【1万PV】異世界でアニメキャラになりきる二度目のオタクライフ ~妾は世界の中心でありんす~

ゼータ

プロローグ

***


 十字架に拘束された男がいた。

 男の手足と首は力が入らないのかブランとぶら下がった状態で全く動かない。

 男の足下には赤い池があり、1センチ程度の透明な物が10個以上浮かんでいた。

「フフフ」

 その空間には楽しさを含んだ不気味な笑い声だけが響いていた。


***



「おぎゃー、おぎゃー、……」


 私は目覚めた。私は誰かに抱えられていた。私を抱える女性はとても優しそうな女性だった。多分20代前半だろう。髪は真っ黒で肩くらいの長さで、顔も美人と言った感じだ。


「はー、良かった。無事に生まれて。あなたは今日からリンよ。」


 聞いたことがない言葉だったけど、理解できた。私は今の自分の状況が分からず声を上げようとした。


「おぎゃー、おぎゃー、」


 えっ、私は自分の声に驚いた。話せない。

 数分固まってしまった。


 気づかないふりをしていたが私はやっぱり赤ちゃんだった。そうだよね。だって自分の意思で動けないし、話せないし、女性の両腕の中にすっぽりと抱えられてるし。


 私には、たぶん前世の記憶がある。私は、露光ろこうりんで、日本で生きていた。私には将棋の才能があり、中学生でありながらプロ棋士のトップに立っていた。自分で言うのは少し恥ずかしいが、世界的な将棋ブームを起こすほどの人気があった。


 今はそんなことどうでもいい。私はこれからどうすればいいのだろうか。というか言語が違うということはここは外国なのか?なんでこの言語を私は理解できるのだろうか。まず、前世の記憶がなんであるんだ。分からないことだらけだ。

 もしかしたら若くして死んだから、神様が私にもう一度生きる機会を与えてくれたのだろうか。私は中学生の時に誰かに殺された。別に怒りがわいてきたりすることはないけど、たった一人の親友を一人にしてしまったことだけが心残りである。それ以外に関してはそこまで興味なかったからいいんだけど。

 いやそんなわけないだろ!


「おぎゃー、おぎゃー。」

「どうしたのリン、おなかすいてるの?」


 私のオタクグッズはどうなったんだー!私のラノベは?漫画は?アニメのブルーレイは?


「おぎゃー、おぎゃー」


 アクスタは?ポスターは?タペストリーは?え、わかんない、どういうこと?私が小学生から集めた物は?待って、マテ、ちょっと待って。


「おぎゃー、おぎゃー」

「リンちゃん、お乳だよ。」


 いやそこまでは最悪いい。お金さえ集めればどうにかなる。うん、これから取り戻せる。な、なんとかなる。なんとかなるよな?


「ふうー」

「やっぱりおなかすいてたのね。」


 直筆サイン入りの色紙は?ねえ、誰か教えてよ。直筆サインってどこで買えばいいの、マジで、本気で、ねえ、どこで?ブルーレイを何十個も買って、やっとの事でサイン会に当選して手に入れたサインは?SNSのキャンペーンで一人しか当たらないサイン入り台本は?どこにあるの?本当に待って。ねえ、マジで、ちょっ。


「おぎゃー、おぎゃー、おぎゃー。」

「あら、リンちゃん次はどうしたの?そんなに大きな声で泣いて。トイレかな?ちょっと待ってね」


 私を抱えている母親らしき女性は、私を支えながら右手に木の枝を持ち、オムツらしき物が入ってる袋に向けて枝、杖を振った。

 オムツが入った袋がプカプカと浮いてこちらにひとりでに向かってくる。完全に物理法則の範疇に収まってない。

 えっ、……

 魔法じゃん!ここ地球じゃないの、私のオタ活終わった……。


「おぎ、…………」

「ああ、リンちゃん漏らしちゃったのね。すぐに変えてあげるからね。」


 

 私の二度目の人生の舞台はまさかの異世界だった。新しい人生が始まると同時に私のオタ活ライフは終わりを告げた。

 母親らしき人はとても笑顔でこっちを見つめている。この顔を見ていると気持ちも落ち着いてくる。


 楽しめればいいかと思えてくる。

 それに全てが終わったわけではない。いやオタ活ができないだけなんだから当たり前じゃんとか言うのはやめてほしい。だって、私にとってオタ活が生きる理由の9割を占めていたといってもいいのだから。

 しかし、私にはまだコスプレが残っている。たとえこの世界の誰も知らないとしても、私の頭の中には一番大好きだったキャラである「ゼータ」の知識が残っている。


 私は前世でいつもゼータがきているゴスロリ衣装で、ゼータが持っている扇子を持ち歩いていた。そして口調や態度までもゼータのまねをしていた。


 この世界でもコスプレをして「ゼータ」になりきって生きていこう。魔法があるぶん、より本物のゼータになれるはずだ。

 


 楽しくなってきた!私はこの異世界で大好きな「ゼータ」になりきって生きていこう。

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