一晩の遁走

追求者

暗夜の導き



 深い森の中、月明かりも届かない暗夜が広がっていた。木々は高くそびえ、枝葉が密集しているため、星の光さえも遮られていた。静寂の中、ただ風が木々を揺らす音だけが響く。


 そんな中、一人の若者、タケルが入り込んでいた。彼の心には深い傷があった。その傷は大きくなりつい先ほどだった建物を飛び出してきたところであった。


 タケルは森の中をさまよいながら、過去の出来事を思い返していた。家族との争い、誤解、そして失われた絆。彼は自分の過ちを認めることができず、しかし、家族を責めることもできずに、ただ心の中で苦しんでいた。


 タケルが疲れ果て、倒れ込んだその時、突然、目の前に光が現れた。光は柔らかく、暖かいもので、タケルの心を包み込むようだった。光の中から現れたのは、神様のような存在だった。タケルは涙が溜まっていたため、姿かたちをはっきりとは捉えられなかったが。その声はよく聞こえた。


 神様は優しい声でタケルに語りかけた。


「あなたの心の傷を癒すために、私はここにいます。」


 神様はタケルに手を差し伸べ、彼を立ち上がらせた。タケルはその手の温かさ自身の冷たさに驚いた。


「気持ちはありがたいのですが、あなたには関係がありません。」


 タケルは自身の負の感情を伝達してはいけないと考え、神様を避けた。


「そんなことはありませんよ。あなたを手助けするためにここにいるのですから。」


 その言葉に、タケルの心は動かされた。普段のタケルならばなんということない言葉だが、今のタケルの心はすでに限界を迎えていたのか、乾き始めていた瞳がまた水分を含み始めた。


 神様はタケルに、過去の出来事を一つ一つ振り返らせた。タケルの心には、家族との争いの記憶が鮮明に蘇ってきた。父親との激しい口論、母親の悲しげな表情、そして弟との誤解。タケルはその時の自分の言動を思い返し、胸が締め付けられるような痛みを感じた。


「どうして、どうしてあんなことを言ってしまったんだ…」


 タケルは涙を流しながら呟いた。


 今思い返せば、とても些細な事でくだらないこと。しかしその程度のことが家族との仲を引き裂いてしまったという現実を前に、彼の心には、家族への愛と後悔が入り混じっていた。


 神様はタケルの肩に手を置き、優しく語りかけた。


「タケル、あなたの心の中は澄んでいます。それを信じなさい。それが和解への道を開くのです。」


 タケルは神様の言葉に耳を傾け、自分の心の中を見つめ直した。彼は家族への愛を再確認し、過去の過ちを認める勇気を持つことができた。タケルは涙を拭い、深呼吸をして心を落ち着けた。


「家族に謝りたい。そして、もう一度絆を取り戻したい。」


 タケルは決意を新たにした。


 神様は微笑みながら頷いた。


「その気持ちがあれば、必ず和解できます。あなたの心の中にある愛と許しの力を信じなさい。」


 タケルは神様の言葉に励まされ、心の中で家族と和解することができた。彼は自分の過ちを認め、家族への愛を再確認したことで、心の中に平和が訪れた。


 神様の導きにより、タケルは心の中で家族と和解することができた。暗夜が明け、朝日が差し込むと、タケルは新たな希望を胸に、家族の元へと帰る決意を固めた。彼は森を抜け、家族の待つ家へと向かった。


 タケルが家に帰ると、家族は彼を温かく迎え入れた。彼は涙を流しながら、家族に謝罪し、和解の言葉を述べた。家族もまた、タケルに謝罪し、再び絆を取り戻すことができた。




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「全く...世話の焼ける兄だこと」


 タケルの神様は自室で一人つぶやいていた。


「けどまあ、不仲になるよりはよかったかな...」


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