第15話 革命
いくつかの異世界、並行(平行)世界において似たような状況、つまり、精神文明を重んじる聖なる都市アカデミアと、物質文明の発達した専制主義の神聖イ・シルヴィヱ帝国との葛藤、四大陸に分裂した諸国の世界戦争が熾り、これまた似たような人物らが活躍して、物語を紡ぐのであるが、この世界においては四年前に大戦争が起こり、イ・シルヴィヱは予備軍も含めた全軍五億のうち、四億を失うという大敗を喫した。
その時、アカデミア側に味方したのが、殉真裂士清明隊、すなわち、アンニュイら裂士十一名と賢者・哲学者の二名である。
その十三名で帝国軍のほとんどを壊滅させ、大陸間弾道ミサイルや音速で飛ぶ戦闘機、装甲戦車数千を剣と弓と真咒だけで叩き潰し、勝利に導いた。
帝国は軍事的にも経済的にも国家の威信・求心力的にも大打撃を受けるも、その回復は早く、こうしてわずかな期間で力を戻しつつ、以前ほどの規模ではないにしろ、数万単位の兵を動かし、侵略活動を続けているのである。
さて、イ・シルヴィヱの支援を受けてヴァルゴ革命は成功したかに見えた。
しかし、すぐに革命軍は分裂し、派閥に分かれ、争い、本旨を喪った。
結局、誰が王様だろうが変わらぬのである。
王侯貴族が〝王様〟になろうが、民衆が〝王様〟になろうが、人間である限り大差はない。
民主主義も共産主義も民衆を正義とすることに誤りがあり、かと言って、専制主義や帝国主義、全体主義が良いわけはなく、それらも民主主義や共産主義同様、いや、それ以下の悪政となることが必定であった。
わずかに民主主義がマシであるわけだが、多くの選挙民が虚しさを感じるように、代議制は完全にも完璧にも程遠い。しかし、他がないのである。
いみじくもチャーチルが言ったように、最善ではないがこれよりマシなものがないのであった。
今回、イ・シルヴィヱが描いたシナリオは英雄譚である。
革命は粛清・私刑、死刑の嵐。国がまとまらなければならないときなのに、それを顧みず、まともにことが進まない。
当然、これに乗じて大国が攻め入る。
砲兵将校であったロム・パクスはいくつかの小戦で勝ちを挙げ、その功績で参謀から意見を求められるようになり、ついに精度の高い大砲と、野戦向きの移動が簡単な小型砲(据置型)を生産の許可を取り、戦では無敗となった。
彼は革命政府の若者たちの中で持て囃され、短期間で将軍にまで昇り詰め、民衆の英雄となった。
軍人は軍神にも等しい彼に心酔する。
これを恐れた革命政府のいくつかの派閥が彼を弾劾しようとした。
「賽は投げられた」
ロムは軍を率いて革命政府へ殴り込み、権力を簒奪した。
「我らがヴァルゴの栄光のために」
ついに、皇帝となる。
ロムが大いなる皇帝の私室で深夜、火酒を傾けていると、侍従長が来て、
「お使いの方がお見えです」
「通せ」
あらわれたのは神聖イ・シルヴィヱ帝国の諜報員ド・マルクスであった。
「皇帝陛下、おめでとうございます。絶対神聖皇帝よりお祝いの言葉を授かってまいりました」
「帝国の精密な大砲設計と火砲戦術学の賜物です」
「陛下の天命でございます」
英雄皇帝ロムは傀儡に過ぎない。今回の侵略は殉真裂士の妨害を想定して、このように仕組まれたのである。
アンニュイの判断はヴァルゴの王朝にも革命にもくみさないが、イ・シルヴィヱを叩き潰すというものであった。
アッシュールが獅子のように唸った。
「四年間、退屈だったからな。久しぶりに暴れるか」
しかし、そのときだ。イ・シルヴィヱ撤退の知らせが来たのは。
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