廃村の不死者
雲依浮鳴
廃村の不死者
黒城:不問。(くろしろ)。高校1年生。女性の恋人がいる。モデルは男性だが、女性で演じても良い。
東野:不問。(ひがしの)。見た目は20後半。表情筋は動かない。フリーター。モデルは男性だが、女性で演じても良い
※女性で演じる場合、語尾を言いやすい形に変えて頂いて大丈夫です。
作:雲依浮鳴
Ver.1.10
ー本編ー
黒城:お久しぶりです、先生。
東野:ん?あぁ!久しぶりだね。本当に来るとは思ってなかったから驚いたよ。
黒城:人の事を呼んでおいて、来ないと思ってたんですか?
東野:あんな置き手紙だったからね。
黒城:あんな置き手紙だったからです。何ですか、『高校生になって最初の夏に、自分がまだ特別な存在だと感じているならここを訪ねなさい』って。
東野:そのままの意味だよ。そして君は、自身が特別だと思うからここに来た。
黒城:その言い方だと、僕が痛いやつみたいじゃないですか。
東野:え?違うのかい?
黒城:違いますよ。それに先生が言ってました。人とは、一人一人が替えのきかない特別な存在なんだって。
東野:あぁ、そんな事も言ったね。
黒城:その定義なら、僕も特別な存在に当てはまると思ったのでここに来ました。
東野:律儀だね。そんな真面目な子だったかい?
黒城:真面目でしたよ。まぁ、確かに、口の回る嫌味な奴だったとは、思います。
東野:ははは!自分のことを客観視できるようになったのか。成長したね。
黒城:そういう先生は相変わらず、笑ってるのに表情が変わりませんね。
東野:時代の流れと共に変わるものあれば、変わらないものもあるという事だ。
黒城:そうですか。それで、僕を呼んだ理由はなんですか?僕の様子を見たかったわけじゃ無いですよね?
東野:誰が君みたいな斜に構えたやつに、仕事以外で会いたがるって言うんだ。
黒城:・・・割と気にしてるんですよ。なんで辞めたんですか?僕が施設から出れるように色々手続きしてれたって聞いてます。
東野:おや、黙っといてくれと頼んでも、本人には伝わるものだね。
黒城:その節は、感謝してます。ありがとうございました。
東野:いやいや、その時は職員として当然の事をしただけだよ。本人が望む明るい未来へ行くための障害を取り除いただけだ。もしかして、そのお礼を言うためにここに来たのかい?
黒城:いや、それはついでというか。ただ、辞めた理由が気になっていたので。
東野:はは、ついでか。君らしいな、安心したよ。
黒城:どういう意味ですか?
東野:そのままの意味だよ。変わるものあれば変わらないものもあるって話だ。
黒城:・・・?
東野:やめた理由か。・・・このまま立ち話もなんだ。車を回してくる。
黒城:どこに行くんですか?あと、僕はなんで呼ばれたんです?
東野:今言えるのは、これだけだ。君に会わせたい女性がいる。
0:間。車内での会話
東野:さて、やめた理由だったかな?
黒城:はい、先生が施設の職員をやめた理由を聞きたい。人間関係も円満で、職場には辞める理由はなかったと聞きました。
東野:聞きましたって、誰に?
黒城:施設長および、職員の方々です。
東野:あのね、人のプライバシーをなんだと思っているんだ。
黒城:職員全員が気になってましたよ。先生がやめた理由。
東野:家庭の事情って話したんだけどね。好奇心とは怖いものだ。一番厄介な聞き手を送り込んできた。
黒城:先生が呼んだんですよ。
東野:そうだったね。だけど、ここを訪ねなさいっていう置き手紙に同封されていた写真一枚で、よくここを当てたものだ。
黒城:苦労はしましたよ。
東野:苦労してでもやってのけるその執念には、惚れ惚れするよ。昔からだが、知的好奇心というのか何と言うか、何が君をそうさせるんだい?
黒城:気になることは追求して然るべき。先生の言葉ですよ。
東野:おやおや、過去に吐いた言葉が数年後に自分に返ってくるとは・・・。口は災いを呼ぶって事だね。
黒城:それを言うなら、口は災いの元・・・って!誰が災いですか!
東野:ははは、冗談だよ。
黒城:・・・それで?理由はなんなんですか?もうはぐらかさないで下さいよ。
東野:最初っからはぐらかしてなどいないよ。やめた理由は家庭の事情だ。この場合、血縁の問題と言うべきかな?
黒城:血縁?会わせたい女性って先生の家族ですか?
東野:そうでもあり、そうでは無い。
黒城:ん?どういう意味ですか?
東野:はぐらかしているわけじゃない。そのままの意味だ。赤の他人だけど、私の血が流れている。
黒城:それって
東野:変な意味じゃない。本当に言葉のままなんだ。こればっかりは、ちゃんと説明が必要か・・・。そのためには私の昔話を聞いてもらう必要がある。
黒城:先生の過去
東野:あー、あとそれ、先生っていうのはやめてくれないか?私は教育者では無いからね。教員免許もなければ保育士の資格も持っていない。
黒城:それでも僕にとっては先生です。
東野:困った子だ。なら、言い方を変えよう。私は君を一人の人間として対等に接したい。施設での関係性は終わりだ。成長した君は、大人になったのだろ?それとも君は、誰かに守られていないと安心できない子供のままかな?
