第19話

「それに勝手に銃の前に立つなんて……危ないのにそんなことしちゃ駄目でしょ?」


「っ、ぁ…」


「いくら俺の為でも、次そんなことしたら本気で怒っちゃうからね?」




光流はそう言いながら目を細めて、口角を上げた。


不気味な笑顔。


幾度と無く見てきたはずのこの表情に、私はかつて無いほどの恐怖を覚えていた。



……先程感じた、光流に対する違和感。

空虚を捉えた真っ黒な瞳。

別人のように変わった人格。



光流の中の何かが切れてしまったのだ。


これまで堰き止めていた何かが。

きっと、私のせいで。




力が抜けて立っていられなくなった私の体を、光流が片腕で受け止める。そして静かに涙を流す私の頬をペロッと赤い舌で舐めながら、光流は喉でククッと小さく笑った。





「それとも……また本気のお仕置きしてあげよっか?」





────今度こそ堕としてあげるよ。



そう小さく囁いた光流は、日下の言っていた『無慈悲で酷く残忍なサディスト』そのものだった。

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