第76話 魔物討伐訓練1

「うーん、出来ない!」

私はそう叫ぶと、ヘレナのベッドにひっくり返った。


「ちょっと、クラウ、何してるのよ!」

ヘレナが目を怒らせて飛んできた。

「私の部屋で魔術を使うのは止めてよね」

血相を変えて私に食って掛かるんだけど、


「使っていないわよ。魔術使う真似しただけでしょ」

私が言い訳すると

「あなたそれでなくても魔術使うの下手なんだから、下手に魔術が飛び出したらどうしてくれるのよ」

そう言いながら布団を触って燃えていないか確認してくれるんだけど、めちゃくちゃ失礼だ。


「やっていないって言っているでしょ!」

私が文句を言うと

「あなたの言うことなんて当てにならないわよ。今日もルード様と火魔術の練習してて、自分の的じゃなくて隣の的に当てていたって話じゃない。どれだけノーコンなのよ」

「知らないわよ。狙っても明後日の方に飛んでいくんだから」

ヘレナの声に私が答えると、


「あなた魔物討伐訓練でも魔術使わないほうが良いんじゃない? 下手にやれば味方に当たるわよ」

「それじゃ、いるだけ足手まといじゃない!」

「そうかも」

私の文句にあっさりとヘレナが肯定してくれた。

そんな事は絶対にないはずだ!


その後も、何回かルードも付き合ってくれたんだけど、私のノーコンは治らなかった。

「まあ、クラウ、いざとなれば俺のお守りもあるし、なんとかなるよ」

ルードまで諦め顔で言ってくれるんだけど。

でも、それじゃあ本当に皆のお荷物じゃない! 

それは嫌だ。

そう思って必死に練習したのに、良くならなかった。


「まあ、王妃が実際に戦うことはないんだから、これで良いんじゃないか」

ルードが何か言ってくれたが、最初の方は聞こえなかった。

私は皆のお荷物になるのは嫌だった。


ルードにいろいろ頼んで練習に付き合ってもらって、なんとか私で通用する魔術を身に着けたのだった。


「ルード、付き合ってくれてありがとう」

「うーん、でも、クラウ、あんまり使うなよ。これは」

お礼を言う私をとても心配そうにルードは見てくれたのだった。



魔物討伐訓練の当日は晴天だった。

私達は荷馬車に乗って出発した。

1クラス10人毎に別れて馬車に乗って行くのだ。

この10人が同じ班だった。

私はコンスらと一緒だった。

太陽の燦々と照る中、王都の町並みを1時間くらい走ると城壁の外の郊外に出た。

郊外は畑が広がり、所々で牛や馬が放牧もしてあって、とても長閑だった。


今日はここから、王都から少し離れたところにある北の森に行くのだ。

そこには多くの魔物が生息しているそうで、定期的に騎士団や冒険者たちが魔物の討伐をしているそうだ。


荷馬車は王家の馬車に比べて本当によく揺れた。

すぐにお尻が痛くなった。

私やヘレナ、ポピーはヒーヒー言っていた。


「どうしたんだ。これくらいで」

平然としているのは遠征慣れしているコンスくらいだ。


訓練では馬ではなくて馬車でも移動するというコンスは全然平気そうだった。

コンスと同じ剣術部の面々も大丈夫そうだ。

でも、なんか彼らも疲れ気味みたいなんだけど……

魔物討伐訓練を前にしてコンスが更にやる気に満ちていて、訓練が大変なんだそうだ。

そのうえクラスがコンスと同じなんて、なんて運の悪さだとかエグモントが文句を言っていた。

「うん、まあ、頑張るしかないよ」

私はそんなエグモントを慰めてあげたのだ。

なのにだ!


「今日はエグモントとベルナールが先陣を頼むぞ」

コンスが言い出した。

「「はい」」

二人が頷く

「その後方支援がヘレナとクラウで」

「判った」

私は喜んで頷いたのに、


「ええええ!」

「ちょっと、コンスタンツェ様。それじゃあ俺らはクラウに後ろからも攻撃される可能性が」

ベルナールの悲鳴に続いてエグモントまでとんでもないことを言ってくれるんだけど……


「私は味方を撃ったりしないわよ」

私は文句を言ったが、

「だってお前ノーコンじゃないか」

「そうだ。間違えて俺を後ろから攻撃して『ごめん、当たっちゃった』って言いそうだぞ」

「そんなことないわよ」

二人の言葉を私は否定したのだ。そのためにルードと特訓もしたし、


「ベルナール、エグモント、それが嫌だったら、一撃で魔物は倒せ」

「ちょっとコンス」

コンスにまで私がやりかねないと言われてさすがの私もムッとしたのだ。


途中で休憩して私達の馬車は北の森を目指した。


でも、北の森に近づくにつれて天気がどんどん悪くなってきた。

雲が空を覆い出したのだ。


「あれ、曇ってきたね」

「北の森は晴れることは少ないからな」

私の声にコンスが教えてくれた。

太陽の光が少ないほうが魔物が増殖するには良いそうだ。


北の森はどんよりと霧がかかっていた。

なんか全体に暗い。


「なあんか不気味ね」

馬車を降りながらボソリとポピーが言ってくれた。

「まあ、魔物がいるところだからな。明るかったら変だろう」

コンスが言ってくれた。

まあ、そのとおりなんだけど、私が見てもいかにも魔物がいそうで、とても不吉な予感がしたのだった。


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