第2話
王都アルファルドに到着したわたし達旅芸人フリーダムの面々は、早々にテントを張り終えて、ビラ配りの真っ最中。
大声で注目を集めるミーシャさんはもちろん、美貌で目を引くラーツさんやアームさん目当てに老若男女がわたし達の行進を見学している。
10年前にフリーダムの公演を見た大人達は、懐かしそうな眼差しを向けているし、子供達は初めて見る珍妙な行列に目を白黒させている。
とにかく目立ってるんだよね。
あまり目立ちたく無いわたしは最後尾で背中を丸めてるんだけど、横を歩くヘイトさんの巨体にも注目が集まり、その目は必然的に隣を歩くわたしにも向けられる。
あ~なんでわたし玉乗りなんかしてるんだろ。
よく考えたら目立つよね。
ミーシャさんが「こんな変わった奴らをばかりの中で普通にしてたら余計に目立つよ。玉乗りしながら行進しちゃえば」って言うから真に受けちゃった。
どう考えても玉乗りしてる方が目立つよね。
なんであの時気付かなかったんだろ。
気持ちが滅入ってくるとますます下を向くようになり、自然に背中が丸くなる。
「雪だるまさんみたい!」
何処かで子供の声が聞こえた。
何?
「ホントだ雪だるま、雪だるま」
「雪だるま!雪だるま!」
なんか雪だるまコールがあちこちで起こってる。
「カ、カーツ、君のことみたいだよ」
ヘイトさんが珍しくわたしに話し掛けてきた。
久しぶりにヘイトさんの声を聞いた気がする。
「わ、わたし?」
「き、君の丸めた背中が頭で大玉を身体に見立ててるみたいだね」
「えっ!」
驚いたわたしが少し大きな声を出すと、ヘイトさんはそれっきり話さなくなってしまった。
「雪だるま!雪だるま!」
「雪だるま!雪だるま!」
雪だるまコールは続いているけど、耳まで真っ赤になったわたしは、結局最後まで雪だるまになっていたようだ。
「いやぁ~、すっかりカーツに美味しいところを持っていかれちゃったな」
「内気なカーツでも玉乗りならウケると思ったんだけど、予想外のところで宣伝効果があったもんだね〜」
テントに戻って来てから雪だるまのことで皆んなにいじられちゃったよ。
お日様が少し山に姿を隠そうとした頃、料理が運ばれてきた。
今日の料理番はヘイトさんと護衛の冒険者チーム『銀の鈴』リーダーのマークさん。
気弱なヘイトさんとは対照的に陽気でしっかり者のマークさんなんだけど、すごく気が合うみたいで、よくふたりでいるところをみる。
ふたりとも料理が好きみたいだから、今日みたいに皆んなが忙しく動き回る日は、料理番をかって出てくれるんだよ。
皆んなの話しじゃ、『銀の鈴』は有名な冒険者チームらしいのよね。
だから、冒険者ギルドがある街に着くと、報告に行かなきゃいけないらしい。
本当ならリーダーのマークさんが行くのが普通なんだけど、マークさん嫌がるんだよ。
だから、副リーダーのユリアさんがいつもギルドへ行ってるのよね。
どうしてそんなに嫌がるのか分からないけど、大人には色々あるってミーシャさんが言ってたから、そんなもんだと思ってる。
料理がテーブルに並び出したから、慌てて取り皿やカトラリーをテーブルに置いていく。
5つほどの大皿が即席の大机に並べられたら、皆んな着席して合掌。
いつのまに戻っていたのかユリアさんもわたしの前で手を胸の前で合わせてお祈りしている。
わたしは手のひらを合わせて指を揃えて立てるスタイルで「いただきます」とつぶやく。
皆んなあちこちから集まっているから、信じてる神様も違うし、食事前の挨拶もバラバラ。
でもね、これがフリーダムの形なんだって。
皆別々の人間なんだから人に合わせる必要なんて無いんだっていうのがラック座長の考え方なのよね。
だから、一座の名前もフリーダムらしいんだ。
もちろん人としての最低限のルールは当然だし、そこがしっかりしていないと、フリーダムには入れないんだってミーシャさんが言ってたな。
今夜の夕食は久しぶりに新鮮なサラダとステーキだ。
新鮮なサラダなんて、野宿じゃ手に入らないもの。
ステーキはこの街に来る途中で襲ってきたモンスターから剥ぎ取ったお肉。
食べてみたら口の中にあーーまい脂がこれでもかって拡がって、美味しいのなんのって。
なんとかカウって言う名前らしいんだけど、街道を走っていたわたし達の馬車に突っ込んで来たんだよね。
こんなの初めてだったから、本当に怖かった。
だけど皆んな無関心っていうか平気なのよ。
ひゃーー!って思わず叫んじゃった。
そしたら馬車の上から何か黒い影が飛び出したと思った瞬間、牛のモンスターは馬車の少し手前でバタン!って倒れちゃった。
そしてその横にはマークさんの明るい笑顔。
そう、黒い影の正体はマークさんだったんだ。
その後、わたし以外の全員が各々の刀を持って倒れているモンスターに近付き解体を始めた。
その光景に我を取り戻したわたしも急いで参加したわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます