わたしは道化師

アルファルドにて

第1話

ユーミナル王国第2の都市アルファルドへと続く長い街道を異様な馬車の隊列がゆっくりと進んでいた。


異様とは、王族が乗るようなその巨大さもそうだし、派手な色で塗りたくられた外壁や、窓からのぞいている異国の動物達も、異様という表現に相応しいだろう。


しかも1台でも目を引く馬車が6台も連なっているのである。


アルファルドを出発し、街道を急ぐ他の旅人達は、正面に現れたその異様な隊列を見て、皆恐れ慄き街道を外れて息を潜めているのだった。


幼子は母親の手を握り震えながらもその奇抜な色彩に目を離せないでいるし、目の良い者は初めて見る巨大動物に卒倒するものまでいた。


そういった者達を知ってか知らずか、隊列は何も無かったかのようにのんびりとアルファルドに向かって進んでいく。


そして自分の前を無事に通り過ぎてくれたモノを確認した旅人達は、安堵の表情を浮かべて、それぞれの目的地に向けて街道を急ぐのであった。





「カーツ、そろそろアルファルドに着くよ。降りる準備をしときな」


「はーーい、ラーツさん」


馬車の窓から初めて見るアルファルドの巨大な城壁を呆然と眺めていたわたしは同じ旅芸人のラーツさんに声を掛けられて我に返る。


フェラルド村の孤児院とその周辺しか知らないわたしにとって、まだ2ヶ月間ほどでしか無いこの初めての旅は驚きの連続であったし、この大きな城壁の向こう側に広がる都会への好奇心は胸を高鳴らせて仕方がないのだ。


城門を抜ける際に検問の若い守兵達が驚きの眼差しをこちらに向けているのがわかる。


小さな町や村を通過する際に何度か見た光景なので、馬車の中からにっこりと微笑み返す。



「そうか前にフリーダム一座の連中が来たのはもう10年も前だもんな。お前達は知らなくても仕方無いか。


あれはな、この世界を気ままに渡り歩いている旅芸人のフリーダム一座だ。


この街でしばらくテントを張るって言ってたから、お前達も見に行くと良い。


面白いぞ」


馬車が通り過ぎる時に壮年の守兵の声が聞こえた。


隊列の異形さと可愛らしい笑顔のコントラストに微妙な表情を浮かべる兵士達に見送られ、フリーダム一座の隊列は城壁の内側にある周回道路を進み、目的地となる広場へと向かって行った。



「さぁオメェら着いたゼ!

早速テント張りを始めやがレ!」


ラック座長の怒号が飛び交う。


酷い訛りは生まれた時からあちこちを周っているからだそうだ。


それにこの怒号が本当に怒っているものでないことも、ラック座長と1番付き合いの長いミーシャさんから聞いている。


ミーシャさんはこの一座のマネージャーで金庫番。


5歳の頃にラック座長の父親である先代団長に拾われてからラック座長を兄のように思って育ったそうだ。


戦災孤児として行倒れするしかなかったミーシャさんにとって、ラック座長は唯一の肉親とも呼べる存在だって言ってたっけ。


猛獣使いのアームさんと奇術師のヘイトさんが重いテントを引き摺り出して器用に組み立て始めると、護衛してくれている冒険者チーム『銀の鈴』のメンバーがせっせとペグを打ち込んで設営してくれている。


そしてわたし達女性陣はチラシを仕分けたり、街を練り歩くための衣装を準備したりと大忙しだ。


「よし、あらかた準備はできたナ!


ビラ配りに行ってきやがレ」


ラック座長の掛け声で、わたし達は片手で抱えられるだけのビラを持って、街の中央へと歩き出した。


「さぁあ、さぁあ、さぁあ!


皆様お待たせして申し訳なかったねぇー!


フリーダム一座10年ぶりのアルファルド公演だよーー!


次はいつになるか分からないからねぇー


家族揃って見においでよーー!」


ミーシャさんのがらっぱちで陽気な声が大通りに響くと、何があったのかと、続々と人々が顔を出す。


男達は花形綱渡り師ラーツさんの均整の取れたグラマラスボディに釘付けだし、体調3mはあろう巨大な虎に跨って美貌を振りまき、女達の視線を一心に集める猛獣使いのアームさんも大きく手を振りながらビラを撒いている。


わたしはといえば最後尾を大男で奇術師のヘイトさんと背中を丸めながらオドオドとついて行くばかりなのよね。


目立ちたく無いから「最後尾で」ってお願いしたんだけど、ヘイトさんの身体が大き過ぎて、むっちゃ目立ってしまってるんだもん、恥ずかしくて恥ずかしくて顔を上げれないよ………

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