第9話 深夜街を見下ろす月

「シンヤちゃん、色々と片付いたから街に戻ってくるみたいよ。」店で心配そうな顔をしている僕を見てか、チョウさんが優しく声をかけてくれた。


「良かった、シンヤさん元気ですかね。」


「大丈夫よ、あの子はとっても強い人だもの。」


「ありがとうございます。おかげで元気出ました。」僕はチョウさんに微笑む。


「ヤダかっこいい♡」


「シンヤさん、って?」ブラックベリーの乗ったパンケーキを食べている月宮さんが、質問する。


「ライトくんのお友達で、ライトくんはその子の家に住んでいたのよ。」


「でも、カクカクシカジカでそこに居られなくなっちゃって、移住先が見つかるまではパトローラーの管理するマンションに住んでるんですよ。」


「そっか…、…私のうちにくる?」月宮さんが冗談を言うところを初めて見た。声のトーンが冗談に聞こえないが。


「あはは…さすがに迷惑になっちゃいますよ。」


「月宮ちゃんがいいなら良いんじゃないかしら、ライトちゃん。」


「…食費とかで倍、お金とかかかっちゃいますよ……?」


「私、家がお金持ちだから、大丈夫、」月宮さんは毎回おしゃれなドレスを着て来るため、もしやとは思っていたが、お嬢様…いや、女王様だったようだ。


「私、ライトくんのお仕事終わるまで、ここで待ってるから、」


お金もちの家、すっごく面白そう。


 仕事を終わらせ、月宮さんの高そうな黒い車に揺られ、15分ほど木々の茂る街の外へ走ると黒を基調とした豪邸と呼べるような三階建てのゴシックな家に着いた。家の周りには庭があり、紫や黄色の花畑がいきいきとしている。


「おいで、家の中も見せてあげる、」


茶色の大きなドアを開けると、日本とは違うテイストの内装が広がっている。正直普通の一軒家で暮らしてきた僕には高級感が高すぎて暮らしづらそうだが、幻想的で美しい家だと感じた。


「素敵な家ですね。でも…」

「…?」

「ここに住んだら…もうあの街には戻れないんですか?ここの子になっちゃうから…シンヤさんに会ったり、チョウさんのところで働いたり…できないんですか?」すらすらと話が進んでしまったが、あの街、深夜街から出た今、もう働く必要もないから縁は切れてしまう。もうあそこには行けないんじゃないかという気がした。


 月宮さんは、何だそんなことかというような笑顔で「何を言ってるの…?ここに住んでも、チョウさんのとこで、働いていいんだよ?それに、安心して住める家があったら、シンヤさんにも会いやすくなるでしょ。私は、ライトくんのしたいことをできるように、応援してるから。」月宮さんの優しい言葉に涙が溢れた。


僕の非日常的であったかい日常は、今日も続く。





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思いつきで始めたお話で、途中ネタ切れしたり、試行錯誤しながら作っていったため、少しやりきれなかった感もある。そんな初めての長編小説でしたが、完結し、自分の予想に反して読者がたくさんついて嬉しかったです。


もしこのお話を気に入ってもらえたら、二次創作とかも作ってもらえたら嬉しいです。


次作はバックルームや8番出口に影響を受けた感じのリミナルスペース系の作品を作ろうと思っています。

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深夜街の蝶【完】 【再掲】 猫山鈴助 @nkym5656szsk

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