第69話 カッセル王国国王視点 帝国の皇帝に召喚されて驚愕しました

明けましておめでとうございます

今年もよろしくお願いします

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我がカッセル王国は帝国の版図の中では一番東部にある帝国を宗主国とする独立国だ。

誰がなんと言おうと一独立国なのだ。

我々のような国が帝国には10以上あり、帝国の発展に寄与してきたのだ。

基本的には帝国では皇帝陛下を宗主国のトップとして崇め奉るが、公爵家であろうが侯爵家だろうが、我が王国内のことにくちばしを挟まれるいわれはない。


そのはずなのだ。


しかし、ライゼマン公爵家が、一族の娘である男爵家の娘の扱いがあまりに酷いのではないかと、クレームを付けてきた。なんでも、娘は継母に虐待されていたらしい。


しかし、一門のことは一門の中でやってくれればよいはずなのだ。

本来はオイシュタット男爵家に公爵家から注意をすれば良かったはずではないのか?


それを国王のせいにされても困ると俺は言いたかった。


そもそも、オイシュタット男爵家自体が現皇帝陛下を振った娘が嫁いでおり、当時父と一緒にその扱いにとても悩んだのだ。

当然そのような家は帝国から睨まれていると思っていたし、そんな家を中々気にかけろというのも難しいではないか。

下手に優遇したと思われると今度は皇帝陛下から睨まれるのだ。


今回の件は帝国側にも責任があるだろう。


確かに、今回の件は男爵家当主の代理で、当主の娘の父親はカッセル王家の血を引くものだし、その継母というのが、オイシュタット家を伯爵家から男爵家にして、自らは伯爵家に陞爵したハイデック家の者だった。ハイデック伯爵家が後ろから手を引いていたのではないかと言われれば、その可能性を完全に否定できない。


仕方無しに、俺はハイデック伯爵家を子爵家に、オイシュタット男爵家を子爵家に戻すようにすると約束したのだ。


俺の側近のハイデックには涙を飲んでもらったのだ。


それが終わって俺様はほっとしていた。


皇太子妃殿下に言われた件もちゃんとしたし、公爵家の顔も立てた。

これで丸く収まるだろうと思ったのだ。


そして、休んでいたその夜だ。



「陛下、大変でございます」

俺はまたしても侍従に叩き起こされたのだ。


「今度は何が起こったのじゃ?」

俺は不機嫌さを隠さずに侍従に聞いていた。


「帝国からオイシュタット伯爵家の件で、すぐに話が聞きたいと皇帝陛下からの召喚状が届いた次第です」

侍従が慌てふためいていた。

「なんじゃと陛下から召喚状じゃと」

俺はあっという間に目が覚めた。


流石に俺様といえども帝国のトップの皇帝陛下から召喚されればすぐに行くしかない。


「今度は一体どのような要件なのじゃ?」

俺は呼ばれた理由がわからずに困惑した。


「それが、オイシュタット伯爵家の件について至急に聞きたいことがあると言われるのみで」

「使者は誰なのじゃ?」

俺は召喚の理由が判らずに不機嫌だった。


「それが外務卿が自ら見えられて」

「なんじゃと。帝国の外務卿が自ら参られたというのか? 今どちらにいらっしゃるのだ?」

「応接にお通ししてあります」

「判ったすぐに行こう」

俺様は慌ててベッドから出たのだった。



「これはこれは外務卿。わざわざ我が国にまでお越し頂いてありがとうございます」

俺は頭を下げた。帝国の外務卿なのだ。その力は絶大なものがあった。

それに今回は皇帝陛下の使者なのだ。

丁重に扱っても扱いすぎるということはなかった。


「いやあ、夜分遅くにすまないな」

外務卿が下手に出てきた。


「で、陛下のご用向きはどのようなことなのです」

「それが儂もよく判らないのだ。何でも昔貴国に嫁がれたライゼマン公爵家のエデルガルト様の件としか、儂も聞いておらぬのじゃ。その孫が虐待されていたとかどうとか、陛下と皇太子殿下が言われることが違って、陛下としては大したことはないから明日でも良いとおっしゃられたのだが、皇太子殿下が強硬に主張されての」

