第10話 財務、検察、税務を罰する
「さて、国家を運営するとなれば、大事だ。久しぶりに皆を呼び寄せようか」
アンニュイはそう言った。
だが、それ以前に、王に忠誠を誓った者たちがすんなり従うわけもない。
かと言って、殉真裂士に抗う者もいない。
アッシュールに治安維持を任せ、ジョルジュに至急、ユリアスとイマヌエルを呼びに行かせた。ユリアスは南大陸の最古王国コプトエジャの王家の庶子で、世界を流浪し、博覧強記、天地の理に通じた賢者で、裂士ではないが、固定メンバーである。イマヌエルも裂士ではないが、哲学者で、学(ロギア)に精通している。
アンニュイは王の家族を宮殿に軟禁することなく、今までどおり自由に生活させた。当然のことながら、旧臣が何十人も毎日通い、簒奪者である殉真裂士たちを打倒し、排斥する策略が練られた。
ジョルジュは警察長官や軍の元帥や参謀、軍司長官・大将軍や軍団長・師団長などを集め、王を不正により裁いた旨を簡単に説明し、いつでも叛乱を起こせ、陰謀も暗殺もよし、寝首を掻きに来い、と言い放ち、それでも、民衆の生活を守ると宣言した。
王に拝謁した謁見の間に、そのまま机や椅子や野戦ベッドを置き、羽ペンやインク壺を置いて、羊皮紙の地図を敷き、〝野営地〟となした。
何度も何時でも、王に忠誠を誓った騎士や兵士たちの襲撃を受けたが、全て撃退した。
「肝心なことは殺さないことだ。恨みというものは、我々のような圧倒的な強者にとっても、決して侮るべきものではない。人の恨みは恐るべきものだ。恨みの連鎖は恐るべきものだ。終わりがない。
それは畢竟、存在を賭けた闘い、踏み躙られた尊厳の憤りと、家族への愛による自己犠牲の精神だ。
生存に端を発し、最も強い精神、感情、魂となる。
いかなる強者もそれらを侮るべきではない。それゆえに殺すなかれ」
アンニュイは言った。
ジョルジュは軍の本部へ単独で乗り込んだ。兵部卿や軍部大臣を筆頭に将校や上級兵士が数多いる軍部省だ。
殺気立った中に、独り決然と入って行く。誰も手は出せなかったが、殺意の海のど真ん中にいるモーゼのようだった。
「君らの王は国家を裏切った。神聖イ・シルヴィヱ帝国に国を売った売国奴だ。君たちは国を愛し、命を聖なる誓いを立てたのに、それを裏切ったのだ。
君らは殉真裂士を信じないのか。
真実正義でない者を神は愛さない。私の存在が物的な証拠だ。それが私の成せる自らの潔白の証明だ。疑義があるか」
そして、聖なる月の剣を抜き、石の床に刺す。
「おゝ」
誰もが唸った。
剣は燦然と月光の皓々たる耀きで、広間全てをホワイト・アウトさせた。
その崇高に皆が打たれた。
「神よ……」
アンニュイは民衆の前で演説した。
「我らは侵略者でも征服者でもない。
暫時、臨時政府を運営するが、すぐに正当な選挙で国の元首を選び、君たちの主権に委ねる。
なお、国庫の内容を精査し、税制を点検し、民衆のための政治の原型を構築する。
国の財産は国民のもので合って財務省のものではない。財務大臣が自分の金のように偉そうに配分する体制を改める。自分たちの栄耀のために増税をした者は国家叛逆罪とする。
過去の財政を監査し、国民の利益にならない財政を行なった財務関係者は、大臣であろうと官僚であろうと、財産を没収し、民衆に与えた損害を賠償させた上で全員死刑にする。
また政治家の不正を見逃した検察を死刑にし、不正な資金から徴税しなかった税務官僚も同様とする。
悪は更生しない。悪には永遠の魂の死しかない」
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