第1話 神杖の儀式前日 ⑶
私はツッチー・ツルニ。普通の家庭で生まれ育った、普通の少女だ。家族は母、父、姉、自分の四人家族だ。
私の姉であるツッチー・アサは、私の一つ年上の6歳。平民出身でありながらクウガス王国でトップ4に入る中等部への入学が決定している。大人相手にもびびることなく自分の意見を貫けるかっこいい姉である。
私と姉は二人でお店が並ぶエリアに買い物に来ていた。平民が住む住宅街の近くに存在するこのエリアには飲食店、本屋などの普通のお店から、奴隷商館、使い魔を売ってる店など幅広く存在する。
ツルニは本を買いに来ていた。ツルニはまだ5歳なので姉のアサが付き添いでついてきてくれた。
アサも6歳で一人で町に来るには子供だが、魔法の才能があり、すでにそこらに居る大人よりも強いことと、性格がしかっりしているため親からも一人で行動することを許されている。
魔法の才能があればすぐに平民の大人よりも強くなれる。そのため貴族の5歳以上で神杖の儀式を行った子には平民は悪さをできない。物理的に。
「それにしても今日はいい天気だね、ツルニ。」
アサはツルニの横で堂々と胸を張って歩いている。アサの髪は一つに結ばれているポニーテールで、その髪が歩くたびに揺れている。アサは美人で、目がキリッとしていてかっこいいという印象だ。腰あたりには杖を提げている。まるで女騎士のようだ。アサの杖はただの木の枝のような物ではなく、杖に金色の模様が入っている。
「うん、お姉ちゃん。」
「ところでツルニは今日何の本を買うの?」
私が欲しい本は先週販売だったが、先週は家族全員に用事があり外に出かけることができなかった。そのためこの一週間はその本のことばかり考えて過ごしていた。
今朝、母と出かけようとしていたら、姉のアサが課題が終わったということで母の代わりにアサがついてくることになった。
昨日までずっと本のことばかり考えていたのに、今はアサと一緒に町を歩いていることが楽しく、本を買うことはついでだと思っていた。
「え、えっといつも私が読んでいる「かっこいい女性への第一歩」の新しいやつ。」
アサの顔をチラチラ横目でみながら答えた。
アサはツルニの視線に気づいていないのか前を見ながら話す。
「ツルニはいつもあの本読んでるもんね。きっとツルニはかっこいい女性になれるよ。」
「うん。がんばる。私もお姉ちゃんみたいになれるように……」
ツルニの声はだんだんと小さくなり周りの音で消されてしまう。
「私みた?何か言った、ツルニ。」
「何でもない、お姉ちゃんはなにか欲しい本とかないの?」
「うーん、特に今はないかなぁ。本読んでる時間ないんだよねぇ」
慌てたようにいったツルニの質問にアサはいつも通りの口調で返してくる。
「やっぱり中等部の課題は大変なの?明日入学式なのに今日の朝まで課題やってたよね、お姉ちゃん。それなのにごめんね、私の買い物なんかに付き合わせて……」
ツルニの顔はどんどんと暗くなっていく。
「えっ、あ。」
アサが普段見せないような慌てた様子にもツルニは気づかず、ずっと足下を見ている。
アサは一度咳払いをしてから話し出す。
「大丈夫だよ、ツルニ。お姉ちゃんはツルニと買い物したくて頑張って課題を終わらせたんだから。」
「本当?」
顔を上げ、アサの顔を上目遣いで見つめる。
「当たり前だろ。こんなに可愛い妹と居たいのは当然のこと」
「お姉ちゃん、大好き。」
ツルニはアサに抱きつく。
「お、こんなところでしょうがないな、ツルニ。よしよし。」
アサは抱きついてきたツルニを優しく抱きしめ返し、頭をなでた。
ツルニはアサの胸に顔を埋めた。アサのキリッとしていた顔はだらしなくなっていた。
その後は雑談をしながら本を買い、昼食のためにレストランに入り、外の席でご飯を食べた。
「おいしかったね、お姉ちゃん。」
「そうだね。ツルニついてるよ。」
アサは身を乗り出しツルニの顔についていたソースを手で取り自分の口にその指を運びチュっとなめる。
ツルニはアサのその指の動きから目を離せなかった。ヤバい、今日もお姉ちゃんはかっこいい。私もあんな風になりたい。それなのに口にソースをつけているなんて恥ずかしい。でもお姉ちゃんのかっこいい姿が見られたから結果オーライ!
ツルニはアサの指に気を取られていて、アサの頬が真っ赤になり、目がトロンっとしていたことに気づかなかった。
「あれ、アサじゃん。ひさしぶり。」
「おお、本当じゃん。」
3人の女の子と一人の男性の集団が私たちに近づいてきた。その男性は背が高く大人もしくは高等部くらいの人だ。
「みんな久しぶり、卒業式以来。」
アサはキリッとしたいつものかっこいい顔に戻っていた。
「これから買い物に行くんだけど一緒に行かない?アサが来てくれればお兄ちゃんに付き添いしてもらわなくてすむし。」
4人の中の一人の元気な女の子がアサに提案してくる。
「私はいいけど、今日は妹ときてるから。」
「いつも学校で自慢し……」
いつの間にかアサは腰に下げていた杖を取り出し魔法を唱えていた。そして、目の前で話していた女の子は口を開けなくなっていた。
アサは冷たいまなざしでその女の子を見ていた。そしてその女の子が首を振ったのをみて、杖を下げた。
「う、ごめんごめん。」
別の女の子がツルニに近づいて話しかけてくる。
「ツルニちゃん、お姉ちゃんのこと借りてもいい?」
そこでやっとツルニは目の前にアサの初等部の友達が居ることに気づいた。これまでずっとアサの指を眺めていた。
「あ、え、お姉ちゃんですか。どうぞ。私は大丈夫なので。」
ツルニはとっさに答えた。
「え、本当?じゃあ、少しだけアサのこと借りるね。アサもいいよね?」
「う、……うん。」
「なんか間があったな。そんなに妹のこと……」
アサは再び杖を振っていた。
「それじゃあ、ツルニを家まで送ってくるから少し待ってて、みんな」
「お姉ちゃん、私は一人でも帰れるから大丈夫。明日から大変なんだから今日くらい楽しんできて。」
「で、でも……」
「大丈夫だから。じゃあね。家で待ってるから。」
ツルニは席を立ち、すぐに店から離れるように歩いた。できるだけ自分は一人でも帰れるとアサにアピールしたかった。それにアサにはいつも迷惑をかけているから、今日くらいは友達と楽しく遊んでほしかった。
自分の家がある住宅街の方向に歩いていった。今まで一人で歩いたことがなかったため少し怖かったがアサみたいに私はなるんだと思い、少しだけ胸を張り一歩一歩進んだ。
私が離れるときアサが、がっかりしていたような気がしたなぁ。そんなわけないか。一ヶ月ぶりくらいに友達と会ったんだからね。
きっとがっかりしてたんじゃなくて私を心配してたのか。心配してくれるのは嬉しいけど、自分がアサに心配をかけているのは少しだけ心が痛む。私も早くアサみたいに強い女性になりたいなぁ。
そんなことを考えているとお店が広がるエリアを抜け、住宅街に入っていた。
以前にアサに教えてもらった近道を思い出し、家と家の間の狭い道に足を踏み入れた。
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