黒城:言葉に棘を感じます。
東野:言葉に棘か。言葉ってのは、耳を右から左へ、あるいは左から右へと流れていく。棘でも生えていなければ、その人の耳には引っかからないさ。
黒城:いい歳した大人が、屁理屈で高校生を言いくるめて楽しいですか?
東野:ああ、実に楽しいね。施設では散々君の屁理屈に付き合わされたからね。あの頃は立場があったから言い返さなかったが、今は関係ない。
黒城:仕返しですか?
東野:いや、違うね。された事を返したい訳じゃない。対等に会話したいんだよ。それに、君と理屈をこねくり回すのは、単に楽しいさ。長年生きてきたが、君みたいに面白い人間はなかなかいない。
黒城:・・・東野さん。
東野:素直でいいね。呼び捨てで構わないし、前みたいに言葉使いも崩してくれて構わないよ。
黒城:ぐぬぬ、このしてらやられた感じが、どうも気に入らない!
東野:はは!いいね~!その感じ、施設に来たばかりのクソ生意気な黒城(くろしろ)って感じ!妙に頑固な君はこうでもしないと、変えようとしないだろ?
黒城:うるさいなぁ!僕の事より、東野の話を聞かせろよ!
東野:はは!あぁ、そうだったね。君の頭の固さと口の堅さを信じてこの話をしようか。
黒城:頭の固さは関係無いだろ!?
東野:いや、そうでも無いんだ。この話は、口の軽い同僚には話していないし、妙に頭の回る知人にも話せなかった話だ。
0:一拍の間
東野:君は死についてどう思う?
黒城:死について?死っていうのは、生き物なら全員が平等に訪れる執着点で、生命活動の停止を意味する言葉・・・いや、どう思う?思うって言われても・・・。あって当然のものだと思う。
東野:はは、やっぱり変わってない。予想外の事が起こると、頭よりも口が回る。
黒城:むぅ、なんて答えて欲しかったんだよ
東野:いや、特に答えなんて求めてないよ。ただ、どう思うのか聞きたかったのさ。
黒城:なんだよそれ
東野:でも良かったよ。変な回答じゃなくて
黒城:変な回答って?
東野:〝救い〟とかね
黒城:昔に見たホラー映画に出てきたカルト宗教がそんなこといってたな。リアルにそんなこと言う人っているのか?
東野:まぁ、高校生で一人暮らしを始めて、恋人も出来たからか、自分のことをまだ特別だと思い込んでいる痛い奴もいるんだから、そう答える人がいてもおかしくないだろうね。
黒城:ん?僕の事か!?待ってくれ、どうして相手がいるってわかったんだ?!
東野:面白いやつだな。そんなのは、少し落ち着いて考えれば分かることだ。君、香水なんて付けるタイプじゃないだろ?
黒城:それはそうだけど、オシャレを意識してつける可能性もある!
東野:オシャレにかぶれたとしてもだ。バイト代をはたいてまで、僻地にわざわざ出向いてくる知りたがりの君が、その香水の花言葉の意味を知らないわけが無いだろ?
黒城:そんなの知っている。幸運だ。
東野:そうだね。遠くへいく恋人の幸運を祈って吹きかけてくれた。うん、いい話だ。この話は終わりにしよう。
黒城:終わるには含みがありすぎる。教えてくれ。他にも意味があるんだろ?
東野:それくらい自分で調べろ。と言いたいが、それじゃせっかくの楽しい会話が台無しになる。まぁ、他には約束や復讐などの意味もあるが、葉の枚数によって意味が変わる。確認だが、それを吹きかけた相手は、その意味を幸運と説明したんだね?
黒城:ああ、いい旅になるようにって。
東野:素敵な言葉だ。ちなみに、なんと説明してここに来た?
黒城:過去にお世話になった人に呼ばれたから会いに行く。
東野:相手はなんと?
黒城:それは大変、急ぎ支度をしなさいって。
東野:それだけ?
黒城:新幹線に乗る前に香水をかけられた。
東野:それで幸運と説明されたわけか。きっと相手は素敵で知的な女性に違いない。いやぁ、いい話だ。正しく青春ってやつだ。
黒城:茶化すな
東野:まぁ、愛されてることには変わりない。ちゃんとお土産でも買って帰って、今日の事をお土産話として聞かせてあげるんだよ。
黒城:言われなくてもそのつもりだ。で、ほかの意味は?
東野:分からないのかい?本当に頭が固いやつだ。このまま教えるのも癪なので、やっぱり自分で調べろ。それもまた、青春の1ページってやつさ。
黒城:ちぇ、わかったよ。
東野:さて、話を戻そう。死後の世界についてはどう思う?
黒城:宗教の話は出来ない。だから、わからない。
東野:死後について尋ねて、宗教で返すか。確かに、死への不安を和らげる側面も持ってはいるか・・・。
黒城:それこそ天使か悪魔に聞いた方が分かるんじゃないか?
東野:はは、会えたら聞いてみたいものだね。珍しいじゃないか、自分の見たものしか信じない君が、見たこともない天使と悪魔を話題に出すなんて。それこそ、天使と悪魔なんて宗教的な話じゃないか。まさか、会ったことがあるのかい?
