固定してしまった。


ここで洗脳を解除すると、レイは周りの状況に驚いてメリヤを責める。


「おい、メリヤ。なんで俺をここに出したんだ?」


「レイさんの社会復帰のためですよ!まずは一旦外に出て、体を動かす練習をしてみたらどうですか?その勇者の剣をバットみたいに素振りしてみたりとか……」


「そうか。めんどくさいけど……久しぶりに太陽の光浴びて気持ちよくなってるしやるか」


「ありがとうございます!」


レイは空気に向かって剣術の練習をし始める。しばらくすると、レイは体が軽く感じられるほどの速度で剣を振り回していた。レイが疲れる頃には、ゲームができないことへのイライラは吹き飛んでいた。


「メリヤ、俺の依存症を治そうとしてくれてありがとう。明日から仕事にも戻れそうだ」


「それはよかったです!」


また一つ人間さんのためにいいことをしたと思って、笑顔になるメリヤであった。

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