第8話 情報局長の死

「このスープには毒が入っているな」

 そう言ってアンニュイは微笑した。

 店主が真っ青になる。

「そんな、恐ろしいことを、絶対にそんなことは」

 ジョルジュも微笑み、

「我らを毒殺しようなんて、愚かな。不可能なことだ。裂士が不死とは知られた事実」

「いえ、わたくしは、決して!」

 アッシュールも苦笑する、

「神の恩寵を侮っているのさ」

「誰よりも信仰しております! おゝ、神様ーっ!」

 アンニュイは店主を安心させる、

「あなたを疑ってはいない。最近、調理場に雇った者はいないか」

「おりますが、ベンヤミンは真面目で寡黙な男です」

 ジョルジュが皮肉な顔で微苦笑し、

「そりゃそうさ」

 アッシュールが立ち上がりながら、

「それがプロだ。詐欺らしい詐欺など稀有であろうさ。

 アンニュイ、私が行こう。ジョルジュはやり過ぎる」

「あのな、お前に言われたくないぞ」

「あはは、そうか、そうかもな」

 そう言いつつ、店を飛び出し、龍馬の手綱を握る。ほんの二秒前に、店の裏口から失踪する男の気配を感じたからであった。


 アッシュールに手足を折られて身動きできない男は店まで縄で龍馬に繋がれ、店まで牽きずり戻され、アンニュイやジョルジュの前に這いつくばっていた。

「なるほど、君はそのヤクザの親分に命じられて、数日前から我らがここに来ると聞かされ、待ち伏せしていたわけだ」

「へ、へい」

 ジョルジュが足を組んでぶらぶらさせながら、

「そのヤクザってのは、今は亡きネティフと手を組んでいたマフィアの下部組織だ。恐らくはまだ王国の官僚が雇っているんだろう」

 アッシュールが腕をくんっで、

「やはり、ネティフだけじゃないってことか」

 アンニュイが立ち上がる。

「じゃ、行くか」

 街道沿いの宿場町を出立し、裂士たちは濠と高い城壁に囲まれた王都に向かった。


 濠の水面を走り、城壁を駆け上り、城壁内に入るとヤクザの巣窟を蹴散らし、

「さて、依頼人はむろん、マフィアのボスであるトラップであろうな」

「ひ、お助けを」

「白状しろ。お前の組織は壊滅した」

「ドン・トラップです」

 マフィアのボスの豪邸に殴り込み、トラップをたたき伏せて踏み躙り、

「で? 依頼人は」


 警察庁長官は情報が襲撃され、局長が惨殺されたという報告を聞くと嘆息し、

「やれやれ、だから言わんこっちゃない」


 王は怒り狂った。

「何と思い上がった裂士どもめ」

 しかし、そのとき侍従長が来て、

「大変で、我が王よ、裂士たちが拝謁を求めて入ってきました」

「何だと!」


 それは拝謁などというものではなかった。

 衛兵を蹴散らし、ドアを突き破って王の謁見の間に押し入った。


「我らを呪詛するなど無駄な行為だ。同じく毒殺もな」

 ジョルジュがそう言って睨めつける。

 王は震え上がった。


 アッシュールが言う、

「むろん、今からこの国の軍を全滅させてもいいんだぞ。反社会的な組織とつるむ国家などクズだ。

 神の怒りを知るべきであろう」

「余は知らん、情報局が勝手にやったことだ」

 アンニュイが冷厳に言う、

「そうか。では、国王よ、貴殿はイ・シルヴィヱの誰と連絡をとっていたか、言え」

「知らん、そんなことはしておらん、公爵が余を裏切ってイ・シルヴィヱと手を結んでいたのだ、まだ余すらもそれを知ったばかりで、預かり知らぬこと、ネティフが勝手にやっていた陰謀で、余は反逆者ネティフの被害者じゃ」

「どうせ、イ・シルヴィヱには勝てぬ、いずれ、覇者となる超大国に今から媚びていた方が得策と打算し、密かに知りながら公爵の陰謀を見逃し、神聖帝国と内通し、国と民衆とを売ったのであろう」

「何の証拠が、誤解だ、ご、誤解だ」

 



 


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