黒城:・・・いや、ないよ。あれは人だった。
東野:何か経験したみたいだね。聞き方を変える。人間に魂があるとして、死んだらそれは消えると思うか?
黒城:死と同じだ。全てに平等であるべきもので、留まったとしてもいずれ消える。
東野:おや、随分と確信があるみたいだね。
黒城:確信というより、そうであって欲しいっていう感情が強い。
東野:はは、君が感情を・・・だいぶ人間らしくなったね。友達も増えたかい?
黒城:まぁ、それなりに
東野:それは良かった。私も結論は君と同じだ。いずれ消える。だが、消えるきっかけを失って留まり続ける場合もある。
黒城:それってまさか
東野:そうだよ。実体験だ。
黒城:・・・幽霊って話?
東野:いや、幽霊はこの話には出てこない。近い話ではあるがね。君は幽霊否定派かい?
黒城:どっちでもない。見た事ないから信じないが、いないとは証明できない。
東野:悪魔の証明か、確かに。科学は疑問や謎を解き明かしていく事で発展してきた。結果も大事だが、あくまでも証明していく過程が大事だ。
黒城:それで、本題はなんなんだ。話すのは楽しいが、さっきから話題が逸れてばかりだ。
東野:目的がもう少し先なんだ。焦らずに話そう。
黒城:・・・
東野:なんだその目は?遠回りなんかしてないからな?
黒城:ならいいけど。そもそも、どこに向かってるんだ?もしかしてダムじゃないだろうな?
東野:ご名答。
黒城:え?何をしに
東野:はは、話が一巡したね。君との会話は楽しいからね。いくらでも話題を回したくなる。
0:間
東野:さて、さっき君にした質問は、君がどのように認識しているかの確認だった。
黒城:死についてと死後の世界について?
東野:そうだ、君の回答はどちらも一般的なものだった。
黒城:一般的か。
東野:あぁ、死なんてものについては、生きてるうちに考える必要はない。生者はその命がある限り、生きることについて考えるべきだ。
黒城:じゃあなんで、魂の話を?
東野:考え続けた結果、魂の存在に行き当たったことがあってね。肉体があるから生きているのか、魂があるから生きているのかってね。
黒城:東野って、思ってたより暇人?
東野:茶化すな、ここからが本題なんだ。端的に言うが、私は、人間とは魂と肉体が揃って初めて人間であると考えている。魂だけではそれこそ幽霊と同等な存在だろう。肉体だけならばなぜ、ロボットや人形は人間ではないのか。おっと、肉がないからなんて言うなよ。
黒城:言わないよ。
東野:つまり、お互いがなければ存在が出来ない。どちらが先かはこの話では置いておこう。その両方が揃って初めて、人間であると定義できる。そして、その場合、片方だけで存在し続けることはおかしいことになる。
黒城:ん?なんでおかしいんだ?
東野:何らかの原因で人が死んだ。この場合は、人間が人間でなくなることを死ぬ事だと定義しよう。なら、人間ではなくなるということは?
黒城:魂と肉体が揃って人間なら、そのどちらかが欠けることだろ?つまり、魂か肉体のどちらかを失った状態のことだ。
東野:あぁ、その通りだ。今回は魂を失ったとしよう。魂を失った肉体はどうなる?
黒城:人の手が加えられないのなら、そのまま朽ちていくことになる。
東野:ろくな説明なく、共通の認識を持ってくれる所には、毎度の事ながらたすかるよ。そう、肉体は魂が無ければ朽ちていき、最後はなくなってしまう。
黒城:それは魂があってもだろ?人間であるときから肉体は老化を止められない。
東野:あぁそうだ。なら、魂の方はどうかな?
黒城:魂は・・・え?まさか、魂も老化するって言いたいのか?
東野:魂の老化、面白い表現だ。私は魂の消散と呼んだ。まぁ、意味は一緒だよ。魂も肉体と同様に、人間の状態であろうとなかろうと、一定の速度で朽ちているはずだ。
黒城:だから、肉体を失った魂も、そのうち消えてなくなると。
東野:ああ、そうだよ。でなければ、この世界は魂で溢れてしまうからね。魂が朽ちることなく存在し続けることが出来るなら、この世界はパンクしてしまうよ。
黒城:パンク・・・あぁ、魂を記録媒体に例えたわけか。そしてこの世界をPCなどの機械に例えて、魂に容量取られてメモリーが足りなくなるって言いたいのか?分かりづらい例えだぞ。
東野:その分かりづらい急な例えを理解して、話に付いてこれる頭の回転の速さには驚くよ。そして、そこまでわかっているのに、何も理解していない頭の固さには、感動すら覚えるね。この場合は助かっているんだが。
黒城:馬鹿にされたのはわかった。さっき言った片方だけの存在がおかしいって言うのは、魂と肉体が両方とも朽ちていく事が前提だろ?魂が朽ちない可能性もあるだろ。
東野:本質を理解せずに噛み付くのは悪い癖だよ、黒城。魂だけが朽ちることなく存在するなら、それはなんなのだろうね。今、私たちは魂という概念を人間の精神性的な意味合いで話しているが、人間の定義から離れた魂、つまり人間の精神性は、なんと呼ぶべきなんだろうね。
黒城:それは・・・
東野:幽霊なんて呼ぶなよ。この話には幽霊は出てこないし、君も信じちゃいない。それに、その話に行くと脱線しすぎてしまう。そもそも、魂が幽霊になるのか、そのものなのかは知らないが。この定義で幽霊とするならば、世界のそこかしこにいることになる。そしたら世界は、幽霊の活用方法について議論しているはずさ。そして、その考え方なら、肉体は単なる器という話になる。そういう話になれば、世界中に前世の記憶を持つ人ばかりになるだろうね。
黒城:うーん、それもそうか?毎回新しい魂が生み出されているとも考えにくい。魂自体は朽ちることなく存在していて、肉体に入る前に毎回キレイに記憶や記録を消されていると言うのも考えられるだろ?
