第19話 ファッションショー

 洋服を選びながらも、さり気なく龍輝の表情に目を配る。


 いきなりモード感バリバリの洋服を着せても抵抗感あるわよね。

 まずは、色味が同じでもデザインの違いで印象が変わることを実感してもらおうかな。


 敢えて、今日の龍輝と同じ色合いで抜け感のあるデザインを選んだ。


 紺ブレの代わりに、紺色のシャツジャケット。

 白い長そでシャツの代わりに、白のタンクトップTシャツ。

 濃紺ジーンズの代わりに、黒のテーパードパンツを。


 試着室に消えた龍輝をワクワクとした気持ちで待つ。


 さあ、お楽しみのファッションショーの始まりよ!


「着替えました」

 そんな声と共に現れた龍輝。店員が「こちらへどうぞ」と試着室の外へと誘導する。

 一華がさり気なく置いておいた黒いレザーサンダルを見つけて、一瞬考えた後、それを履いて出てきた。


「着心地とかサイズはどうですか?」

「凄く、涼しい。楽。ズボンも伸びる伸びる」

 そう言いながら屈伸してみせる。


「接触冷感素材なので」

 店員の説明に「なるほど」と頷いてから、くるくるとした瞳を一華に向けてきた。


「一華さん、これ、スッゴク着心地がいいです。こんなにリラックスして着られるのに、だらしなく見えない。寧ろ、おしゃれに見える。凄いなー。流石だなー」 

「そう言っていただけて良かったです」


 鏡の前で色々な動きをして面白がっている。

 その姿を見ている一華も眼福だ。


「こちらの色も似合うと思うんですけれど」

 そう言ってチャコールのパネルボーダーのニットTシャツとモカ色のオープンシャツも差し出した。


「茶系か。一枚も持っていないかも」

「龍輝さんならこの色も着こなせると思います」

「そう言ってもらったら、着てみないわけにはいかないですね」


 試着室へぴゅっと入り込むとあっという間に着替えて出てきた。


「ああ、素敵です!」

「うん。俺も気に入った」

 今度も鏡の前で色々ポーズをとりながらしげしげと自分のことを見つめている。


「このパンツ、履きやすいから色違いが欲しいな」

「それだったらセットアップで揃えると、コーディネートしやすいかも」

「なるほど」

「上下モカで揃えて、中にシンプルな黒のTシャツもオシャレです」

「おお、俺だったら絶対思いつかないパターン」

「試してみますか?」

「もちろん」

 

 店員そっちのけで、あれもいいこれもいいと二人で文字通りのファッションショー。

 アシンメトリーなデザインのシャツにパーカーまで。

 面倒な顔もみせずに何回も着替えている龍輝は、自身も楽しんでいる様子が伝わってくる。


 思った以上にカッコいい。

 うふふ。楽しい!


「ふぅ。流石にはしゃぎ過ぎましたね」


 照れたように一華を見つめた後、大量の服の前で思案顔になる龍輝。


「どれも似合うから選ぶのが大変ですね」

「どうしようかな」

「まずは、ベーシックな物から買っていくのがいいと思います」

「うーん。じゃあ……」


 結局パンツ二本にオープンシャツ二枚、Tシャツ二枚にレザーサンダルまで買うことになった。


「そんなに散財してよろしかったんですか? ごめんなさい。私が調子に乗って色々お勧めしてしまったから」


 内心ホクホクしながらも、殊勝な顔で呟いてみる。


「いえ、楽しかったです。それに、本当に俺、何にも持っていないから必要なので」

「龍輝さんも、どれかに着替えますか?」

「おお、その手があった!」


 龍輝は嬉しそうに手をポンと打つと、最初のコーディネートに着替えた。


 紺の半袖シャツジャケットに白のタンクトップ。黒のテーパードパンツ。


「やっぱり涼しいー」

「とっても、お似合いです」

「これなら、一華さんと並んでも色味的に合っていますよね?」

 

 ワクワクした様子で「正解!」の言葉を待っているような龍輝の目に、思わず一華は吹き出してしまった。

「はい。ピッタリです」

 

 自分好みに変身した龍輝を、一華は目を細めて眺める。


 襟足はきりりと、顔周りはふわりと無造作なヘアスタイル。

 涼し気な目元とすっきりとした鼻筋が強調されてバランスが良い。

 シンプルな色味、オーソドックスなコーデながら、生地の柔らかさがラフな抜け感を演出。

 若干細すぎる体系をカバーして、大人の色気を醸し出している。

 

 うーん。最高!

 


 そうっと龍輝の腕に手を添えれば、龍輝も肘を曲げて絡めやすくしてくれた。


「それでは一華さん、今度は俺のリクエストに応えていただけないでしょうか?」


 その言葉に、今度は一華が目を丸くする番だった。


「龍輝さんのリクエスト。ええ、もちろん。ご一緒します」


 クシャリと嬉しそうに笑った龍輝。

 まるっきり邪気の無い瞳。


 笑い皺がやっぱりかわいい。

 

 とびっきりの笑顔が溢れ出てしまうのを、一華は止めることができなかった。



『プロデュース第一弾 馬子にも衣装なんて言わせない (一華side)』  了



【作者より】 

 お忙しい中、ここまで読み進めてくださりありがとうございます。

 次は龍輝サイドです。龍輝のリクエストがどこになるかは、その次の章になります(笑)

 コメント返信が遅れがちでごめんなさい。

 とても嬉しく、励まされております。ありがとうございます。

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