第17話 潰滅の知らせ
「惨虐(ザンギャク)将軍が死んだだと」
マーロ海軍提督にして軍団長なる奴流毘(ヌルヴィ)は怒りに震え、呻吟した。いったい、これを膂力皇帝羅范(ラハン)に何と告げればよいか。
たちまち斬首の憂き目に遭うであろう。
彼は元はと言えば、清真(セイシン)という遊牧民族国家の長の家柄であった。
時間稼ぎのために
その知らせは、スパルタクス帝国の皇帝レオニと皇太子ラコニクス、フロレンッチェ王国のチュザーレ王にも届いた。
老獪なレオニは彼の子息、皇太子ラコニクスに言った、
「存外、時間稼ぎにならなかったのぉ」
「そうですね、父上、ヴォードはどこまでやってくれるか」
その頃、アトランティコ大海洋を渡って、オエステ(西大陸)の超大国ヴォードの大艦隊がノルテの西端に着いた。その名もアトランティコ大海軍だ。
彼らは最近、鋼鉄で装甲されたキャタピラ式の戦闘車輛〝タンク〟を完成させ、据置型の大型野戦砲やプロペラ式戦闘飛行機の作製にも成功した。
近代化について、ヴォードが神聖イ・シルヴィヱ帝国を除く他国に一歩先んじたかたちとなった。
神聖帝国の科学技術には及ぶべきもないが。
二千隻の艦隊を率いる航空母艦ギャラクシーから、碧きマル・メディテラーノを見下ろし、パイプを咥えた提督ジェット・キャンディは、
「ヘイ、やっちゃうよ、やっちゃうよー、上陸、上陸」
スパルクス帝国を過ぎ、湾内に入る。左にフロレンッチェ、右にロードを見ながら。
「ロム皇帝がイ・シルヴィヱの傀儡なのは明らかだが、民衆に選ばれた男を無下に引き摺り下ろすわけにはいかない」
アンニュイがそう言うと、ジョルジュも、
「考えた、ってわけだ。
ふん」
アッシュールが言う、
「そう言えば、あれだけ叩きのめしてもマーロの海軍は引き下がらないようだな」
「おめおめと帰れないのだろう。羅范(ラハン)に殺されそうだからな」 ジョルジュがそう応え、「まあ、海上にいるうちは放っておくさ」と言って笑う。
アンニュイが、
「ヴォードの動きが気になる。ロードに向かっているようだが。フロレンッチェかもしれない。二つの国は海に向かって、ならんでいるからな。
いずれにしろ、狙いはロードへの介入だろう」
殉真裂士 2 しゔや りふかふ @sylv
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