ツルニの姉・アサ
私はツルニと別れて、初等部のときの友達と服などを見て、買い物をしていた。初めはツルニとの買い物を中断されてイライラしていたが、少したった今では久しぶりに会った友達と楽しく話したりしていた。
「それにしても、アサは妹のこと好きだよね」
さっき、ツルニの前でこのことを話してしまいそうになり、アサに魔法で口を塞がれていたクシが話しかけてくる。
「別に、そんなことないし。」
ツルニの前で見せるキリッとした顔はなく、頬を赤くして照れていた。アサは普段ツルニの前ではかっこいい姉を演じている。
「じゃあなんで今も妹に似合いそうな服を買おうとしてるの?」
「え、これ私のだし。」
「そんな可愛い服、アサ着ないじゃん。それにサイズ的にもアサじゃ着れないじゃん。」
う~。と頬を膨らませながら、クシを恨めしそうに見る。
「ごめんって、つい。久しぶりに会ったから、いじりたくなっちゃたの。」
う~。じいっとクシを見つめる。
「ほんとごめんって。アイスでもおごるから。」
「う~。じゃあ許す。」
さっきツルニに優しく話しかけていたテニーが話に混ざってくる。
「それにしてもアサは妹の前と態度本当に違うよね。」
「それな、シズカもそう思うよな。」
「う、うん。」
ずっと静かに後ろをついてきていたシズカも頷く。
付き添いできていたクシの兄は近くの喫茶店で休憩しているため、今は女の子4人で買い物をしていた。
「べ、別にいいでしょ。妹の前ではかっこつけたくなるのが姉というものなんだよ。」
「いいと思うよ。私も悪いなんて言ってないし。」
「じゃあ、なんでそんなニヤニヤしてるの。」
「だって、いつもしっかりしているアサが妹のことでいじると照れたりして面白いんだもん。あと、その手に持ってる杖を降ろしてくれない。」
ニヤニヤしていたクシの顔は真顔に戻り、私の右手にもつ杖を見ていた。
私は貴族くらい魔法の才能があり、初等部ではなかなか馴染むことができなかった。
そんななかクシは私に積極的に話しかけてきてくれ、初等部で最初に仲良くなった。こんな風にからかってくるのはやめてほしいけど、私の魔法の才能を気にしないで関わってくれる一番仲が良い友達だ。
もちろん、テニーもシズカも私を普通の友達として接してくれる、私にとっては大切な友達だ。
「二人ともそれくらいにして、アイスでも食べに行こう。」
「はーい」
「調子いいんだから、まあおごってくれるんだからいいけど。」
杖を降ろして、四人はアイスを売ってる屋台に向かって歩き出した。
アイスを買い、近くのベンチに四人で座って、アイスを食べていた。
「ここのアイスおいしいよね。」
「そうだね。」
「う、うん」
「そうなんだけど、」
「どうしたの、クシ?なにかあった」
「いや、アサはいいんだけどさ、私がなんで全員分のアイスおごってるの?」
「え、いいじゃん。ついでってことで。」
「う、ごめん、クシちゃん。う、」
「いや、あ、え、」
シズカが本当に悪いことをしてしまったという表情で今にも泣き出しそうにして、クシが慌てていた。
「クシー。」
テニーがクシを胡乱げな目を向けると、クシも少しだけ落ち着いたのか話し始める。
「う、ごめん。シズカ、私怒ってないから。むしろおごれて良かったと思ってるから。ねえ、だから元気出して。」
「ほんとう?」
「うん、本当、本当。」
クシは財布の入ってるバッグを悲しげに眺めていたが、私をからかった罰だと思うことにして見なかったことにした。少しだけかわいそうではあったが。
それからも雑談をしながらアイスを食べた。
アイスもそろそろ食べ終わりそうになったときに、なんだか嫌な予感がした。寒気がして、とっさに立ち上がった。
三人は私が急に立ち上がり驚いてるようだった。
「アサいきなりどうしたの?」
「ごめん、なんか妹になんか、えっと、なんか。とりあえず、ごめん。妹のところに行かないと。」
「私の兄さん近くに居るから、いっていいよ。」
「ありがとう」
私はそれだけ言って、住宅街の方向へ走り出した。
私の慌てた様子を察してくれて、すぐに送り出してくれる友達に感謝を抱きながら走った。
走りながら杖を取り出し、自分に身体強化の魔法をかけた。
思い過ごしであってくれ、ツルニ。ツルニ無事で居てくれ。ツルニ!
