第2話 忘神決闘
三月七日。
赤矢が心臓を抜き取られた...まさにその日。
夢塚市は人知れず、恐ろしい儀式の舞台になった。赤矢はその犠牲者になってしまったのだ。
その儀式の名を言おう。
権能を失い、人々から忘れ去られた神のなれの果て、ワスレガミ。そんなワスレガミに与えられたラストチャンス。
それが赤矢を殺した儀式...忘神決闘である。
***
三月九日。
赤矢が心臓を抜かれてから三日。
既に忘神決闘は多くの悲劇を生み出していた。
「心臓ゲッツ!新鮮でいいね~!」
そしてまた...新たな悲劇が生まれた。
草木も眠る丑三つ時。
夢塚市の住宅街の一角。
急な飲み会で酔いつぶれ、路上で一眠りしていたサラリーマンが惨殺された。
リーマンは無残にも心臓を抜き取られている。
ナムサン...泥酔と眠りで痛みを感じず死ねたのが唯一の救いだろう。
哀れな酔っぱらいを殺したのは誰か?
読者諸君はもう察しているだろう。
「これで今日は2つ目♪」
犯人はそう、赤矢の心臓を奪った男だ。あの時と同じく...鋭い爪のついた獣の腕で殺したのだ。
「今度は合うかなぁ...合うといいなぁ!」
男、チンピラは狂った目で叫ぶ。彼は狼神のワスレガミと契約した忘神決闘の参加者である。
ワスレガミとは、神のなれの果てだ。
神を神たら占める要素は三つある。
信仰、伝承、そして権能。
信仰と伝承が生きとし生けるものから消えた神。
もしくは神を神たらしめる権能が消えた神。
そうした神はワスレガミになるのだ。
ワスレガミは何も出来ない。
ただ消滅するだけの哀れな存在。そして、そんなワスレガミを救済するのが忘神決闘である。
「さぁ次だ!次の獲物を探そう!」
奪った心臓を懐にしまうチンピラ!月に照らされていた彼の姿が徐々に変貌していく!
忘神決闘に参加したワスレガミは僅かに権能が回復する。そして復活した権能を人間に与える契約をするのだ。それが何を意味するのか...?
「ウゥッ...アオォォォォォンンン!!!!」
ワスレガミと契約した人間は神の力を得る!
狼神と契約した彼は人間離れした力を持つ人狼に変身できる力を得たのだ!
「さぁ...次の獲物はドコだ!」
月に照らされながら歩くるチンピラ。
彼はまた新たな悲劇を生み出すだろう。
人狼と化した彼を脅かす者は居ないのだろうか?
【ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!】
人狼の耳に地獄めいた鼓動が響く。
明らかに人が放つ心拍音ではない...人外の鼓動。
「アァンン?」
存在感を放つ心音がする方を見る。
電柱に付けられた街灯が照らす住宅街の夜道。
月に照らされながら近づいて来る青年がいた。
【ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!】
「どうも、こんばんわ」
「__......は?」
【ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!】
頭に響く心音。それは果たしてチンピラのモノか目の前の青年のモノか?現れた青年を見て彼の頭はフリーズする。
「バカなっ...!?オマエは!?」
「あの時は自己紹介が出来なかった。だから今するよ」
整った顔の年若い青年。
チンピラはその青年を覚えている。
「僕は赤矢 成伊斗...アンタに心臓を奪われ殺された者だ」
チンピラの目の前に現れた青年の正体。
それは二日目、理由なく殺した青年。
赤矢 成伊斗その人だった。
「バカなッ!!あの時確かに...!」
「殺されたよ、心臓を奪われて」
「じゃや何で...!いや...待て!」
全力で頭を回転させるチンピラ!
ありとあらゆる可能性を足りない頭で考える!
間違いなく目の前の青年から心臓を奪い取った!
だが青年から間違いなく心臓の音が聞こえる!
ナンデ?どうして!?
「アンタと同じだよ。ワスレガミと契約した」
「なっ!?」
「人間って心臓を抜かれても数分は生きてるんだよ。そのタイミングでね...」
「じゃあその心臓は...!」
「あぁ、僕の心臓じゃない」
直後、赤矢の体から異常な音が響く!ミキッ、ミキッと音を出しながら体が変貌していく!
「僕と契約したワスレカミの心臓さ」
赤矢の姿を月明りがはっきりと照らした。
黒い鱗に覆われた竜脚と竜腕。
橙色の眼球に縦長の瞳孔。
禍々しい三本の角。
「りゅ、竜人!?」
「正解、よくわかったね。ゲームよくやる?」
そう、赤矢は死の淵でワスレガミと契約した!そして手にいれた...チンピラがワスレガミと契約して人狼になる力を得たように、赤矢は竜人になる力を手にいれたのだ!
「...もう分かるだろ、何で会いに来たのか?」
「...復讐か?」
「そう、ついでに契約者の役割を遂行する」
ワスレガミの契約者の役割。それは他の契約者を殺すことだ。契約者同士で戦い、相手を殺せれば契約しているワスレガミの権能が少し回復する。
ワスレガミの権能が完全復活するのに必要な契約者の殺害数は150人。ワスレガミを完全復活させるまで戦い抜くのが、契約者の使命だ。
「アンタの凶行を許せない」
「...だから?」
「ここで殺す」
「...易々殺されると思うか?」
赤矢の宣戦布告、チンピラは怯まない。
彼は冷静さを取り戻していた。
確かに驚いた...だがどうってことはない!
今まで通り殺せばいいのだ!
「馬鹿な奴だなせっかく命拾いしたのに...無駄になるんだからなぁ!!」
「バカはお前だ!やったことの重大さを理解する為に...僕と同じ目にあって貰おう!」
両者、同時に大地を蹴る!
狼神の契約者vs竜神の契約者!
神の力を宿した者同士の決闘が幕を開けた!
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