第9話 戦争は勝っても負けても庶民が敗者で金持ちが勝者
「証拠はある」
アンニュイがそう言い放つと、王は眼を剥く。
「何だと」
アッシュールが手に持っていた四角い機械をどすんと置いた。「これが証拠だ」
「何だ、これは」
ジョルジュが鼻の下を擦りながら、
「イ・シルヴィヱが使う携行用の通信機というものだ。
奴らは科学という摩訶不思議な魔術を使う。これもそのひとつだ。
離れた場所でも、会話ができる」
アンニュイが語る、
「ここに来る途中で怪しげな奴らを見つけてね。我らの姿を見ると、死に物狂いで馬を駆って逃げ出した。
逃れられるはずもない。
取り押さえてみれば、イ・シルヴィヱの諜報部隊だった。叩き斬って、こいつを見つけた。
意思の隹(とり)を飛ばして、アカデミアの専門家から操作を教わった。他の通信機の会話を傍受できる。
そこでそいつを〝録音〟って奴をしてみた。このスウィッチで〝再生〟できる」
『ロードとの密約は反故にしろ。お前たちも、今すぐに撤退して国境の内側に入れ。王は殺されるかもしれぬ。たとえ生きていても、裂士に見つかっては死んだも同然だ。
証拠は残らぬ。契約者は時限で燃え出す薬が塗布してある』
そのときだ。
「陛下、大変です、書庫が火事です」
「早速、燃え始めたようだな。ふ。
哀れなものだ。国王とあろう者が、すっかり騙されたようだな」
歯噛みしながらも国王は、
「何の、想定の範囲内よ。想定外は貴様らの登場だ」
アンニュイはその言葉を無視し、
「ところで、王が死ねば国が乱れる。今は殺さない。
しかし、次はない。
ちなみに、お前が連絡し合っていたイ・シルヴィヱはどこの部隊だ。三年前の徹底敗戦で潰滅状態であったイ・シルヴィヱ帝国軍が正面から我らと諍うはずもない。
一部に未だ負けを認められぬ者が執念を燃やすと聞く。
それも一理あろう、大義を信じて多くの同胞が死せるがゆえに。
哀れな騙されし者どもよ。いつの時代も戦争の敗者も勝者も国ではない。権力者と金持ちが勝者であり、民衆が敗者だ。
すなわち、負けた国においても権力や金を持つ者が笑う勝者であり、勝った国においても持たざる民衆が嘆く敗者である。
真の敵は別にいるはずなのだが、我らを恨み、執して復讐せんとする者らがいるのも人情の理であろう。
憐れ哉、されどこれも一興。叩き潰すまで。
さあ、王よ、白状せよ」
王は蒼褪め、
「知らぬ。知るものか」
「ならば、やむを得ぬ」
アンニュイは王を斬った。
「王は死した。暫時この国は裂士が統治する。異論ある者は前に出よ」
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