住宅街に入った途端、叫び声が聞こえてきた。
「ツルニ!」
大声を出して、叫び声が聞こえた方向に向かって走り出した。
叫び声が聞こえたところに着き、ツルニの姿を見つけ叫んだ。
「大丈夫!ツルニ。」
「私は大丈夫だけど、あの人が」
ああ、良かった。本当に良かった。ツルニが無事で。
ツルニの無事を確認できたことで、焦りが無くなり、普段の立ち振る舞いに戻す。
「ヴィドがどうして、というか腕が折れてるじゃないか。ツルニ、私は病院に運んでくるから、家に帰ってて。詳しい話は家で聞くから。」
私は同級生のヴィドをおんぶして病院の方向に向かった。
限界まで身体強化の出力を上げたため、体中が痛かったがなんとかツルニの前ではかっこいい姉を演じきった。
ツルニが見えなくなったところからはヴィドを引きずって運んだ。もうおんぶするほどの力が残ってなかった。
ヴィドを運び、家に帰り、ツルニの部屋で何があったか聞いた。
とりあえず、妹のツルニに怖い思いをさせたヴィドとその友達は今度合ったときに一発殴ることが確定した。もちろん限界まで身体強化をして。
「でも、良かったよ、ツルニが無事で。その助けてくれたリンさんには感謝しないとね。」
「うん、それにとってもかっこよかった。お姉ちゃん以外で初めてかっこいい女性に会ったよ。」
アサの顔は少しだけ引きつっていたが、ツルニは手をもじもじして下を見ていたため気づいていないようだ。
「それは良かったね。ところで……その子と私どっちがかっこいい?」
聞かずにはいられなかった。どうしても私の方がかっこいいという確信がほしかった。
「えっと、それは、」
「それは?」
ドクン、ドクン。
「内緒」
「内緒かー、……」
内緒かー、ふぅー。とりあえず良かった。これでそのリンさんとかいう少女の方がかっこいいって言われなくて。でも、ということは、もしかしたら……
いや、そんなことより「内緒♥」可愛すぎない。絶対語尾に♥ついてたもん。
その後、少し雑談をした。
「そろそろ寝た方がいいね。ツルニは明日神杖の儀式だもんね。私も中等部の入学式だし。」
「うん、お姉ちゃん。おやすみ。」
「おやすみ。」
私は自分の部屋に戻った。ドアには立ち入り禁止と書いてあるボードがかかっている。
周りを見て、誰も居ないことを確認し、ドアを開けて素早く入り、閉めた。
部屋に入るとたくさんのツルニが居た。
ツルニの等身大のマネキンが数体。壁、天井一面にはツルニの写真が貼ってあった。
「ああ、ツルニ大好き。今日も可愛い。ああ、本当にツルニとずっと一緒に居たい。」
ツルニマネキンに抱きつき、キスしながら悶える。
今のアサはツルニの前では決して見せないどころか、友達の前でも見せたことがないとろけきった表情でツルニに抱きついていた。
「本当に可愛い、ああ、本物のツルニにもうあいたくなってきた、ああ。」
10分間ツルニマネキンを抱きしめ、次のマネキンに抱きつく。
1時間ほど繰り返し、ベッドに横になる。シーツにもツルニが印刷さているため、どこを向いて寝てもツルニが見える。
毎日一時間以上はツルニマネキンでツルニを感じるために抱きついたりしてから寝ている。
課題を自分の部屋でやると、自然とツルニマネキンに身体が吸い寄せられて全然進まない。そのため課題を終えるのが入学式前日になってしまった。
今日もいつも通り大好きなツルニに囲まれながら気持ち良く寝ようと目をつむる。いつもはツルニのことを考えていると、気づいたら寝落ちしているのだが、今日はツルニが話していた少女のことが思い浮かんだ。
ツルニを助けてくれたことにはとても感謝しているが、ツルニが私以外にかっこいいと思う存在であると思うとムカムカしてくる。それに、その少女のことを話しているツルニの顔はとても楽しそうだったことも私の心を締め付ける。
でも今まで私以外に興味を抱かなかったツルニが他の人に興味を持つことはいいことだと思う、思いたいけど、私だけのツルニのままで居てほしいとも思ってしまう。でも姉としては喜ばないと。でも……。
こんなことを考えている自分が嫌になってくる。私がこんなことを考えている、嫌な姉だと思われたらツルニに嫌われてしまう。
そんなことを考え、また落ち込む。器が小さい自分が嫌になる。
そんなことを考えているとだんだんと頭が回らなくなっていく。ツルニ大好き♥、そのまま眠りについた。
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