「皇太子殿下でございますか」

「何でもまた、皇太子妃と喧嘩されたそうで、はっきり言って夫婦喧嘩で走り回らせる儂らの身にもなってほしいものじゃ」

外務卿が愚痴を言ってきた。

「左様でございますか」

俺はそれを聞いて安堵した。

皇太子妃の言う通りに処置はしたし、公爵家の要請もこなそうとしているのだ。

これ以上、何か言われることもなかろうと安堵してしまったのだ。


しかし、王宮に着くと即座に謁見の間に通されたのだ。


「父上、そもそも父上がさっさと許さないからこのような事態になったのではありますまいか」

謁見の間では皇太子殿下が激昂していらっしゃったのだ。

俺は何かまずいと思った。


「陛下。カッセル国王をお連れしました」

外務卿が奏上してくれた。


「遅いではないか。外務卿。俺が依頼してから6時間も経っておるぞ」

皇太子殿下はとても不機嫌そうだった。

「いや、申し訳ありません」

外務卿が謝ってくれたので、最初からとてもやりにくい雰囲気になっているのだが……


「で、カッセル国王。我が国の公爵令嬢エデルガルト殿の娘のエレオノーレ嬢が亡くなった時、私は外務卿を通して、その娘のことはくれぐれも宜しく頼むとその方に依頼したのだが、何故それが守られなかったのだ?」

最初から殿下は詰問調だった。

「はい?」

俺は絶句した。

「公爵令息様からはそれに似たことはお伺いいたしましたが、外務卿からは皇太子殿下の事は何もお伺いしておりませんが」

「なんじゃと! 外務卿、その方私の言うことをきちんと伝えなかったのか」

「いえ、あの殿下。当時の外務卿は私ではございません」

外務卿は驚いて返事していた。


「そうであったか? しかし、前任者からはなんらかの引き継ぎを受けておろう」

「いえ、その件に関しては何も聞いておりません。しかし、鑑みるに、前任の外務卿は、昔のエデルガルト殿の経緯が経緯であるため、伝えぬほうが良いと判断したのではございませんか」

外務卿が言ってくれた。おそらくそれが理由であろう。


「それは我が父が40年も前の話を未だに根に持っていると言いたいのだな」

「いえ、そのような事は滅相もございません。ただ、そう鑑みただけで」

外務卿が言い訳した。


「それ見たことですか。やはり父上の態度が良くなかったのです。そのせいで一人の少女が虐待されて満足にご飯も与えられずに牢獄に繋がれていたそうです」

「牢獄に少女を繋ぐのですか? カッセルと言う国はそのように野蛮なのですか」

陛下の横の皇后様がおっしゃられたんだが、ちょっと待って欲しい。

「いえ、皇后陛下、娘は牢獄に繋がれていたことはございません」

「でも、その継母に鞭打たれていたと言うではないか」

俺は皇太子殿下に言われてそれ以上言えなかった。


「なんという不憫な。我が孫が皇家のゴタゴタの時にとても世話になったのです。その家の跡取りを虐待するなど、カッセル国王は容認していたのですか?」

皇后陛下の声はいきなり詰問調だった。


「とんでもございません。私としても今回の件は全く寝耳に水の話で」

俺は公爵家の跡取りに話した内容を再度話した。


「でも、エルザからはくれぐれもよろしく頼むと伝言があったのでしょう?」

「はい。それはございました」

俺は仕方無しに頷いた。


「ならば俺が依頼したと同じであろう」

皇太子殿下が笠にかかって言われる。


俺は絶句するしかなかった。


「しかし、何じゃな。そもそも儂は当時からオイシュタット家の降爵には反対じゃったのだ」

陛下の言葉に俺は固まってしまった。

「はい?」

皆唖然として陛下を見ていた。

「陛下がカッセル国王に依頼されたのではございませんので」

外務卿まで聞いていた。


「何を言う。儂はそこまで懐の狭い男ではないわ。確かにエデルガルトに思うところもあったが、オイシュタット伯爵には別に含むところもなかった。伯爵家から男爵家にまで降爵させたのは何か理由があったのか?」

俺は皇帝陛下の言葉に完全に固まってしまったのだ。


俺達は陛下の御心を鑑みて忖度して、オイシュタット家を降爵したのに、陛下はそこまで考えておられなかったとは……


「疫病対策がうまくいかず、飢饉を起こしてくれたのです」

俺はかろうじて言い訳した。

「そうか、しかし、飢饉はよくあることだ。それで男爵位まで降爵するのはいかがなものか」

陛下の御心を忖度して降爵したとは到底言える状況にはなかった。


「カッセル国王。我が家としてはオイシュタット家にはとても恩があるのです。大した理由のない降爵ならば爵位を戻してくれる訳にはいきますまいか」

皇后陛下にまでそう言われてしまえば俺にはそれ以上反対出来なかった。

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