東野:(ため息)あぁ、考えられる。だが、それは君が最初に言っただろ?宗教の話は出来ないって。つまりこの話はここで終わりだ。朽ちることが無いって話なだけに、これ以上はクチナシだ。それに、君が本質に辿り着く前に、ダムにたどり着いてしまったからね。
黒城:むぅ、東野の話はいつも本質の周りをなぞってるだけだ
東野:はは、そう拗ねるな。君は口が回りすぎだよ。たまには口を噤(つぐ)んで頭で考えてみるといい。私としては、ヒントを散りばめたつもりだよ。さぁ、ここからは歩きだ。口を滑らせる前に、歩みを進めよう。
0:車を駐車場に停め、ダム周辺を歩き、近くの森の中に入っていく2人。
黒城:大きなダム。この下に村がある、なんて設定の話はよくあるけれど、ここもそうだったりする?
東野:えぇ・・・
黒城:え?なんだよ。表現が真顔すぎて声のリアクションと合ってなさすぎて気味が悪い。
東野:いや、なんというか、君は変に勘がいい時があるよね。さっきは全然だったけど。
黒城:それは褒めてるのかバカにしてるのかどっちなんだ?
東野:両方だよ。ほら、目的地はもう少しだ。
黒城:え、ここじゃなくて?というか、この先に本当に僕に合わせたい女性がいるのか?
東野:あぁ、居るよ。確実にね。ほら、こっちの道だ。
黒城:・・・嘘だろ?そこは森の入口じゃないか!
東野:あぁ、でも入口なら入れるし、道もある。つまりは人が行き来している証拠だ。
黒城:獣道の可能性は?
東野:はは、それはそれで面白いじゃないか。さて、はぐれないように着いてきてくれよ。
黒城:わかったよ。それで、東野の過去話は聞かせてくれないのか?
東野:あぁ、そうだったね。つい、魂の議論で盛り上がってしまった。
0:
東野:元々、この辺は私に馴染み深い土地でね。
黒城:ん、前に話した時は他県の出身じゃなかったっけ?
東野:よく覚えてるなぁ。書類上はそうだよ。けど、ここは私の生まれ育った場所でもある。それだけは幾度と時が過ぎようとも忘れない。まぁ、今はダムに沈んだがね。
黒城:東野も、大変、だったんだな
東野:下手に気を遣うんじゃないよ。私にとっては記念碑みたいなものだよ。そもそも、ダム建設時は村の人も大方賛成だったからね。私たちが決めた事でもある。
黒城:ふーん、それであの麓に町ができたのか。・・・ん?ダム建設時?
東野:一つだけ気がかりだったのは、村で信仰したい神様だった。
黒城:神様。東野にも信仰心があったのか。意外だ。
東野:縋りたくなった時はあるが、信仰心はないね。それに今から話すはなしは歴史的な話になる。実際に起こったことだから、宗教的観点は一旦忘れて、口を挟まないでくれよ。
黒城:僕も大人だ。その辺の流れはちゃんと読むよ。
東野:ふ、本当に成長を感じさせてくれるね。ここまで歳をとると、そういうのに鈍感になる。だから、君と話していると少し若返った気がするよ。
黒城:何言ってるんだよ東野。まだ30にもなってないから、若いだろ。
東野:はは、この年で若いね。
黒城:ん?
東野:含みはないよ。歳を重ねると時間の経過を早く感じてね。君みたいに若かった頃が遠く感じるって話だ。それよりも話の続きだ。
0:一拍、間を空ける
東野:随分前の話になるが、この山の周辺には、いくつかの村があった。雨がよく降る地域で、その雨に悩まされていた。
黒城:水害に土砂崩れとか?
東野:あぁ、止まない雨は作物の根を腐らせるだけじゃなく、土砂崩れまでひきおこす。毎年雨が多くなる時期には頭を抱えていた。
黒城:ん?それっていつの話?
東野:大昔だよ。言っただろ歴史の話だ。・・・雨が酷い年が続いてね。雨に悩まされていた人々は、元々崇めていた龍神への貢ぎ物が足りないのだと考え始めた。
黒城:龍神信仰と生け贄。
東野:あぁ、人身御供と言うやつさ。古来からある考えではあるが、その村や周辺の村にも元々なかった考えだった。
黒城:誰かが、その考えを持ち込んだ?
