人間さん、カワイすぎ……!
益井久春
【速報】妖精がアパートにやってきました。
ここは
そんなアパートに、1人の妖精が訪れていた。白くもこもこした服に身を包み、白く大きな羽を持ち、クリーム色の髪と虫の触角を頭から生やした1メートル弱の妖精である。
そう、彼女こそは紛れもない、「カイコガの妖精」メリヤである……。
「ここが人間さんのお家……仕事があるので泊まらせていただきますね」
メリヤはアパートの101号室の扉を開けた。そこにいたのは汚部屋で漫画を読んでいる、黒髪に赤目の青年だった。
「……こんにちは、人間さん」
「誰だおま……って化け物!?」
青年はメリヤの姿を見て驚愕する。もちろん、彼は白い羽と触角が生えた女の子なんて見たことがないからだ。
「化け物とは失礼ですね!メリヤはカイコガの妖精です」
「うん、とにかくお前が非科学的な神話・伝承の類であることはわかった。それで、妖精が何しに来たんだよ?」
「メリヤは今人間界を調査する役目を背負っていまして……それでこのアパートに泊めてもらいたいのです」
「ダメに決まってんだろバカ。うちはペット禁止だぞ」
そう言われるとメリヤは表情筋が固まってしまい、しばらくすると泣き始めた。
「うっ……そんな……可愛い人間さんのアパートに泊まらせてもらえないなんて……」
「いや当たり前だろ、不審者と暮らすなんてありえないし……てか今俺のこと可愛いって言った?」
泣いていたメリヤはその言葉を聞いて急に泣き止んだ。
「はい!メリヤは人間さんなら誰でも可愛いと思ってますので!」
「変な性癖だなこいつ……」
彼はそう思って身構えるような表情で一歩引いた。
「ああ、そんな身構えなくて大丈夫ですよ!メリヤはただ、人間さんが犬や猫に抱く感情と同じものを人間さんに向けているだけです……」
(そう……なのか?)
「なので……掃除させていただいてもよろしいですか?この汚部屋」
「……え?」
「こんな汚い部屋
「そのレベルなのか!?」
「はい、というわけで掃除させていただきますね……」
メリヤはそう言いながら掃除を開始した。しばらくすると、部屋が見違えるほど綺麗になっていた。
「うっ……普通にありがとう」
「嬉しいです。そういえばあなたはなんていう名前なんですか?」
「
「レイさんですか!素敵な名前ですね……。あと、レイさんの部屋を掃除したお礼として泊まらせていただくことって……」
「全くしょうがないな……綺麗になったのは普通にいいことだからお前のことは許してやるよ」
「ありがとうございますぅ」
そうしてレイは興味のないメリヤの身の上話に付き合わされながら、気づけば寝てしまい、朝になっていた。
「おはようございます。これからよろしくお願いしますね」
「これからよろしくってお前……俺は昨夜しか泊める気はなかったんだぞ?」
「え?そんなこと一言も聞いてませんけど……証拠ならあります」
メリヤはそう言ってボイスレコーダーを取り出した。
『全くしょうがないな……普通に綺麗になったのはいいことだからお前のことは許してやるよ』
「こ、これは……」
「はい。こういう時のために記録しておきました。レイさんは昨日しか泊めないとは一言も言っていないので今日からも泊めさせていただきますね」
「う……うわあああああああ!」
自分の犯した失態によってレイは目の前が真っ暗になった。
「それじゃ、新しい住人が増えたからこのマンションの人たちに紹介しに行くぞ」
死んだような声のトーンでレイは部屋を出ていく。メリヤがそこでしばらく待っていると、レイが帰ってきた。
「メリヤ、とりあえずこのアパートの住民を7人呼んでおいたぞ。これからよろしくな」
「はい。どんな人間さんでも大歓迎ですよ〜」
そうしてメリヤが待っていると、前髪で片目を隠した碧眼でスーツ姿の青年がドアを開けて最初にやってきた。
「申し訳ない……こんな褒めるところの一つもない人間がここに参加するとは……」
「そんなことないですよ。人間さんは人間さんというだけで生きてる価値があります!人間さんはみんな可愛いんですから!」
「えっ……?僕はそんな根本的なところしかいいところがないのか……」
そう言って彼は部屋の隅で丸まってしまった。
「すみっ○ぐらしになるなお前」
「えっと……あの人は何をしてるんです?(まぁ可愛いからいいんですけど……)」
「ああ、あいつは
「な、なかなか個性的な方ですね……。まあでも、メリヤは人間さん全ての味方ですからどれだけ重くなっても受け止めますよ」
「お前の愛も十分重いけどな……」
そうして話をしていると、次の住民が入り口を通った。茶色の長髪が特徴の糸目の女性が現れた。
「失礼しま……ってえぇぇっ!?まだ新道さんしか来ていないの!?それに、この女の子……見たことない」
そう言いながらその女性は開眼して海のように青い瞳を皆の前で晒した。
「だから言っただろ、今日から新しい奴が来るって」
「うわぁ、この人間さんの驚いた顔、とっても可愛いです……」
「こいつ、
「おい!オレを急に呼び出してなんなんだよ!まじふざけんな!」
