ワスレガミの狂騒

@mjidehansei

第一章 ユメツカ・ビギニング・ヘル

第1話 理不尽な死

夢塚市。

一年前に市長が変わってから大成長。

地方都市から都会にランクアップした話題の街。



都会での生活に憧れていた僕は、ド田舎な地元の高校に進学するのを蹴って、夢塚市にある高校に進学することにした。


けど家から通える距離ではない、だから必然的に一人暮らしすることになる。母さんは大反対したけど、父さんは受け入れてくれた。


父曰く

『実家の有り難みを味わうのも大切なことだ』

『今のうちに一人の辛さを知るのも大事だ』

『辛くなったらいつでも泣きついて来い』

とのことだ。



そうして中学の卒業式が終わった翌日の三月七日、僕は夢塚市に引っ越して来た。



ちょっと早くね、と思わなかったか?



いやなんだ、夢塚市で三年間一人で暮らすことになるんだ。高校に入る四月の入学式までに街での暮らしに慣れておこうと思ったのさ。



夢だった都会での高校生活!

その前に現地で1ヶ月の一人暮らし!

三年間暮らす街をよく知っておく予定だ!





「...予定...だったけど...無理そうだなぁ...」





朦朧とする意識の中、そう独り言を呟く。

僕、赤矢 成伊斗が夢塚市に来た初日の夜。


夜遅く、月明かりに照らされた道の上で...心臓を抜き取られた僕は力なく倒れていた。



冗談でも何かの比喩表現でもない。



マジのガチで僕は心臓を抜き取られた。

その証拠に僕の胸部には穴が空いている。

穴から止まることなく血が流れていく。



『都会の夜はヤバい奴が多い!暗くなったら出歩かないのが身のためだ!痛い目みるぞ!』



実家を出る前に聞いた父さんの言葉が頭に響く。

本当に...その通りだったよ父さん。



死ぬ前に...何があったのか振り返っておこう。



鮮明に思い出せる。

なんせ、こうなったのは一分前のことだから。



***



「おいしかったな~...週一で通おうかな」



夢塚市に引っ越した初日の三月七日。凄惨な姿になる一分前、僕は一人夜道を歩いていた。


引っ越しの疲れでさっそく自炊が面倒になった僕は商店街で夕食を済ませた。


おいしい担々麺屋だった。また行きたいな~...なんて思いながら呑気に住宅街を歩いていた。


借りたアパートまであと少し。そんな場所で僕は不審者...いやこの際はっきり言おう。




「なぁマジなんだよな!?嘘じゃねえよな!?ガチで殺るぜ神様!」




僕の心臓を抜き取り殺した男が現れた。




(これは...関わらないほうがいい奴だな)




もう誰がどう見てもヤバい奴だった。

サングラス、金髪、ガラの悪いスカジャン、派手なアクセサリー。百点満点のチンピラが意味不明な独り言を叫びながら前の道を歩いてきた。




(横道に逸れよう)




僕は偉かったと思う。ちゃんと危険を察知して男とすれ違うのを避けた。




「おうそこの中坊!ちょっといいか?」


「(マジかよ絡んできやがった)はいなんでしょう?」




ただ迂闊だったな。まさか追いかけて絡んでくるとは思ってなかった。



呼び止められ、仕方なく男のほうを振り返る。



反省点があるとするならここだ。

振り返らず走って逃げるべきだった。



振り返って見た男の姿。

電柱に取り付けられた街灯に照らされたその姿。




「悪りぃけど、俺の第一犠牲者になってくれ!」




狂気的な笑みで僕に迫る男。その男の腕はまるで...狼のような爪が付いた獣の腕だった。




「えっ_!?」


「心臓ゲッツ!!」




そうして僕は...男の獣の腕によって胸を貫かれ、心臓を引き抜かれた。




「なにが...起き...」


「スゲーぜ神様!俺様最強ゥゥゥゥゥ!!!!」




力なく前に倒れる。最後に見たのは...抜き取った俺の心臓を持って走り去る男の後ろ姿だった。




***




「...はは...意味わかんねぇ...」




実質、走馬灯のように状況を振り返った。

馬鹿馬鹿しすぎて思わず笑う。


あまりにも現実味がない。

だがもう起き上がる力も湧かない体が、この非現実的な理不尽を現実だと残酷に告げる。




「...終わりか...いやだなぁ...」




死ぬのは嫌だ。

だが生き残れる可能性がゼロだ。




助かる怪我じゃない。

誰か通りかかって救急車を呼んでも無駄。

救護隊が困るだけだ。




『人生諦めも肝心、潔く生きろよ』




父さんの言葉がまた頭に響く。

あぁ父さん...その通りだね。




「...終幕...だね...」




胸を貫かれた痛み、血を流す喪失感が心地よく感じ出す。僕は静かに目を閉じ、理不尽に突き付けられた終幕を受け入れた。




「いや、開幕じゃよ」




だが僕の永遠の眠りはすぐに終わることになる。

あっさりと蘇る。



「死にたくなかろう?返事は聞かん、我の心臓を貸してやろう」




そして知ることになる。

この街で起こる悲劇と狂気の連続を。




「今から小僧、お主は我の契約者じゃ」

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