第30話 気持ちイイ!

「身長は百八十センチ。三十二歳の細マッチョイケメン。笑顔が可愛くて、好奇心旺盛で、色んなことに興味を持って邁進する研究者なの」

「え! 背高いね。蓮君より三センチも高い。まあ、一華が百六十三センチでヒール履くから、ちょうど見上げる感じか」

「うんうん」


 ニマニマが止まらない。そう、見上げる角度がいいのよ。

 細マッチョと言うところは、ちょっとモリ過ぎたけど、これから予定だから良し。


「細マッチョかぁ。一華の好みのタイプにドンピシャじゃん」

「うんうん」

「研究者って、何研究しているの?」

「うーん、まあ、製薬系かな」


 これも真実。海洋生物の製品化に関する研究所だし、ベニクラゲの紅子はいずれ再生医療とかの役にたつはず。

 嘘はついていない。多分。


「おお! 何、そのハイスペック男! よく今まで残っていたね。そんな人とどうやって知り合ったのよ?」

「うん、まあ、色々とね。縁あって」


「ほーん」

「何?」

「別に」


 それ以上は口にしなかったけれど、燈子は何かを悟ったようだった。

 

 マッチングアプリのこと、気付かれたのかな? まあ、別にいいんだけれどね。


 目の前のカリカリの鯵フライをサクリと齧って、一華はにっこり幸せオーラを振りまいた。


「研究者だと仕事の話に共通点無いでしょ。難しい事延々と話されたりしないの?」


 う、痛いところ付いてきたわね。流石燈子、鋭いわ。


「とーっても分かりやすく話してくれるから大丈夫。夜景を見つめる彼の横顔はセクシーなのに、少年みたいにキラキラの瞳で語ってくれるのよ。そのギャップが最高なの」


 昨夜の龍輝を思い出して、思わずうっとりする一華。


「で、昨夜は最高の夜を過ごしたのね」

「うん」


 燈子の言っているの意味が違うと気づいていたが否定しない。

 

 だって、最高の夜だったのは確かだもん。


「写真見たいな」

「あ!」


 一華の瞳が見開かれた。


 そう言えば、一緒に写真を撮ったことが無かった……


「無い」

「え、なんで?」

「見つめるのに忙しくて、忘れてた」

「まーったく。一華って何気になところあるよね」


 あははと快活に笑いながら、次のお猪口をぐいっと煽った燈子。

 

 密かに対抗心を燃やしていることが丸見えよ。

 あー、気持ちイイ!



 その時、燈子の携帯がフルフルと震えた。嬉しそうに画面を操作する燈子。


「蓮君から。これから上司と夕飯だって。気を使ってしんどいって。会えなくて寂しいって言ってきたわ」


 駄々っ子をなだめる様な表情で返信を返していたが、急に一華にカメラを向けてきた。


「一緒に写真撮っていい? 蓮君に送りたいから」

「私との写真じゃ無くて、燈子の熱っぽいキスでも送ってあげたら」

「それはいつもやってるから」

「やってるんかい」

「久しぶりに一華と飲んでるって言うのも、蓮君に言っておきたいし」


 そう言って、顔を寄せて二人でチーズ!


「よし! 送信完了」


 すかさず返信がくる。


「一華さんによろしくって」

「燈子をお借りしてますって言っておいて」

「あはは。一華にやきもちなんか焼かないから大丈夫だよ」


 全く。結局惚気を聞かされてるわね。


 可笑しくなって笑い出した一華を、燈子が不思議そうに見つめ返してきた。


「仲のよろしいことで」

 

 ご満悦の燈子を見ながら思う。


 あーあ。龍輝もLineくれないかな。



 その時、ぶるぶるっと携帯が震えた。


 もしや?


 慌てて開いた一華の目に飛び込んできたのは、上司からのメール。明日の朝一で頼みたいことがあると伝えて来ている。


「はぁ」

 小さくため息をついてしまった。

「大丈夫?」

「うん。まあ、明日の朝一の仕事の話」

「うわー、大変」

「まあね」


 嫌々「了解しました」と返信したところで、ポップアップ通知が飛び込んできた。


 龍輝からのLine! やった!


 急にるんるん顔になった一華を、訝し気に見つめる燈子。


「うふふ」

「なんか、急に嬉しそうになったね。彼氏から?」

「うん」

「良かったじゃん」

「うん」


 今まで見せたこともないくらい無防備な乙女顔の一華に、燈子も肩の力が抜けてしまった。


「あなたにそんな間抜け面させる男。今度会わせてね」

「うん」


 さっきから「うん」しか言わない語彙力喪失中の一華に対抗心も砕かれてしまった燈子は、親友として心から祝福したのだった。


 こうして陽気な女二人の飲み会は、利き酒全種類制覇と言う快挙と共に無事終了。



 『完璧上司の完璧じゃない一時(一華side)』 了


 いよいよ、プロデュース第二弾です(笑)

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