東野:その可能性もあるし、その考えが産まれるほどに極限な状態を強いられていたとも言える。食い扶持を減らすという意味合いもあったと思う。
黒城:食い扶持。
東野:今のは、食う口を減らすという意味だよ。直接的に表現するなら、間引きという表現になるね。
黒城:いや、意味合いは分かってるが、その、東野のも食い扶持って言葉使うんだなって。
東野:確かに普段使いはしにくい言葉ではある。そういう言葉が不適切扱いされる場所で働いてたから、使わなかっただけだよ。
黒城:いや、なんか、その、違うなって
東野:知らないよ!勝手に解釈違いを起こすんじゃないよ、まったく。君は中学の頃から、自分が認めた相手に理想を抱きがちだ。それ故に視野が狭くなるところもあるぞ。
黒城:それは・・・
東野:なんだい?彼女にも同じ指摘をされた事があるって顔だね。
黒城:あー!なんだ分かるんだよ!
東野:分かりやす過ぎるからだよ。君のドタキャン二股青春ラブコメは、僕が登場しない別の話でしてくれ。
黒城:誰が二股だ!ドタキャンもされたことねぇよ!僕は、その、
東野:なんだ?
黒城:いや、なんでもない
東野:おい、チキン野郎。愛を誓えないのなら二股と変わらないじゃないか。
黒城:はー!?そこまで言わなくていいだろ!
東野:いいや言うね。行動に真意が現れると言うが、口に出して言うことにも意味がある。君が真に思っているならそれは口に出せるはずだ。
黒城:ぐぬぬ、それはそうだけど・・・僕は、あの人が好きだ。それ以外は考えられない。
東野:ふぅー!熱いね!人前で愛の宣言とは、若気の至りってやつだね。
黒城:言わせといて・・・!
東野:まぁ、その大好きな相手を置いてきて、別の女性に逢いに行くわけだが。
黒城:それは、先生の紹介だからだ!
東野:先生に戻ってるぞ。
黒城:僕はこう見えても一途なんだぞ!
東野:はいはい、数年後にその言葉が嘘になってないことを祈るよ。
黒城:そんな事は、絶対にない!
東野:絶対なんて言葉の方がないね。
黒城:ぐぬぬ、そういう東野はどうなんだよ!
東野:少し落ち着けよ。そんなにガッツかれると、好意を持っている相手でも普通にこわがられるぞ。
黒城:#\′×·\@?♡&#☆*→,?!(適当な発音で良い。あるいは、聞き取れない早口で「そんな訳ないだろ!僕は嫌われない!嫌われるはずがない!この傲慢さは確かに欠点だが、そう確信するほどに愛されていることを実感している!満たされているんだ!何も不安なことも無く、二つの意味で浮く気がない程に、しっかりと地に足をつけてお付き合いさせていただいているんだー!!!」)
東野:おいおい、本当に、どうしようもなくモテなさの固まりが出てきたな。深呼吸だ黒城。大丈夫、君はそんな人間じゃない。
黒城:はぁはぁ、すー、はー、すー、はー、ごめん。少し熱くなった。
東野:熱くなりすぎだ。壊れたかと思ったよ。
黒城:・・・それで、東野はどうなんだよ?
東野:え?まだ続けるのかい?
黒城:聞かないまま引き下がれない。
東野:はぁ、君の負けず嫌いというか、してやられたらやり返さないと気が済まないところは昔と変わらない。また壊れられても困るし答えるよ。・・・私の苗字。東野ってのは、貰ったものなんだ。
黒城:襲名ってこと?
東野:私が歌舞伎役者や落語家に見えるか?結婚して相手の家に入ったって話だよ。まぁ、その時は家紋や立場なんてものよりも、2人で一緒にいられることの方が重要だったからね。
黒城:熱々でラブラブの惚気話ですかー
東野:茶化すな、そんないい話じゃない。
黒城:ていうか、東野結婚してたの!?
東野:うるさいやつだな。君と出会うとっくの昔に婚姻を結んでいたよ。
黒城:ありえない、一生独身だと思ってたあの東野が!指輪なんてつけてるところ見た事がない!!そもそも相手がいる気配すら微塵も感じたことない東野が!?
東野:おぉ、してもらった恩義を忘れてよくもまぁそんなことが言えるねぇ。少し口を結んだらどうだい?自分で結べないなら私が縫ってやろう。ほら、針と糸もあるからね。
黒城:用意がいい!?やめてくれ!僕から言葉をとったら何が残るっていうんだ!!
東野:目付きと態度の悪いガキ
黒城:酷い!!鬼!悪魔!!人でなし!!!
東野:はは、冗談だよ。ただ、沈黙は金とも言う。口は回るものだが、同時に口は滑るものでもある。口が曲がって災いを呼ぶ前に。口を閉ざすことを覚えるんだ。君は特に、ものを語る時に口を極めて話しそうだからね。
黒城:っ・・・行動でも示していくつもりだ
東野:心当たりがありそうだね。そして、行動で示すのは、君にしてはいい心がけだ。君をここまで言わせる相手に、一度会ってお礼を伝えたいよ。
黒城:お礼?
