第4話
「カーツ、買い出しに行くわよ」
「はーーい」
昨日で最終公演も終わり、今日と明日は休息と買い出しの日となっている。
公演中はアルファルドの冒険者ギルドでの依頼をこなしていた護衛の冒険者チーム『銀の鈴』の面々も戻って来て、武器の整備や装備品の補充を始めているし、ラックさんとミーシャさんは領主様のところへ挨拶に行ってる。
ラーツさんとわたしはこれからの旅に必要な物資の買い出しに市場へ行くところなの。
ラーツさんは以前もアルファルドに来たから、市場の場所も覚えていて、迷わずに行けるみたいね。
わたし達が到着したのは北側にある第3市場ってところ。
アルファルドには街の東西南北に大きな市場があって、テントから一番近いのがここだったみたいね。
見上げるほど高くにある大きな看板の下には城壁みたいな巨大な門があって、そこを抜けると、プ~ンって魚の生臭い臭いがしてきた。
さすがはユーミナル王国第2の都市アルファルド。
近くの海辺の街から新鮮な魚介類が毎日運ばれてくるみたいで、新鮮な魚達が並んでいる。
「次に行く街は海産物が有名なところだから、魚はパスね」
店先で焼かれている魚の匂いに釣られそうになるけど、じっと我慢、我慢。
次は肉屋が並んでいるみたいね。
店先に鳥やブタ、牛や魔物の絵が掛かっている。
「最近はフライスカウの塩漬けばかりだったから、新鮮な肉が食べたいわね。
今日の晩ごはんの買い物も頼まれてるから、これを買っていこうか」
いつもより大入りだったせいで、ラーツさんも多めに預かっているみたいで、美味しそうな肉を次々とカゴに入れていく。
「カーツは何が良い?今回の公演はあんたの雪だるまのお陰で大儲けだったんだ。好きなモノを言いなよ」
初めてそんなことを言われたから、どうして良いか分からず目を白黒させていると、ラーツさんがニコッと微笑んで、「あんた、鶏肉のニンニク炒めが好きだったよね。
よし、このお高いのを奮発してやろう」って言うと、「おばちゃんこれ300ね」って買ってくれたの。
肉を買った後、更に奥へと進んで行くと、薬草や乾燥野菜なんかを売っている店が並んでいた。
必要なものを買い足して更に進むと少し開けた場所に出る。
そこを囲むように食堂や売店が軒を連ねていて、真ん中には休憩用のテーブルや椅子が並べられている。
「キャーー!引ったくりよーー!」
人混みの中を通り抜けようと足早に歩いていると、女性の悲鳴が聞こえた。
人混みで悲鳴の場所は分からなかったけど、近くなのは間違いない。
「いてっ!」
「痛っ!」
声のした方を探していると、前から誰かが突進してきた。
人混みから急に出てきたものだから、避けることも叶わず、正面衝突してしまう。
わたしの身体は大きく後ろに流されたけど、ラーツさんが素速い動きで支えてくれ、なんとか倒れずに済んだ。
だけど当たってきた男の子はそのまま後ろに吹き飛ばされて背中を強く打ってしまったようで動かない。
「大変だわ」
思わず彼に近寄り助け起こそうとすると、ラーツさんに止められた。
「カーツ止めな。こいつは引ったくり犯だよ。
ヘイト達みたいになりたいのかい!」
わたしは返す言葉も無かった。
だってちょっと前にわたし達フリーダム一座に振りかかった災難を思い出したから。
それはアルファルドの前に居た街のことだった。
公演を始めて1週間ほど経ったその日、久し振りの休日とあって、男の人達は連れ立って酒場に出掛けていた。
夜も更けてホロ酔い気分のラック座長とアームさん。
そしてふたりを支えながら歩くヘイトさん。
アームさんが酔いに任せてふらっと入ってしまった魔道具屋でそれは起こってしまった。
閉鎖的な街のこと、旅芸人のような下賤な余所者を快く思わない店主は3人を苦々しい思っていたのだろう。
酔ったアームさんが高価な魔道具を壊さぬよう、ヒヤヒヤしながら彼について回っていたヘイトさん。
そんな時、アームさんの手が魔道具に当たり、棚から落ちそうになる。
慌ててヘイトさんが受け取り、落下の危機を免れたのだけど、その様子を見ていた店主は、それを万引きだと断定してしまった。
「何しやがる!万引きしようたって俺の目は誤魔化せねえよ!」
魔道具を持ったヘイトさんの手を勢い良くカウンターから走り出て来た店主が捩じ上げる。
「こい!突き出してやる!」
すごい剣幕で怒鳴っている店主に対し、アームさんが殴り掛かった。
アームさんにしてみれば仲間のヘイトさんがやられているのだから、正当防衛なんだけど、そんなに簡単な話しじゃ無かった。
慌ててラック座長が止めたお陰で、アームさんが殴ることは無かったのだが、その騒ぎに駆け付けた守兵達に3人共取り抑えられ、牢屋に入れられてしまったのだ。
結局、3日後にミーシャさんがその地の代官様に掛け合って釈放してもらえたのだが、そのままその街で公演を続けられるはずも無く、追い出される形でその街を出てしまったのだった。
下手に関わるとわたし達まで仲間だと疑われるじゃないか」
差し出し掛けた手を思わず引っ込めてしまう。
そうだった。わたし達は流浪の旅芸人一座。
どこに行っても邪魔者扱いされてしまう異分子。
あの時、ヘイトさんは万引き犯と疑われて危うく処罰されるところだった。
わたしの脳裏には1ヶ月前の光景が蘇る。
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