第9話 先輩からのアドバイス

「だったら、これなんかどうだよ」

 スマホを取り出して見せたのは、マッチングアプリのサイト。


「俺はこれで今の奥さんと出会ったんだぜ」

 自慢気にのたまう五十嵐の顔を、龍輝が尊敬の眼差しで見つめた。


「ふはは。その犬みたいに素直な表情がお前の武器だよな。ムカつくけどなんでも教えてやりたくなってしまう。まったく得な奴だぜ。秘伝を伝授してやるから、いい女見つけろよ」

 

 こうして登録したマッチングアプリ。

 五十嵐の秘伝のお陰で、結構『いいね』の数が来た。早速、五十嵐に相談する。


「お前、やっぱスペック高いな。俺なんかよりたくさん『いいね』をもらいやがって。だがな、この数多の数の中から、運命の相手は一人だけなのさ。数うちゃ当たるなんて考えは浅はかと言うものさ」

「なるほど。で、どうすればその運命の相手と出会えるんでしょうか?」


 こそっと声を潜めた五十嵐。

「一つには忍耐強そうな女性だな」

「忍耐強そう?」

「恋愛とは、忍耐のいる地道な道のりだ。それを共に歩んでいかれるような、忍耐強い女性は、将来結婚してからも一緒に協力して進めるだろう」

「おお! 五十嵐さんの奥さんのように!」

「こ、こほん。まあ、そうなるな」


 照れた様に咳ばらいをする五十嵐を見て、龍輝は大いに納得した。

 

 流石、恋愛の先輩のアドバイスは一味違う。


「まあ、同時にお前の語りたいことを語っても、黙って辛抱強く聞いてくれる人って意味もあるけれどな」

「ああ、確かに。共通の趣味について語り合える人がいいですよね」

 

 五十嵐が口元を引きつらせる。龍輝と同じ趣味の女性なんて、この世に存在するのか疑問に思うが、それを言ったら夢も希望も無くなってしまうと口を噤んだ。


「お前はいい年齢だが、初めてのことばかりだ。だから、色々教えてくれそうな頭が良さそうな女性がいいと思う」

「確かに。男性がリードしなきゃいけないなんて考え方は古いですね。これからは女性がリードする時代」

「け、けほけほ」

「どうしかしましたか? 五十嵐さん?」


 咽だした五十嵐。自分の新妻を思い出した。

 最初はおとなしくて可愛らしかった。だが結婚が決まったあたりから、ずいぶんと強気発言が増えている気がする。新婚の部屋は全て彼女の好みに染まっている。

 自分の色は……無い。

 リードのなれの果てはこうなると思うものの、やっぱりそれを告げてしまっては夢も希望も無くなってしまうと、またもや口を閉じた。


「後は……お前の好みの容姿だ。切れ長の目がいいとか、ぱっちりとして潤んだ瞳がいいとか、胸は大きい方がいいとか、背が高い方がいいとか、ま、色々あるだろう」

「そうですね。美の象徴といったらミロのヴィーナスですかね」

「なんだ、その答えは! お前、意外とグラマラスな好みだな」

「え、違いますよ。不完全な美です」

「……お前はやっぱり修行僧だ」


 なんだかんだと言いながら、五十嵐も一緒になってアプローチする女性を選んでいく。それは意外と楽しい時間だった。

 

 今までは考えてもみなかった恋への好奇心。

 龍輝はワクワクしながらアプリと向き合った。


 そして今日、ichikaと出会ったのだった。

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