東野:ここまで君をまともに成長させた事についてのね。施設の職員全員が、頭を抱えて悩んだことをその人はやってのけたわけだ。
黒城:それは、その、悪かったよ
東野:謝れるのはいい事だ。余裕の現れでもある。本当に成長したね。その成長ついでにもう少しだけ私のことについて話すよ。私はこの苗字をあの人に貰ってから変えたことがない。これは今後もだ。
黒城:それは、つまり・・・東野のも一途なんだな。
東野:呪いみたいなものだよ。私にとってはね
黒城:呪い?
東野:そのうち意味が分かる時が来るよ。頭の回る君ならね。
黒城:んー?・・・というか、東野の奥さんは、何してる人なの?
東野:さて、余談はここまでだ。このトンネルを抜ければ、もう目的地に着いたも同然だ。
0:二人の前には入口がブロックで塞がれた人ひとりが通れるトンネル。
黒城:トンネルにしては小さくないか?入口も塞がれてるし。
東野:大きい方は封鎖されてね。遠回りしなくていいように道を作ったのさ。邪魔なブロックをどかすから少し待っててくれ。
黒城:勝手にどかしていいの?
東野:私が置いたんだから、誰も咎めやしないさ。・・・ふぅ。さぁ、足元と頭上に気をつけてついてくるんだよ
黒城:わかった。
東野:黒城くん、今日はありがとう。用件も聞かないまま、ついてきてくれて。
黒城:それは、その、僕こそありがとう。今の僕は東野のおかげで楽しい高校生活を過ごせている。だから、これで東野が前を向いて歩けるなら、僕は協力したい。
東野:はは、本当に君は察しがいいのか悪いのかわからないやつだ。
黒城:その辺の空気は読める様になったって言っただろ。
東野:そうだったね。本当に子供の成長は早くて驚かされるばかりだ。
黒城:もう大人として扱ってくれるんじゃなかったのか。
東野:ごめんごめん。昔を思い出してついね。ありがとう黒城くん。君の言葉に勇気を貰ったよ。本当にありがとう。
黒城:なんだよ、改まって。こっちまで照れるからやめろよ。
東野:・・・
黒城:お、出口か。当たり前だけどトンネル抜けても森か。
東野:こっちだ。少し道が細くなるか気をつけて
黒城:ん、これは鳥居?
東野:ああ、ここが、この、壊れた社が、さっき途中まで話していた、この土地の信仰の跡地だ。
黒城:龍神とひとみごくう?だった?
東野:そう。あの話の続きだ。各々の村で生け贄を出すという話が出始めた頃、1人の村人が離れた大きな町に行き、力ある神主を訪ねた。神主から助言を貰った村人はそれを自分の住む村と周辺の村にも伝えた。神主が言うには、各々で祀るのでは無く、地域一体となって祀れば良いと。
黒城:それを信じて、ここに神社を建てたってこと?
東野:あぁ、今まで多少の交流しかして来なかった村同士が、力を合わせてこの神社を造り、参拝をした。
黒城:その結果は?
東野:建ててから数年は良かった。だが、また雨による災害が続いた。
黒城:また神主に相談か?
東野:いや、1人の女の子がこう言ったんだ。「龍神様はきっと1人で寂しいんだよ。だから、私が遊んでくるね」って。
黒城:・・・
東野:反対する者もいたが、賛同した村人に案内され、山奥のこの場所で生活することになった。偶然かは分からないが、それ以降、信仰が途絶えるまで、雨による被害はなかった。
黒城:・・・腹が立つ
東野:君が思うのと少し違うかもしれないね。その子は生け贄になったわけじゃない。それに、その子が望んでそれを行ったんだよ。
黒城:え?
東野:その子はただ、ここで過ごしていただけだ。1人で遊び、夜になれば社で眠る。それの繰り返し。その子はここを家と認識して、村には帰らない。それはその子が大人になってからも変わらなかった。参拝する村人からは巫女として呼ばれ始めた頃に、その巫女はある人物と出会う。巫女は自分の抱える不安をその人物に話した。運の悪いことに、その人物はそれを解決する手段を持っていた。
黒城:運が悪いってこの先の展開を聞くのが嫌になってきたんだが。
東野:いや、何も起こらないよ。巫女は相談した人物からの提案を受け入れた。その結果、巫女の不安は解消され、村も災害に悩まされずに時を過ごした。ダムが出来るまでは、本物の龍神様が祀られていると信じている人も多かったが、ダムができてからは段々と参拝する人も減った。そこで問題が生じた。
黒城:ん?問題がなさそうだったんだが・・・一体どんな問題が起こったんだ?それに、巫女はどうなったんだよ
東野:巫女は、龍神になってしまった。
黒城:は!?巫女が龍神に?僕の可愛い巫女を勝手に龍にするなよ!
東野:君の頭はどうなってるんだ。一途な発言が霞むぞ。
黒城:うっ・・・じょ、冗談に決まってるだろ。
東野:割とマジな反応だったけどね。そうだな、昔のように質問形式でやろうか。なぜ、巫女が龍神となったのか。
黒城:前みたいに質問はしていいのか?
東野:2回までにしよう
黒城:1回分減ってる。
東野:それが大人になるという事だよ。それにヒントなら、今までの会話に山程ある。
黒城:・・・ただの人が神になる。つまり信仰の対象になった。巫女は幼い時から社にいた。とある人物の取引・・・信仰はダムが作られるまで続いた。まて、ダムが作られるまで!?間を何年飛ばして話したんだ!?
