第1話 神杖の儀式前日 ⑴
私は5歳になった。この5年間でこの異世界のことがかなり分かった。
この世界では魔法をどれだけ使えるかで身分が決まる。国をまとめる役員も全員が高位の魔術師である。そして魔法の才能はほとんどが遺伝によって決まる。
貴族の子はほとんどが親の才能を引き継ぎ、貴族としての地位を保持する。平民の子はほとんど魔法の才能がなく、平民として一生暮らす。
この世界では5歳になると神から魔法を使うための杖を与えられる。その杖に応じて魔力量や使える魔法の限界が決まる。
そのため神から送られる杖のレベルが低ければどれだけ努力しようが魔力量は増えないし、高難易度の魔法は使えない。逆に強い杖を授けられれば努力次第でどこまでも強くなれる。特殊な杖なども存在するらしい。
杖を授かる儀式「
そして、そこから一年間は全員が自分の家から近い学校に通い、基礎的な魔法などを学ぶ。その後は自分が進みたい学校へ進学する。もちろん、ほとんどの人がレベルの高い学校へ入ろうと努力する。
私は、サンス大陸のクウガス王国の王都に住んでいる。一応貴族らしいが、とても階級は低くほとんど平民と変わらない。
そして、私の名前はロコー・リンというらしい。前世で露光凜という名前だったので違和感なく自分の名前を受け入れることができた。それにしても異世界に生まれ変わっても名前がほとんど変わらないということがあるのだろうか、まるで神様のイタズラのようだ。いや、前世の記憶を持ってる時点で神様は私に干渉しているのだから、これも当然のことなのか?分からんけど。
そして私が赤ちゃんの時に抱えていた女性はロコー・ミステといい私の母親らしい。らしいというのも前世の記憶があるせいで、ミステさんを自分の母親と認識することが未だにできていない。
他の家族も居るが、そこまで私に関わりはない。というよりも私にとっては大事じゃない。
大事なのは私がゼータになりきってこの異世界を楽しめるかなのだから。
「リン、朝ご飯できたよ。」
「はーい、ミステ殿。すぐにいくでありんす。」
私は階段を音も立てることなくササッと降りる。階段を降りるとパンと野菜などの朝ご飯が準備されている。そこまで豪華というわけではなく、一般の平民が食べている朝食と似たような感じである。
「おはようでありんす、ミステ殿。今日もおいしそうなご飯でありんすね。」
「おはよう。そうでしょ、リン。」
今日もミステは元気に挨拶を返し、笑顔で話しかけてくる。
決して私の服装にも態度にも口調に関しても口を挟んでくることはない。
私の今の格好は真っ黒なゴスロリ衣装で、話し方も態度も一年前とは全く変わっている。
私は歩けるようになった2歳あたりからずっと「ゼータ」が着ていたようなゴスロリ衣装がないか町を探し回っていた。もちろんミステの買い物について行ったときなどに周りを見回す程度に。一人で探しに行くこともできたが、ミステに心配をかけるのも悪いと思い年相応の態度を取っていた。この頃はミステのことをママと呼んでいた。
私は基本的に恥ずかしがり屋だ。前世では「ゼータ」のコスプレをするまでは、幼稚園などで誰にも話しかけられず、いつも先生と過ごしていた。今世では前世の経験があるためそこまでの人見知りではないが、積極的に話しかけたりするほどではない。
私にはゼータになりきるという鎧がなければゼータのように堂々と行動することもできない。
ここで私の最推しの「ゼータ」がどのようなキャラであるか少しだけ説明しよう。まず特徴的なのは、ゴスロリ衣装で扇子を持っているところ。そして、一人称が「妾」で語尾が「ありんす」ということ。性格は自分のやりたいことに素直で残虐。自分を世界の中心だと思って堂々と優雅に行動する。そして、圧倒的に強く、仲間や駒となる部下もいる。
そのため私は自分を世界の中心と思い、堂々と優雅に過ごすためにも、まずは自分の恥ずかしさを隠すために、ゼータが着ているようなゴスロリ衣装を早く見つけなければならなかった。
3歳の頃、奇跡的に今着ている衣装に出会った。この衣装はまるでゼータが着ていた物を再現しようとしたのではないかと言うほどそのままだった。
その衣装をミステに買ってもらい、次の日からは私はリンではなくゼータとなった。初めはリンの変化に家族も驚いていたが、二年くらい経った今では何も言われない。
「そういえば、明日は
「そうでありんすね。」
「いい杖をもらえるといいね。」
ミステの顔はほんの少しだけ暗くなる。
ミステは後ろめたさを覚える。私たちがもっと魔法の才能がある大貴族だったらと思う。
ミステの家系は貴族であってもとても階級が低い。つまり魔法の才能がほとんどない。もちろん平民よりは多少才能があるはずだが、貴族の中では下の下だ。そのためミステの子であるリンも魔法の才能がほとんどないと言うことになる。希に平民などからすごい才能を持った魔術師が出ることもあるが本当に希なことだ。
「大丈夫でありんすよ、ミステ殿。いや、母上殿。妾が妾である限り、一番すごい杖をもらうのは当然でありんす。」
前世の私はキャラ「ゼータ」の口調や所作をまねるのに必死で、周りの状況をほとんど見られていなかった。そのため、アニメの中のゼータのように仲間を集めたりすることができず、「ゼータ」になりきることができなかった。
今世では、ゼータになりきるために計画的に、それでいてゼータのように自己中心的に行動しなければいけないと、この5年間で過去、前世を振り返った。
そのかいもあって、周りに意識を向けられるようになった。
まあ今はミステが落ち込んでいるのをどうにかしなければ。
私はミステが悲しんでるところを見たくない、だから言葉を発する。決して、ミステを心配してるのではなく、私がミステが落ち込んでいる状況を嫌だと思うから行動する。結果としてミステを励ますというだけ。
「妾はミステ殿の子でありんすよ。こんなに優しい母上殿は
前世の母の顔が思い浮かぶ。お母さんは今も元気に過ごしているのだろうか。私に最も優しいお母さん。
「ありがとう、リン。おかあさん元気になってきたよ。リンがこんなに優しい子に育ってくれてうれしいよ。」
ミステの顔はいつものような元気な顔に戻る。少し目元が潤んでいるが、これには気づかないふりをしておこう。私はキャラ「ゼータ」になりきるのに必死なのだから。
「当たり前でありんす。妾はミステ殿の子供でありんすから。」
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