すると次に見るからに怒っている表情をした、赤色に染めた短髪が特徴の、大学生くらいの男性が現れた。
「また人間さんがやってきました」
「ああ、こいつは
「おい、今オレのことをヤバい奴って言ったか!?」
「落ち着いてくださいシュウヤさん。とっても可愛いんですから……」
メリヤはそう言ってシュウヤを宥めようとするが、逆にシュウヤを怒らせてしまう結果となった。
「あ!?男のオレに対して可愛いってなんだよ。普通そこは『かっこいい』って言うところだろ……」
「落ち着け二人とも」
レイが静止すると何故かシュウヤは沈黙する。ユナはその光景にまた驚いていた。
「うぅぅぅ……呼ばれてきましたけどやっぱり怖い……」
金色のツインテールと琥珀色の瞳を持つ、青ざめた顔の少女がやってきた。
「なんか元気がないですねこの人。アサヒさんもそうでしたが……」
「ああ、すいません。わたし、
「それ全員じゃねえか」
「なかなか難儀な人間さんですね……でも隅っこで震えてて可愛いです!」
「お前はちょっと黙ろうか。お前虫だからこの人の恐怖の対象になるぞ」
キョウカはアサヒの反対側の隅に隠れ、レイの布団をかぶる。しかし、暗いところが怖くなって叫び出し、布団を投げ捨てた。
その様子を見て、メリヤは投げた布団を整頓し、人間たちのご機嫌を取ろうとした。
「おお……」
メリヤが周りから反応を受けていい気分になっていると、次の人が来た。少し背が高めで笑顔の男性だ。髪は茶色ではあるが、ユナの茶髪が焦茶色なら、彼はもっと明るい色をしている。
「あはははははは〜!
「ひ、ひぃっ!ここに来て陽キャが……」
「いやいつも出逢ってるだろ」
レイがいつものようにツッコミをすると、メリヤの方に振り向く。
「千坂はチャラそうに見えるが女っ気はないクソ無邪気で平等なやつだ。シンプルに前向きで面白いことが好きすぎていつも笑ってるだけだ。まあここには人間全般に対して頭お花畑な態度をとる奴もいるんだけど」
レイがそういうと、ケーイチがメリヤに詰め寄ってくる。メリヤは笑顔を維持したまま、少しのけぞった。
「えーっ!?君翅生えてんの?面白っ!あはははは〜」
(やっぱり笑顔の人間さんも可愛いですね……)
「おい千坂、メリヤが困ってるぞ」
実際はメリヤは困っていないのだが、メリヤが仰け反ったことからそう判断したレイはケーイチを諭す。ケーイチは素直にメリヤから離れた。
次の人がやってきた。小柄な体格でボーイッシュな青い短髪をしているが、胸があるので女性だとすぐにわかる見た目である。
彼女は初対面のメリヤに全く物怖じせず、詰め寄ってメリヤの翅を触ってみた。
「……もふもふしてる。この翅本物なの?」
「はい。……積極的ですね、この方……」
「初めまして。私は
「こいつはめちゃくちゃ積極的で行動力の塊なんだよ。よく言えば勇猛、悪く言えば制御不能な奴だ」
その後、ナオカは気が済んだのかさっさと素早くみんなと同じようにメリヤから離れた。
「さて、あとは1人だけだ。いつ来るかな……」
「姿を隠してただけで、最初からいましたよ」
そう言いながら、銀髪長髪の、女性と見間違う中性的な容貌の好青年が姿を現した。彼の後ろからは謎の光が出ている。
「この方は……可愛いと言うよりはかっこいいです……」
「こいつは
「おっとおっと……僕はただの人間ですよ」
「そんなことができるんですね……ちなみに私は洗脳能力を持ってます」
「絶対に悪いことには使うなよ?」
レイが念押しすると、急に周りの人たちがこっちを向いた。
「それを言うなら僕も……能力無効化ができるが……」
アサヒがそう言うので、ユナが驚いた。
「えぇぇっ!?……まああたしも魔女の血を引いているので魔法が使えるんだけど……」
「一瞬驚いたのなんだったの?」
レイがツッコミを入れていると、他の人も己の能力を言っていく。
「オレも念力と瞬間移動が使える超能力者だ」
「わたしも強い第六感を……」
「俺はオバケが見えるよー!」
「私には超身体能力がある」
「なんなんだこいつら……まあ、俺も勇者の剣に選ばれて聖なる力を持ってるんだけど」
レイは少し気まずい気分になりながらそう呟き、ちょっとだけ証拠に剣を見せた。
「ちなみになんですけど、私の能力、体験してみません?」
「うん」
ナオカが不安を知らずにメリヤの前に出る。
「それじゃ、今からナオカさんに可愛いポーズを取らせますね」
メリヤがそう言った数秒後、ナオカは両手を丸めて顎の下に置き、少し前屈みになって片足を後ろに上げた。そして首を傾げて指でハートを作り、「きゅん……♪」と小さく言った。
「ああ、とっても可愛いです……」
メリヤがそう言っている一方で、他の者は衝撃を受けて表情が固まったり、笑いを堪えようとしたりしていた。
(やれやれ、こんな奴らと一緒にこれから過ごしていくのか……)
レイと仲間たちの数奇すぎる”日常”が今、幕を開けようとしていた。
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