第5話

「あの時のヘイトみたいになっちゃうよ。


ほら、急いでここを離れよう」


ラーツさんの言葉にわたし達はその場を急いで離れた。


後ろで守兵がわたし達を探しているような大声が聞こえたが、無視して走る。


「ふぅーー、ここまで来りゃとりあえずは大丈夫だろうさ。でもさ顔を見られちゃったかもしれないね。


座長に言って早く街を出たほうが良さそうだ」


何本目かの路地を曲がり追い掛けてくる奴らがいないか確認する。


どうやら大丈夫そうだった。


わたし達は急いでテントへと戻る。


「おやラーツとカーツ。もう買い出しは終わったのかい?」


「ミーシャさん、それどころじゃないんです。


カーツが引ったくりの仲間に間違われそうで……」


「カーツが!?どうして?」


あたふたするわたしを横目にラーツさんが説明してくれる。


「なるほどね。たしかにわたし達は余所者だから、そうなる可能性が高いわね。


さっきも領主に早く出ていけって怒鳴られたばかりだし……」


「全くだ!正規の税以外に袖の下までたっぷり受け取ったくせにあの言い草だからナ」


いつの間にか現れたラック座長も虫の居所が悪そうだ。


「とにかく早く出たほうが良さそうだよ!


野次馬の中にはカーツに気付いた人もいたみたいだし………」


「今回の公演ではカーツが一番人気だったんダ。あり得るナ」


ドン!ドン!ドン!ドン!


「旅芸人一座!お前達の中で引ったくり容疑が掛かっている奴がいる!


素直に差し出せ!」


「もう来やがったカ」


「とりあえずカーツを隠そう。

カーツ!裏へ」


ラック座長に促されテントの裏にある獣舎へと移動する。


その間も激しくドアを叩く音と怒号が収まる気配は無かった。




「やれやれ。


おい!我が団員を盗人呼ばわりとはどういう了見ダ!」


激しく叩かれるドアをラック座長が開くと、守兵ふたりが押し入ってくる。


それを巨大な身体で受け止めると、闖入者は戸惑いを見せてドアに入ったところで立ち止まった。


「我々はアルファルド守兵隊の者だ。


犯罪者を匿うと容赦せんぞ!」


「犯罪者とはどういうことだ!何か証拠でもあるのカ!」


座長の威圧的な言葉に、若いふたりの守兵は思わずたじろいでしまう。


「い、いや、そ、その……」


「なんだその態度ハ!我らが旅芸人一座だと知ってそういう態度を取るのカ!えっ、どうなんダ!」


なおも高圧的に言い募るラック座長にしどろもどろになってしまった。


「ラック、そのへんで許してやって欲しい」


開いたままのドアの外から少し嗄れた声が聞こえた。


頭を掻きながら姿を見せたのは、わたし達がアルファルドの門を潜った時に対応してくれた、壮年の守兵であった。


「ミーシャすまんな。


こいつら、ろくすっぽ調べもせず周囲の言葉に流されおって!

全く街を守る守兵として恥ずかしい話だ!」


テントの中央にある大きなテーブルに壮年の守兵イーグルさんと若い守兵ハービスさんとエントさんが並んで座っている。


反対側にはラック座長とミーシャさん。そして何故かわたし。


ミーシャさんは6人分のお茶を入れた後、そのままわたしとラック座長の間に座った。


「イーグル、それでどうするんダ?」


「あぁ、最近この街でも引ったくりだけでなく強盗や誘拐なんてもんまで流行ってるんだ。


なんとかしたいんだが、奴らスラムで集めた子供達を使って犯行に及ぶんだ。


いくら末端を捕まえたところで、何も教えられてねぇんだよな。


ふぅ~、全くお手上げだぜ!」


イーグルさんはお茶をグイッと飲み干し大きなため息をつく。


ニコッと笑ったミーシャさんがお茶を注ぎ足してあげているが、目は全く笑っていない。


それを敏感に感じ取ったハービスさんとエントさんが更に縮こまり、プルプル震えているようだ。


「だからって俺達に喧嘩を売る必要はねえよナ」


「だから、謝ってるじゃないか。お前に喧嘩を売ろうなんて奴はお前の昔を知ってる奴等じゃありえねぇ」


困ったなぁと呟き、またため息をついている。


「で、どうするんダ?」


「今のところ打つ手なしなんだ」


「難儀なこったな。

目星もねえのかヨ」


「無くもない。だが、証拠がねえんだ」


「ほう、その話聞かせロ」


クセなんだろうか、頭を掻きながらイーグルさんが説明してくれる。


わたしは話しの半分も理解でき無かったけどね。

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