第15話 お互い様
「草間さんは」
「は、はい」
「お仕事もプライベートも一生懸命に取り組まれているんだと思います。きっとそんな女性は、男性に奢られるばかりでは居心地が悪くなってしまうのかなと思いました」
いきなり真正面から投げかけられた言葉に面食らいつつも、心の内では深く頷いている自分がいた。
水島さんの言う通りだわ。私は奢られるだけの関係を嬉しいなんて思えない。
一華は基本的に、対等が好きだった。
だが、恋愛において対等な関係を築くのは意外と難しい。
惚れ込んだほうの立場が弱くなるものだ。
それでも一華は、fifty-fiftyでありたいと願ってしまう。
急に心を見透かされたような、丸裸にされたような不安定さと羞恥心が沸き起こる。
鼓動がやけに大きく感じられた。
そんな一華の動揺には気づかぬ様子で、龍輝はパアッと子どものように無邪気な笑顔を見せた。
「実は……俺も、一方的な関係は好きでは無いんです。なんでもお互い様って思い合えるほうがギスギスしなくていいじゃないですか」
もう一度、一華の瞳を真っ直ぐに捉えてから言葉を続けた。
「どうでしょう。これからは基本的に割り勘で。でも記念日みたいな時には気持ちを贈り合うっていうのでは?」
その言葉は、一華の心の深淵を大きく揺さぶってきた。
先ほど感じた心許なさをも包み込んでくれる完璧な解答に溶かされていく。
なんて甘美な言葉なの!
こうやってちゃんと言葉にして伝えてくれるところ、好き―――
『たらし』要素たっぷりの龍輝の言葉に、しばし酔いしれた。
店員の控えめな咳払いで我に返る。
そうだわ。水島さんにお答えしないと。
幸せモード全開の笑顔で一華も真っ直ぐに龍輝を見つめ返す。
「私も同じ気持ちでした。そう言っていただけて肩の力が抜けました。嬉しいです」
安心したように頷いた龍輝。店員に金額を確認するとそっと囁いてきた。
「とりあえずは俺が払います。店の外で草間さんの分を清算させてください」
想像以上のスマートな対応に、一華のテンションが駆け上がる。
そして、心に芽生えるのは小悪魔な囁き。
一方的な関係は好きでは無い。
お互い様が好き。
と言うことは……私ががんばれば、水島さんもがんばってくれるってことよね。
そんな期待、してもいいよね?
この後の計画に思いを馳せた。
私の情熱、遠慮せずにぶつけてみよう。
きっと彼は耳を傾けてくれるはず。
頭ごなしに否定したりしないはず。
いつでも対等に。
そのバランスさえ崩さないようにすれば―――
食後はいよいよ本日のメインイベント。
階下のヘアサロンへと二人で向かう。
水島さんの髪を切ること、どうやったら了承してもらえるかしら?
ちょっと小芝居をしないと難しいだろうなぁ~
一華はワクワクしながら作戦を考えた。
予約しているスタイリストには既に連絡済みなので、後はサロン手前で演技を始めるだけ!
「すみません。私の用事に付き合っていただいて」
殊勝な顔をしてそう言えば、人の良い龍輝は何でもないことのように明るく答えてくれる。
「いえいえ、こんなことでもなければヘアサロンなんて入る機会はありませんからね。ちょっと楽しみですよ」
「水島さんは、いつもどこで髪の毛を切っているんですか?」
「そうですねー。適当に安い街中のカット専門店で。あ、でもここのところ時間が無くて行かれていなくて。すみません。伸びすぎちゃって。一応ムースで抑えてきたつもりなんですけれど」
慌てて髪に手をやった龍輝を見て、今初めて気づいたかのように呆然とした声をあげてみる。
「あ……水島さん、お仕事お忙しくてカットにも行かれていないのに、私ったら無理を言って付き合わせてしまって……」
案の定、龍輝は慌てたように言葉を継いだ。
「草間さん、気にしないでください。今度の休みには必ず……」
計画通りの言葉運びに心の中でガッツポーズをしながら、一華は今思いついたことのように提案を口にした。
「そうだわ! 良いことを思いつきました」
「え?」
「今日の予約の分で、水島さんがカットされたらどうでしょうか?」
「え、それは申し訳ないから……」
「いいえ、いいんです。私の方がお休み多いですし、いつでもまた予約入れられますから。でも、水島さんは今日を逃したら、また来週になってしまう。いえ、それだってまた私に付き合ってくださったら時間が取れないかもしれないですよ。それじゃ申し訳ないです。ね。いかがですか?」
「いや、でも……」
そんなことを言い合いながらヘアサロンへ到着。
うん。タイミングバッチリね。
最後の一押しは選手交代よ。
一華のお気に入りスタイリストで、このへアサロンのオーナーであるイケオジの
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