マッチング成功? (一華side)

第12話 互いの思惑

 ランチタイム終了後、一華はどうやって自分が『次回』を期待していることをリュウキに伝えようかと考えた。


「あの……」

「なんでしょうか?」

「リュウキさんはスキューバダイビングが趣味なんですよね。私、実はやってみたいと思っていたんですが、まだチャレンジできていなくて」

「おお! そうだったんですね。まあ、最近は仕事が忙しくて全然潜りに行かれていなかったんですけれど、そうですか。ichikaさん、やっぱり海に興味があるんですね」

「やっぱり?」


 リュウキの言葉にちょっと引っかかりを覚えたが、どちらにしろスキューバダイビングに興味があることに変わりは無いので深く考えずに頷いた。


「久しぶりに行きたくなってきました。今度一緒に行きましょう」

「うわぁ、嬉しいです。……と言うことは、またお会いしてくださるってことでよろしいでしょうか?」

「それは俺のセリフです。ichikaさん、よろしくお願いします」


 これでプロデュースしやすくなったと内心ワクワクしてきた。

 

 ちゃんと自分からも言葉にして伝えてくれたリュウキの潔さも合格点。

 はからずも胸の奥がきゅんと鳴った。

 

 節目節目で男気を見せてくれるのって、やっぱりいいわよね。

 

「こちらこそよろしくお願いします」


 とびっきり、自分が美しく見える角度で微笑んだ。


 リュウキが急に、パクパクと口を開け閉めし始めた。


 な、何事!?


「あ、あの、俺、こういうののタイミングがよくわからないんですけど」

「はい、なんでしょう」

 

 慄きを隠して笑顔で先を促す。


「俺の本名は水島龍輝みずしまりゅうきです」

「あ、だから『リュウキ』」

「はい。安直ですが。すみません。匿名ってなんか落ち着かなくて。だからつい……あ、身分証明書!」


 慌てて財布から免許証を取り出す水島。そこには、浅黒い『リュウキ』の面差しが残った写真がはめ込まれていた。


 うふふ。ド真面目!

 でも、いいわね。


 強すぎる一華の警戒心が、いとも簡単に解きほぐされた。

 

「私もですよ。草間一華くさまいちかの『ichika』です」

「お、そうだったんですね」


 龍輝は爽やかな笑みを浮かべると続けた。


「綺麗なお名前ですね。草の間に咲く一輪の華……名は体を表すといいますが、ichikaさんをよく表していると思いました」

「なっ……あ、ありがとうございます」


 なんなの、この男性ひと


 息を吐くように気障なセリフを平然と!


 お世辞も含めてだが、普段褒め言葉をかけられることが多い一華も、こんなセリフは聞いたことが無かった。

 一瞬ぽかんと龍輝を見つめた後、ぽっと頬が赤く染まる。


 でも……これ、口説き文句じゃないわ。


 目の前の龍輝はまるっきり邪気の無い顔で、ニコニコと一華を見つめていた。


 あん、笑い皺可愛い! じゃ無かった。

 彼は私を口説いている訳じゃなくて、単に漢字から導き出した印象を述べただけ……みたいね。

 

『口だけ男』では無いようだと安堵しつつも、何故かとても残念味が増したような気がする。


 ううん、寧ろ飾り気のない素直さが魅力よ。

 それに……上手く誘導したら、言って欲しいセリフ、言わせられるかもしれないし。

 うふふ、楽しみ。


 にっこり微笑み返すと、早速プロデュース計画を練り始めた。



 本日はランチのみで解散。

 このまま更なる深みへと進む人もいるのだろうが……龍輝が徹夜明けと言うことを考えて、後日また会う約束をすることにした。

 龍輝も嬉しそうに頷くと、「ここは俺が」と言ってレシートを掴んだ。

 

 全額支払ってくれたわ。

 デート慣れしているようには見えなかったけれど……ノウハウは知っているみたいね。それともブレインでもいるのかな?

 

 最寄り駅が互いに近いことも分かって、この出会いは運命だったのかと心の中で盛り上がる。


 一華は最後まで優雅さを絶やさずに、龍輝も博識を披露し続け―――

 二人の思惑は微妙にズレつつも、最初のデートは大成功に終わったのだった。


 『マッチング成功? (一華side)』 了


 明日からプロデュースの章になります(笑)

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