お家デートを極める

第39話 龍輝の部屋へ

(ここからは両サイドを同時に進めていきますm(__)m) 



 昨夜キュン死寸前で座り込んだ一華。

 そうっと額に手をやって、しばし龍輝のキスの余韻に浸っていた。


 こんな初心うぶなキス。初めてだわ。

 でも、想いのこもった優しいキス。


 大切にするよ―――


 そんな龍騎の声が聞こえたような気がする。


 なんだかお姫様としてかしずかれたような気分。気持ちいい!

 誰だって子どもの頃に、一度や二度は素敵な王子様と巡り会って幸せになる夢を想像するわ。

 でも、成長するにつれそれが如何に難しいかを実感するわけで。


 疲れ切って諦めた頃、ひょっこりとこんなご褒美みたいな瞬間が訪れたら、生きていて良かったって思えるよね。

 王子様のキスを、心行くまで堪能したい。

 

 一華はゆっくりと立ち上がると、ベッドにダイブした。

 枕に頭を沈めて悶える。


 くーっつ! 嬉しい! 

 恥ずかしそうに赤くなった龍輝。

 ちょー可愛いかった!


 ベッドの上でバタバタと興奮しながら泳いだ後、ハッと我に帰る。


 お化粧落として無かったわ。

 でも、龍騎のキスの感触、もう少し感じていたいなぁ。


 もうしばらくこうしていようっと。


 寝転びながらLineにお礼とお疲れ様のメッセージを入れる。

 その後は画面と睨めっこ。


 龍輝、無事家に帰り着けたかしら? 

 ちょっと酔っていたみたいだから心配。


 その心配は杞憂に終わってほっとした。龍輝からの帰宅のLine。

 二人で『おやすみ』のスタンプを送り合う。


 幸せ……


 結局、そのまま寝てしまったのだった。



 龍輝にとって今週末は、久しぶりの連休だった。

 いつも土日のどちらかは出勤していたから。

 

 スポーツジム&お部屋デートから帰ってきて一華にメッセージを送った後、ベッドに倒れ込んで直ぐに寝てしまった。

 気が付けば陽の光がさんさんと降り注いでいる。


 おお、明るくなってからの起床! 

 良く寝たー!

 ん? 今何時だ?


 慌てて起き上がって時計を確認すれば、とっくに昼の十二時を過ぎている。

 一番最初にLineをチェックした自分に驚く。


 俺もすっかり恋する男だな。


 一華からは体調を気遣うメールが届いていた。


 やっぱり、一華さんは優しいな。


 と同時に、昨夜のあれこれが思い出されて、また顔が赤くなった。


『おはよう。今起きたところ』

 眠そうな熊の顔のスタンプと一緒に送る。


 あっという間に既読がついた。

 待っていてくれたのかなと嬉しくなる。


『おはようございます! 頭痛く無いですか?』

『痛くないです。大丈夫。昨日は美味しかった。ありがとう』

『良かったです。そう言ってもらえて嬉しい』


 メッセージを打ち込む時間ももどかしくて、だんだん短い文章になっていく。

 リズムよくやり取りをしていたら、いつの間にかLineの文章が敬語ではなくなっていた。


 おお、いい感じ!

 この方が話しやすいな。


 龍輝は思わず携帯に向かって微笑んだ。


『一華さんは今日はどうするの?』

『何も予定入れてない』

『じゃあ、ウチくる? 昨日のお礼』

『いいの!』

『今から掃除する』

『無理しないでね』

『大丈夫。物凄く良く寝たから寧ろ元気。でも、一華さんの部屋のように広くも綺麗でも無いけど』

『楽しみ! 食べ物買っていくから』

『OK。じゃあ、掃除終わったら連絡する』


 あれほどハードルが高く思えたお家デートが、一気に身近に感じられるようになった。

 

 一緒に何しようかな?


 とりあえず冷蔵庫から牛乳を取り出すと、袋が開きっぱなしで湿気始めたシリアルと共に皿に注ぎ入れた。

 慌てて食べようとして、ふっと止める。


 こんないい加減な生活じゃだめだな。ゆっくり噛んで食べなきゃ。


 そう思いつつも、「ま、明日からな」と考えを翻す。


 一口掬って口に入れては、もぐもぐしながら散乱しているゴミを集める。


 洗濯物を一気に洗濯機に放り込んで回そうとして、ハタと気づく。布団のシーツを慌てて剥がして一緒に放り込んだ。

 

 予備のカバーってあったかな? ガサゴソとクローゼットを引っ掻き回すもやはり無い。


 うーん、買い物も行かないとダメか。


 掃除機をかけながら、本棚や机の上を整える。

 龍輝の部屋は文字通りワンルームの作りなので、キッチンも同じ空間にある。ほぼ使わないから、匂いとか油の汚れとか気にする必要は無いが、ベッドと本棚と机を置いたらソファなんて置く場所は無い。床に座るかベッドに座るか。


 一華さんに何処に座ってもらえばいいのかな?

 よし! ダッシュで布団カバーとクッションを買って来よう。


 近所のスーパーへひとっ走り。とりあえず体裁を整えることはできた。

 ついでに、飲み物やつまみを買って帰る。洗濯物をベランダに干し終わったら準備完了。

 

 駅まで迎えに行くとメッセージを送った。



 昨夜化粧を落とさずに寝てしまった一華。痛恨のミスに後悔しつつも、あまり残念に思っていないのは、やはり龍輝のキスの余韻が残っているから。

 寧ろ洗うことに勇気を振り絞った。


 またいっぱいキスしてもらえばいいんだから!  

 よし、洗おう!


 謎の決意を胸に洗顔開始。

 とは言え、アラサーの肌にファンデーション塗りっぱなしは厳しかった。念入りにリベンジを図る。


 龍輝からのお家デートの誘いは、想定内でもあり、想定外でもあり。

 昨日のブラウニーの残りも持って行ってあげようと思いつつ、後は何を買っていこうかと思案する。


 お家デートって言ったら、一緒に映画とかゲームとかかしら? うーん、ちょっと龍輝のイメージじゃないけれど。

 なるべく栄養バランスの良いテイクアウトにしたいな……ピコンと思いついたお店へ予約の電話を入れた。

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