第3話
アルファルドの街に着いて2日目、早朝から起き出して、朝食の準備を始める。
朝食はわたしが作ることになってるの。
乾燥させたトウモロコシを少しの塩で茹でたスープと、パンの実をスライスして竈で焼いたものだけだから、30分もあれば、はい完成。
このパンの実って果物は乾燥地帯で採れる木の実なんだけど、長期保存が効く上に、焼けば小麦で作ったパンに似た味になるのよね。
料理が完成した頃、ミーシャさんが起きてきた。
「カーツ、おはよう。
いつもご苦労だね。
おっ、今日はハウベリーのジャムもあるじゃないか!」
「おはようございます。ミーシャさん。
昨日八百屋で見付けたんで買って作っておいたんです」
「はーー、カーツはよく気が付くね。
ハウベリーは滋養が付くからねえ。皆んな初日から頑張れるよ。ありがとね」
にっこり笑うミーシャさん。
ハウベリーの実なんてそんなに高いもんじゃ無いんだけど、フリーダム一座のメンバーは皆んな訳アリみたいだから、これだけでも充分喜んでくれるんだよ。
ミーシャさんと一緒にテーブルに並べていると、皆が続々と起きて来る。
昨日遅くまで呑んでたラックさんやアームさんの姿は見えないけど、これはいつものことだから気にしない。
「さぁ、カーツの作ってくれた朝食。ありがたく頂くよ」
ミーシャさんの掛け声で朝食開始。これもいつものこと。
「カーツ、これはイケるよ」
「ほんと、身体が元気になった気がするわ」
ハウベリーのジャムも好評で良かったわ。
朝食を終えて興行の準備をしているとラックさんとアームさんがのそりと起き出してきて遅い朝食をとっている。
「カーツ、これはどうだい?」
ミーシャさんの声に振り返ると、彼女の手には何やら白くて丸いものが……
「昨日さぁ、雪だるまが大ウケしてただろ。
だからね、今日の玉乗りの時はこれを被ったらどうかと思って、昨日の晩作っておいたのさ。
別に嫌なら着なくても良いんだよ」
舞台でわたしが乗る大玉よりもひと回り小さい玉でちょうどわたしが屈んだ時と同じくらいの高さになってる。
ミーシャさんから受け取り、頭から被ってみると、思ったよりも軽いし、あんまり邪魔にならない。
それに小さな穴がたくさん空いてるから、前が見えないこともなく、案外イケる。
それにこれならお客さんの視線を気にしなくて良いから芸に集中出来るかも……
「ちょっと試してみます」
わたしは大玉を舞台の上まで持ってきて、その白玉を被ったまま大玉に乗ろうとした。
バランスを崩して失敗。
軽くても、立ったままだとバランスをとるのが難しい。
何度目かの挑戦で上手く大玉に乗ることが出来た。
ゆっくりと膝を曲げて屈み込む。
大玉と白玉の隙間はほんの僅かだから、観客席からは本当に雪だるまに見えるかもね。
その後も屈んだままで玉乗り芸をやってみる。
わたしって、結構センスあるかも。
案外上手く乗れている。
「ワッハハハ!まるで本当の雪だるまみたいだね。
これで大玉を白く塗ったら、余計にそう見えるよ。
まだ少しぎこちないし、行動範囲も限られるから、芸の内容は変えなきゃだけど、こりゃ大ウケしそうな予感がするねーー」
ミーシャさん、楽しそう。
そして3日が経った。
今日は雪だるまの初お目見えの日だ。
真っ白に塗られた大玉と可愛い目の付いた白玉。
鼻と口は薄く切った墨が貼られていて、表情も可愛い。
「さぁカーツ、出番だよ!頑張って行っといで!」
ミーシャさんやラーツさんが満面の笑みで送り出してくれる。
大きく頷いてから白玉を被り、慎重に大玉に乗ったわたしは舞台へと出ていった。
「あーー!雪だるまだ!お母さん、雪だるまだよーー!」
宝物を見付けたような嬉しそうな子供達の声が客席から聞こえる。
「ホントだね、この前ビラを配っていた雪だるまさんだね」
目新しいわたしの格好にお母さん達も何が起こるのかと興味津々なんだろう。
楽しそうな声が聞こえてきた。
これまでのわたしなら、期待に応えられるか不安で萎縮してたと思う。
だけど雪だるまなら大丈夫。
まるで緊張しないどころか、逆に楽しめているのよね。
舞台を動き回るだけじゃなくて、ジャンプだっていつもより高く跳べてるみたいだわ。
そして最後の演技を終えて正面を向くと、客席からはラーツさん達にも負けないくらいの大きな拍手が鳴り響いていた。
玉乗りが綱渡りと同じくらいの拍手をもらえるなんて信じられる?
嬉し過ぎて、そのまま連続ジャンプで舞台袖に戻っちゃった。
「良かったぞカーツ!」
「ええ、本当に。フリーダム一座に新しいスター誕生だわね」
「たしかに!俺達は大人受けは良くても子供受けする見世物が少なかったからナ。
ますます稼げるゼ」
ラック座長もミーシャさんも満面の笑みで迎えてくれた。
わたしも初めて達成感っていうのかな、充実した感情が次から次へと湧き出てきて、楽しくて仕方無いの。
前にラーツさんが「演技の後は昂揚するのよね」って言ってたけど、たぶんこんな気持ちのことなんだろうかな。
それからわたしの演じる雪だるまは子供達を中心に大好評で、連日全ての公演が大入りになるくらいに賑わった。
出番も最初は5分くらいだったのに、今では20分に増えている。
それに伴い、新しい演技を覚えるのが大変で、これまでに無い忙しさと充実感を感じているの。
そして日々は流れ、後3日でアルファルドの街を離れる日、事件が起きたのよ。
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