東野:それが1つ目の質問かい?
黒城:いや、聞かなくても想像はつく、人が神になる為の時間は十分にあったってことはな。でも、それだと・・・。
東野:気づいたかな?
黒城:1つ目の質問だ。巫女は肉体的な死を迎えたのか?
東野:YESだ
黒城:・・・朽ちない魂をなんと呼ぶか。村の人達はそれを神と呼んだんだな。
東野:相も変わらず、頭の回転が速い。その通りだ。一応、わけを聞かせてくれ。
黒城:ここでずっと過していた巫女は両親がいない。描写には、巫女を連れ戻そうとする人が出てきていない。それに、ここを家と認識していたと言っていた。つまり、時が経てば村人にとって巫女は、常に社にいる人物という認識になる。当時の人なら祟や災いを恐れて深く関わろうとは思わないだろう。だから、巫女は次第に名前で呼ばれなくなり巫女としか呼ばれなくなった。そして、巫女が掃除などの管理をしていたのなら、参拝以外の理由で訪れる村人はほぼいない。つまり、村人はいつしか巫女の事を神聖な人物として認識した。
東野:では、彼女の不安は?
黒城:それは、自分が死を迎えることだ。巫女にとっては自分がここにいることで、災害から村人を守っているという認識だったと思う。だから、自分が死んでいなくなってしまうことで、災害が引き起こされると心配するはずだ。
東野:・・・不安を解決する手段は?
黒城:迷ったよ。身を呈して供物になったり、村人の心の中で生き続けているという話なら、もっと早くに途絶えるはずだ。それに、僕をここに連れてきた意味が分からない。東野はここに会わせたい女性がいると言った。ここに、巫女が居ると言った。それは、今も生きているからと考えられる。そして肉体は朽ちるという話から、魂についての話があった。そのことから巫女は、その人物に不死になる方法を尋ねたのだと思う。いや、そもそも不死という単語は巫女からでた言葉ではないのか?
東野:(少し口角が上がる)
黒城:だが、その人物は不死になる方法を教えた。しかし、それは不老ではなかった。巫女は自分がここに留まることが災害から村を守る条件だと思っているとしたら、村人に自分を神と思わせる必要は無い。神と呼ばれたのは村人の勝手な思い込みから来るもので・・・。時代を考えるなら・・・。
東野:まとまったかい?
黒城:あぁ、巫女は出来るだけ長くここに留まる方法を尋ねた。教わった方法、それは恐らく不死にまつわるものだった。巫女は不死を望んだ訳じゃない、けれどその方法は巫女の願いを叶えるものだった。だから、その方法を試した。結果、長生きはしたが、不老ではなかった為に、100歳前後で肉体的な死を迎える。寿命での死だ。だが、相当大昔の話なんだろ?50歳まで生きたら長生きだったはずだ。その倍まで生きていた巫女の存在は、村人からすれば奇跡だったに違いない。それに加え、巫女が社に住んでから災害が無くなったという言い伝えが広まっているなら、後世に生まれた村人たちは、巫女のことを龍神と勘違いしてもおかしくない。
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黒城:そして、巫女が肉体の死を迎えてからもこの地域では災害が起きていないのなら。それはつまり、巫女がここに居るという条件が整っていることになる。それこそが、ここに巫女が居る証明になる。そして、魂と肉体の両方がいずれ朽ちることを前提とするならば、巫女の残された魂は異常だ。朽ちることなく存在し続けている。きっと教わった不死とは、魂の不滅という意味だったんだとおもう。
東野:恐れ入るね。殆ど君の言った通りだよ。
黒城:それで、僕にして欲しい事っていうのは、なんだ?
東野:分かってるだろ?君から巫女にひとこと言って欲しいんだよ。帰るべき場所に戻りなさいって。
黒城:・・・言った所で何も変わりませんよ
東野:変わるよ。それが君の力だ。だから、君に手紙を書いて仕事を辞めた。私一人でどうにかできるなら、夏までに終わらせていたさ。
黒城:・・・
東野:君がここに来た理由。それは手紙の言葉が引っかかったからだ。君に引っかかったのは「まだ特別」という言葉だ。君は施設に来る前から、周りとどこか違うと感じていたはずだ。それが高校生になって確信に変わった。自分にはなにか、得体のしれない力があると。
黒城:気づいていたんですね
東野:あぁ、でも、確証はなかった。だから、そういう書き方をした。結果、君が来た。
黒城:・・・これは、自分が特別だと浸るためのものでも、誇るべき力でもありません。
東野:けれど、今の私には、君のその力が必要だ。
黒城:使い方もよく分かっていません。
東野:君が心から、そうだと思ったことを口に出したらいい。
黒城:けど、それって、巫女の魂を奪うって事になりますよね。
東野:奪うか。確かに、魂だけの存在を生きていると定義するならそうなる。けれど、それは人ではない。そこにいるのは人間じゃないんだよ。
黒城:でも、それによって水害が起こったら、町の人達は・・・どうしたらいいですか、先生。
東野:黒城くん。私は先生じゃない。だから導くことは出来ない。これは、あくまでもお願いなんだよ。嫌なら断ればいい。それに、この世界は黒か白しかない。やるか、やらないかだ。
黒城:・・・
東野:君の不安は分かる。だけれど、それが生きるという事だ。自分の利益は他者の不利益だって可能性は大いにある。私の願いを叶えて巫女を消滅させた結果、ダムが決壊して、町が洪水に見舞われるなんて事が起きるかもしれない。もし、それが起こった場合。その責任は、それを行った君にある。でも証拠はない。だから、誰も君を責めないし咎めない。けれど、君自身はその行いを責め続けるだろう。それでもやってくれるかい?
