第75話 聖女視点 悪役令嬢を魔物の餌にすることにしました
「ちょっとあなた達、離しなさいよ! あの女は悪役令嬢なのよ」
私は必死に叫んだが、私の取り巻きの男どもはルードの言葉を恐れたのか、強引に私を外に連れ出してくれたのだ。
こいつらもいざという時に助けになってほしいのに、悪役令嬢の味方になって私を外に連れ出してくれてるなんて最悪だった!
聖女の私よりも悪役令嬢を優先するなんて信じられなかった。
そもそも、ゲームでは本来なら悪役令嬢が暗躍して私を配下の者に命じて、私の教科書や筆入れを隠したり、水を頭からぶっかけて嫌がらせをして、虐めるのだ。
私は悪役令嬢に虐められても、健気に振る舞ってルード様の心を引いてルード様と私は相思相愛の関係になるはずだったのだ。
でも、その悪役令嬢が私を虐めないと、私とルード様の物語が始まらないのだ。
何も仕掛けてこなければ、ルード様が私に同情することもないし、私の健気さが目立たない!
当然ルード様とお近づきになるイベントも発生しないのだ。
ゲームでは、入学式の後のレセプションパーティーでは、ルード様は聖女の私と踊って頂くことになっていた。それをあの悪役令嬢はパーティー会場からルード様を連れ出すという禁じ手で私とルード様が仲良くなる機会を奪ってくれた。
そして、更には私を虐めないことで、ルード様と私が仲良くなるチャンスを奪ってくれた。
私は転生者が優しい性格で私を虐めてこないのかと誤解していたが、そうではなかったのだ。
悪役令嬢が私を虐めないことで、ルード様の私に対する好感度も上がらず、ルード様の悪役令嬢に対する好感度も下がらなかったのだ。
私は悪役令嬢の策略に見どこに引っかかってしまったのだ。
そして、好感度が上がっていない状態で、いくら私がルード様にアタックしても上手く行かないのは当然のことだった。
全て、あの悪役令嬢が陰で糸を引いていたのだ。
せっかく大聖堂で誘拐したのに、あの悪役令嬢はゲームでは私を助けてくれる公爵令嬢のコンスタンツェまで取り込んで、結界を破壊してくれた。
私の味方だったシスターはその失敗でいなくなってしまった。
あの悪役令嬢、何も判っていないふりをして、体でルード様を釣るなど性格も相当極悪だ。
でも、聖女の私と皇子であるルード様の仲が上手く行かないと、スタンピードが起こった時に、教会と皇帝の仲がうまく行かなくなって、討伐の連携がうまく行かないのだ。下手したら帝国は大打撃を受けてしまうのに、それではよくないだろう!
国のためにもあの悪役令嬢は排除すべきだ。
でも、私の取り巻きたちはそれがよく判っていないみたいだった。
どうしようと私が悩んでいる時だ。
私の孤児院のバルトルトが私を訪ねてくれたのだ。
「どうですか? 聖女さま。ルード様とはその後うまくいっておいでですか?」
バルトルトは優しい瞳を私に向けてくれた。
「上手くいっている訳無いでしょう。あの悪役令嬢が私とルード様の邪魔をしてくれるのよ」
私が文句を言うと、
「高々、属国の男爵家令嬢風情が、教会の聖女様に逆らってくれるなんて、本当に罰当たりな女ですな。そのような女には天罰が下るやもしれません」
「そうよ。絶対に天罰が必要よ。何をすればよいの?」
私が聞くと、
「聖女様は何もせずとも大丈夫です。その罰当たりな女は魔物討伐訓練で魔物に襲われることになりましょう」
バルトルトが教えてくれた。
「まあ、魔物討伐の時に魔物に襲われるのね」
「そうです。いくらルード様を籠絡していようと魔物に食べられてしまっては、どうしようもありませんからな」
「本当ね。でも、他の生徒は大丈夫なの?」
私が悪役令嬢の周りの生徒のことを心配して聞いてあげると、
「聖女様。天罰はその者とそれを許していた周りのものにも下るのです。当然多少の犠牲は出るでしょう。聖女様の庇護を求めるものに対しては、聖女様の癒やし魔術などをかけてあげれば宜しいかと」
「私に逆らう奴らは?」
「ほうっておけば宜しいのではありませんか、魔物の餌もたまには必要でしょう」
極悪な笑みを浮かべてバルトルトは言ってくれた。
「まあ、そうね。私に逆らう奴まで救う必要はないものね」
私は安心してバルトルトと一緒に笑ったのだ。
「教会から帝国には聖女様を守るように依頼はしておきます。そうすれば恐らく同じクラスのルード様が聖女様を守って頂けるでしょう。聖女様がルード様と仲良くなっている間に、その女は魔物の餌となるのです」
「それは良いわ」
私達は顔を見合わせて笑ったのだ。
あの悪役令嬢は魔術も大したことはないと聞いていた。
そんな彼女が突然現れた魔物に慌てふためいた時には、魔物に食べられているのだ。
今まで散々私とルード様の間を邪魔してくれた悪役令嬢がいなくなると想うと私はホッとした。
私としてはルード様と一緒にいて、それが見られないのが残念だが、そこは諦めよう。
その邪魔な悪役令嬢さえいなくなれば私とルード様を邪魔するものなどいなくなる。
私とルード様はゲームの中のように相思相愛になるのだ。
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