04
次の日。
女店員に怪しまれながらも、おれはアダルトコーナーに息を潜めていた。今日はどんな乳にも、おれは反応できそうにない。そう感じつつ、昨日と同じルートでエロの巣窟の最深部へと向かう。それぞれの色々な乳がおれにアプローチしてくる。しかし、そんなものよりも、もっと気になるものがある。
企画もののおねえさんが踊っている角を曲がる。
あ、いた。
まっすぐ伸びた黒髪が、静かに景色に溶けていた。昨日よりも、さらに切なさを増した彼女の表情がいっそう美しい。大きな目を細めて、あんなにエロいもの見て、彼女はいったい何を思い描いているんだろう。ときどき訪れる、激しい衝動。朝でも夜でも、教室でも、おれのことなんてお構いなしに、突き抜ける。そんな生臭い体験を、きっと彼女がしているわけでもないのに。
彼女もまた、昨日と同じく、端から順にパッケージをむさぼっていき、やがて真ん中あたりで手が止まった。やっぱり、これだ。といった表情で、パッケージをつかみ取り、おそらくエロを嗜んでいる。
彼女の瞳。
整列した睫毛が、底のみえないほどの庇をつくる。その瞬きをみていると、まるで古くて精巧な時計みたいだと思った。規則正しく、静かに、それでも確実に時を進めている。
おれは背後からそっと近づいた。この小さな身体に、自分の身体が重なることで、簡単に彼女が隠れてしまうということが、ひどく恐ろしい。ほんとうは委縮しきっているのに、その態度とは反対に、おれの衝動はいつまでもやまない。
「その作品、好きなんだ?」
自分の声が細く響いた。
また、逃げられるかもしれない。そう思ったが、こんな女の子をエロエロなジャングルに野放しにしておくわけにはいかない、なんて、身勝手な発想に急に至った。
でも、助けるとか、気をつかうとか、そういうわけではない。自分でも、自分の感情がよくわからなかった。とにかく、おれはこの異質な空間で迷子になってしまっている。
彼女が、はっ、と声をあげて、即座にパッケージを元の場所に戻した。
振り向いた彼女は、また困惑した顔を浮かべたが、次の瞬間には少し強気の目つきになり、眉間に皺をよせ、声を荒げた。
「……なんなんですか!」
彼女が叫んだ瞬間、いくつも視線が目の前で焦点をつくった。そうだ、こんな場所で、こんな高い声はあまりにも不釣り合いだ。
そうか、こんなにも人がいたんだ。
今まで視界に入っていなかった、野暮ったい男たちの姿が目に入る。彼らは、女の子とは無縁に生きてきたのかもしれない。そう思うと、なんだか彼女をいますぐこの場から連れ去りたくなった。この感情は、きっと身勝手なものじゃない。
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