第74話 訓練場に聖女がいて文句を言ってきたのをルードが庇ってくれました

「うううう……」

またしても、私は魔術が一番出来なかった。

変だ!

水魔術でトイレ掃除もきちんとできたのに!

なんで火魔術はあまり出来なかったんだろう?


「どうしたの、クラウ?」

ヘレナが聞いてくれた。


「また、一番私が出来なかった」

ぼそりと言うと、

「何言っているのよ。ちゃんとファイアーボールはできたじゃない」

驚いてヘレナが言ってくれた。

「そうだぞ、クラウ。前回の灯り魔術と違ってちゃんと出来たじゃないか」

「そうよ。クラウだけ出来なかったらどうしようと心配していたけれど、ちゃんと出来たじゃない」

コンスとポピーも言ってくれるけれた。


ちょっと待って!

その言い方だと、元々私だけは出来ないかもしれないって思われてたってわけ?


三人をむっとして見ると、

「まあまあ、出来たんだから、良かったじゃない」

ヘレナに誤魔化されてしまった。

なんか、納得できない!



「むー」

私は、放課後の補講でも、何か納得できずに悶々としていた。


「どうしたんだ、クラウ?」

私のその顔を見てルードが聞いてきた。

私が理由を説明すると


「それは、仕方がないと思うぞ」

ルードが訳知り顔で言ってくれた。

「どこが仕方がないのよ!」

私がむっとしてルードを見ると、


「いや、だって、クラウは小さい時から、不器用だからな。運動神経の良い奴に比べたら、出来なくても仕方がないだろう」

身も蓋もないことをルードに言われてしまった。


「そんなことないわよ!」

私が反論すると

「木に登るのも、魚釣るのも、すぐには出来なかったじゃないか」

ルードに言われてしまった。

確かになかなかできなくて、ルードにいろいろ面倒を見てもらったけれど……


でもみんなの足手まといになるのは嫌だ。


「じゃあ、ルードが教えてよ」

「えっ、魔術を教えるのか? でも、クラウに下手に教えると何か起こしそうだし」

「どういう意味よ」

ルードの言葉に私はさらに頬を膨らませた。


「本当に、クラウはドジなくせに頑固だからな」

「何か言った?」

ぶつぶつ言うルードを見ると、


「判った。明日、放課後、訓練場で見てやるから」

「えっ、本当! 有難う」

私はルードに喜んで言うと、

「でも、明日の分まで今日やるからな。覚悟して勉強しろよ」

「ええええ! そんな」

「当たり前だろう。クラウの言うこと聞くんだから、俺の言うことも聞け」

私の反論は即座に封じられて、その日は夜遅くまで勉強させられたのだ……




翌日の放課後だ。

私はルードに連れられて、訓練場に行った。

でも、そこには想像以上にたくさんの人がいたのだ。

放課後なら誰もいないと思ったのに、私は完全に宛が外れた。


「あっ、ルード様」

そして、男どもに囲まれて話していたデジレが素早くこちらを見つけて、叫んでくれたのだ。


その声に皆、一斉にこちらを向いてくれるんだけど……

ルードの横に私がいるのを見て、女達はあからさまに、嫌悪の表情しているし、私は頭を抱えたくなった。

「やっぱり私を教えに来てくれたのですね」

この聖女の精神構造はどうなっているんだろう? 自分勝手だから、世界は自分中心に回っていると考えているんだろうか?


「いや、君の回りは優秀な者がいるから、俺が教える必要はないだろう?」

ルードが答えてくれた。


「えっ! いや、まあ、皆さんは優秀ですけど、ルード様程じゃないと思いますよ」

「いや、そんな事なないだろう」

ルードは流そうとした。

「わかりました。じゃあ、私の魔術使うところ見に来てくれたんですね」

へこたれずに、デジレは言ってくれた。

このしつこさは凄い!


「いや、君はこれだけ優秀なもの達に囲まれているから、問題ないだろう」

「そんな、わざわざ、私を見にここまで、来ていただけたんですよね」

「いや、違うが」

「そんな、私は教会の大司教様からはルード様に色々面倒を見ていただけるように言われてます」

そうじゃなきゃ困ると言う顔でデジレは言ってくれた。

「ふうん、俺は聞いていないけれど」

「そんな、いくらあか抜けない辺境のカッセルとかいう片田舎の属国の男爵風情が、可哀想だと思われたとはいえ、いつまでも、ルード様が面倒を見られるのもどうかと思います」

デジレが自分の胸を付き出してくれて、言ってくれた。

垢抜けないって、何よ!

胸がでかいからって自慢するな!

さすがの私も切れかけた。


「デジレ嬢。学園では皆平等だ。親の身分で差別することは禁じられている」

ルードが嗜めてくれた。

「そんな!」

デジレは悲壮感を漂わせてくれた。

回りの男達が、色めき立つ。


「殿下。さすがに聖女様を蔑ろにされ過ぎなのではありますまいか」

上級生のたしかあれは侯爵令息がデジレの肩を持って言い出した。

私が魔術を教えてほしいと言ったばかりに、これ以上、ルードに迷惑をかけるわけにもいかない。私が帰ろうとルードに言おうとしたときだ。


「ふう」

ルードは大きなため息をついた。

「ピーター、クラウ嬢を面倒見るように言っているのは俺の両親なのだが、お前はそれでもそう言い張るのか」

「えっ、皇太子ご夫妻がですか?」

ピーターはぎょっとした顔をした。

私も驚いた。二人からそうするようにとは私自身は聞いていない。エルザさんなら言いそうだけど。


「それとお前らは地位が好きそうだから、言っておいてやるが、クラウは男爵でないぞ。カッセル国王自身がクラウを伯爵位にすると、明言したのだ。だからクラウはオイシュタット伯爵本人だ。おそらく今現在、学園内では、誰よりも爵位は高い。

それに対して余計なことをすれば、それは皇家の意向に反すると言うことだからな。間違えないように。判ったな、ピーター」

私はその言葉に驚いた。確かにその通りなんだけど、今、皆に言う必要はあるのか?

ピーターさんはルードの言葉にこくこく頷いていた。


「そんな! やはり、あなたが悪役令嬢だったのね」

デジレが叫んできた。

「何を言っているんだ? ピーター、デジレ嬢は少し混乱しているようだ。下がらせた方が良いのではないか」

「ルード様、騙されてはいけません。その女は悪役令嬢なのです」

「で、デジレ嬢、取り敢えず下がりましょう。おい、皆」

デジレは何か叫んでいたが、男達に連れ出されたのだ。

私はほっとした。また、転生者だ、なんだと叫ばれたら、たまらなかった。


でも、デジレの怒り狂った視線は怖かった。魔物討伐訓練が無事に終わるとはとても思えなかった。


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