黒城:・・・先生。僕、やりますよ。
東野:責任を、背負えるのかい?
黒城:やっぱり、先生は先生ですよ。なんだかんだで、僕が分かるまで話してくれる。前に貴方が言った言葉だ。この世は黒と白だけじゃない。様々な色がある。価値基準がある。善と悪だけでは判断しきれない。だから、色々な経験に触れて自身の色を増やせって。そして、2択を迫ってくるやつは、他の選択肢を隠したい奴だって。
東野:・・・
黒城:それによく考えたら、ここにダムができるってことは、それだけ降水量も多いってことだ。つまりそれは、今までにも洪水が起こっていた可能性が高いということ。そして、この話に幽霊は出てこない。つまり今回は、オカルトの話は度外ししていいってことだ。なら、巫女がここにいるから災害が起こらないってのは、科学で証明できていないオカルトで、科学を元に作られたダムを信じるべきというヒント。・・・巫女が居なくなっても何も変わらない。悲しいけどこれが現実だと思う。
東野:君は優しいな。
黒城:僕の力には、それ相応の責任が付きまとうって、直接言ってくれればいいのに。東野はいっつも本質の近くをなぞるだけだ。
東野:自分で気づいてこそ、学びになるからね。
黒城:とかいいつつ、ストレートに物言えないだけだろ?
東野:あぁ、耳が痛い
黒城:やりますよ。このままは、可哀想だ。
東野:・・・
黒城:この巫女について聞きたい。
東野:何が聞きたい?
黒城:どんな気持ちで不死になったのかなって
東野:さぁ?本人にしか分からない。
黒城:そうだよな
東野:・・・みんなの笑顔が少しでも長く続けばいいなって、思ってたんじゃないかな。
黒城:そうだと、いいな。
東野:サチ、その子の名前だよ。
黒城:本当に力のこと知ってたんですね。
東野:さぁ、何をするにも名称は必要だからね。
黒城:じゃ、やります。
0:一拍、間を空ける
黒城:サチさん、貴方は役目をやり遂げた。貴方のおかげで、多くの人が笑顔で生きられた。だから、君も笑っていい。もう楽になっていい。サチさん、元の場所に戻りなさい。
東野:ふふ(微笑む)
黒城:(M)崩れた社から風が吹く。その風に乗ってキラキラとした暖かい何かが、僕の頬を撫でた。そのキラキラは僕の後ろにいる東野の方へと吹き抜けていった。
東野:終わったね。
黒城:これで、良かったのか・・・。
東野:それは過ぎてみないと分からない。
黒城:最後、サチさんは幸せな気持ちだったんだろうか。先生はどう思う?
東野:先生じゃないし、その問いには答えない。
黒城:答えてくれてもいいだろー!あ、さっきの質問のやつ1個残ってた!
東野:さっき、答えただろ
黒城:え!あれカウントされてんの!?ズルだ!大人気ない!
東野:うるさいなぁ、こっちはやっと心の綻びが取れたんだ。少しは感傷に浸らせてくれ。それに、そういうのに答えを得られなくなるのも大人になるってことだ。
黒城:得られなくなることばかりだな大人は
東野:失うばかりだよ。だから今のうちに、多くを得ておくんだぞ。さて、帰ろう。日が落ちると大変だからね。今日は泊まっていくのかい?
黒城:いや、帰ります。往復で席を取っているので。あと・・・え!もうこんな時間!?先生急いで!
東野:山道を走ると危ないよ〜。なんだかんだで間に合うから大丈夫だよ。
黒城:帰れないと機嫌悪くなるんですよ!
東野:はは、仲睦まじいことだねまったく。
黒城:先生!はやく!ん?先生?
東野:黒城。本当にありがとう。
0:モノローグ
黒城:(M)あれから無事に帰れた僕は、この旅の話と自慢の先生について彼女に話す。僕の可愛い彼女は、おかしな話や、ややこしい話にもツッコミなどは入れずに最後まで黙って聞いていた。そして最後にこう言ったのだった。「帰るや成仏などではなく、元の場所に戻りなさいって言ったのね。なら、肉体のないサチさんの魂は、一体どこに戻っていったのかしら」と。なぜ疑問に思わなかったのか、単なる言葉の綾だと思っていた。違う。言葉の持つ力は言い間違いや言葉の綾で済まされるほど弱いものじゃない。もしかしたら僕は何か見落としているかもしれない。そういえば、不死の方法を教えた人物は?そもそも、不死になる方法とはなんなのだろう?分からない疑問が募る。そもそも先生はなぜこの話を知っていたのか、血縁とは・・・と悩んでいると、彼女が微笑みながらこう言った「本当に頭の回転は早いけど、頭の固い人。本物の不死者はねーーー」。
0:廃村の不死者ーENDー
廃村の不死者 雲依浮鳴 @nato13692
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