第6話 やっぱり無理
とは言っても、彼の面差しを変えたのが忙しい仕事のせいなら、彼の仕事についてリサーチしておかなければ。
でも、まずは……
早速情報収集を始めたかったけれど、まずはお腹を満たすことを優先する。にこりと微笑んでメニューを決めたことを告げた。
「私はこのパスタランチで。ペペロンチーノにアイスティーとティラミスにしようと思っているんですけれど、リュウキさんはどうなさいますか?」
「俺、いっぱい食べてもいいですか?」
「ええ、もちろん」
「じゃあ、このカルボナーラとアイスコーヒーにイチゴタルト。後単品でシーフードピザとシーフードサラダとカボチャのスープ」
そう言って満足そうに笑った彼に、一華は思わず突っ込んだ。
「もしかして、痩せの大食いですか」
「いや、そう言う訳でも無いと思うんですけれど、昨日の夜から何にも食べていなかったからお腹すいちゃって」
頭を掻きながらそういうリュウキの顔は、照れたような恥ずかしそうな困り顔。
またまた一華の胸キュンポイントにドストライクだった。
あん、こういう顔も好き。
「ごめんなさい。そうですよね。お仕事お疲れ様でした」
素直に詫びて柔らかに労えば、パアっと嬉しさを隠さないリュウキの笑顔が弾けた。
本当に、気持ちが駄々洩れの人なのね。
その素直さが清々しいと思った。
注文を伝えてからさり気なく仕事のことに話題をふる。
「あの……紅子さんの出産って、一体どんな生き物なんですか?」
その言葉に、またパアっと顔を輝かせるリュウキ。少年のような瞳で語り始めた。
「紅子と言うのは、俺が名付けたベニクラゲの名前です」
「ベニクラゲ?」
「あ、こんなちっちゃなクラゲなんですけれどね」
そう言って指で一センチほどの隙間を作る。
「え、ちっちゃい」
「そう、小っちゃいんです。でも、死にかけると生まれた時のポリプって言う状態にまで遡ることができるんですよ。つまり、若返ることができるクラゲ」
「若返りのクラゲ!」
「その秘密を解き明かすことが、俺の一生の夢なんです。不老不死の仕組みって凄くないですか! これぞ、完全なる生命体だと思うんですよ」
あ!
一華はその言葉にリュウキの返信を思い出した。
『それは、完全なる生命へのあくなき探求心と情熱です』
つまり、
思い描いていた意味と全然違う。
私のように自分の容姿や生活、生き方を完璧にプロデュースすることを日々探求しているわけじゃ無くて、研究者として
先ほどまでのワクワクモードが、一気に急降下した。
こういうの、価値観の相違って奴よね。
質問に対する解釈がまるっきり違っていたんだわ。
私としたことが、またしても痛恨のミス。
彼は『紅子命』なんだわ!
つまり、ストイックな
やっぱり無理。ありえない。
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