第68話 ルードが皇子様だと知ってショックを受けていたら別れ際に頬にキスされてしまいました

食事を再開したけれど、私はルードが皇子様だって知ってショックを受けていた。

急にナイフとフォークが進まなくなる。


「クラウちゃん、どうしたの?」

エルザ様が私に聞いてきた。

「いえ、あの、私、今までエルザ様が皇太子妃様であることを知らなくて」

私がすまなさそうに言うと、

「まあ、クラウちゃん。何を言っているのよ。私が皇太子妃であろうが未来の皇后であろうが、あなたは私の親戚であるには変わらないわ」

平然とエルザ様はおっしゃっていただけるんだけど……

そんなことなのか?


「いえ、あの親戚って言っても私はカッセルの男爵家の娘でしかありませんし」

「何言っているのよ。元々あなたのおばあさまが今の皇帝陛下を振るから私が皇帝家に嫁いだって面もあるのよ」


それを聞いて私の血がさあああああっと引いた

そうだった。

私のおばあ様は今の皇帝陛下を振ったんだ。


ええええ!

おばあ様は帝国の皇帝陛下を袖にして属国の男爵家のいや当時は伯爵家の令息のおじいさまと結婚したの? 

私には信じられなかった。


「クラウちゃん、大丈夫? 顔が青いわよ」

「すみません。あまりにも多くの事が頭に入ってきてちょっと」

「クラウディアさん。気分がすぐれないのならば今日はもう休んだら」

大伯母さまが言ってくれた。

「申し訳ないですが、そうさせて頂きます」

私は立ち上がった。


「送ろう」

慌ててルードがこちらに来るんだけど

「いえ、そんな皇子殿下に送っていただくなんて」

私が慌てて断ろうとすると、ルードはデコピンしてくれたのだ。

「痛い!」

思わず私は額を抑えた。

「何言っているんだよ。俺はクラウの幼馴染のルードであって、それ以外の何者でもないんだよ」

ルードは唖然として突っ立っていた私の手を引くと、強引に歩き出したのだ。


「ちょ、ちょっと、ルード様、あの、失礼します」

私はあわてて皆さんに頭を下げるとルードに続いた。


「まあ、ルードったらクラウちゃんの前で恰好をつけて」

後ろからエルザさんが何か言っているのが聞こえたが、私には何と言ったか聞こえていなかった。


ルードが大股で歩いていると私はどうしても小走りになってしまう。

「ちょっと、ルード早い」

私が文句を言うと、ルードが立ち止まってくれた。

私は小走りになっていたからぶつかりそうになって慌てて止まる。


「そう、俺はルードだからな。俺の事を様付けで呼んだら怒るからな」

むっとしてルードが言うんだけど、

「えっ、でも皇子殿下に呼び捨てはまずいわよ」

私が言うと、

「やめてくれ。幼馴染のクラウまで様付けはいやだ」

ルードはわがままを言う。

「でも、皇子殿下を呼び捨てになんてできないわよ」

「今までやっていたじゃないか」

「それは知らなかったからでしょ」

私が文句を言うと

「いや、ごめん。君のお母さんがあとで教えたんじゃないかと思っていたんだけど、聞いていなかったんだな。学園で誰かから聞いたかとも思ったんだけど……」

「皆、ルード様っとしか呼ばないからわからなかったのよ。ルードの補講も何故か皇家とライゼマン公爵家の事だけ抜けていたし」

そうだ。ルードが飛ばしたのだ。絶対にわざとだ。


「いや、さすがに帝国の皇家の事と、自分の家のライゼマン公爵家の事は知っていると思ったんだ」

ルードは言い訳してくれたけど、

「私、メイドみたいな事させられていたから何も教育受けていないの知っていたでしょ」

私がむっとして言い返すと、

「いや、でも、皇帝一家の事なんて庶民でもふつうは知っているだろう」

ルードは当然のように言ってくれた。


「カッセルは属国だからカッセル王家の事は知っているけれど、帝国の皇家の事なんて知らないわよ。陛下の顔くらいは知っているけれど」

「そうか、おじいさまの顔は知っているのに俺は全く認知されていないのか?」

私の言葉にルードが残念そうにした。


「当然でしょ。あなたが、カッセル王家の事を知らないのと同じよ」

「何言っているんだよ。俺はカッセル王家の事はみんな知っているぞ。姿絵で覚えさせられたからな」

「えっ、そうなの?」

私はルードの言葉に驚いた。

帝国の王子は属国の主な伯爵家の当主の顔まで覚えさせられているらしい。


「凄いわね」

私が感心すると、

「何他人事よろしく言っているんだよ。クラウも覚えるんだよ」

ルードが当然のように言ってきた。


「ええええ! 帝国の学園の生徒ってそこまで覚えなければいけないの?」

私が聞くと一瞬ルードが戸惑ったように見えたが、

「当然だ。帝国貴族としては当たり前だからな」

胸を張ってルードは言うんだけど……

そんな……帝国の高位貴族の顔と名前すらまだすべては覚えていないのに、属国の主な伯爵家の当主まで覚えなければいけないなんて……。たしか帝国には属国が10以上あったはずだ。

いったい何人覚えなければいけないんだろう。

私は絶望した。


「ほら行くぞ!」

そんな私の手をルードは引いて歩き出してくれた。

でも、私なんか、帝国の皇子殿下に手を引かれていいんだろうか?

まあ、小さい時も含めたら数えきれないほど引いてもらったから、今更だけど……


そこから部屋の前まではあっという間だった。


「クラウ、明日からは母上とおばあさまのお相手が大変だけど、付き合ってやってくれ」

別れ際にルードがエールを送ってくれた。

「えっ、ルードは付き合ってくれないの?」

少し心細くなって私が聞くと、

「衣装選びに男の俺は付き合えないさ」

「それもそうね」

私は納得した。なんか嬉々としたエルザ様と大伯母様に着せ替え人形のようにされるんだろうか?

そう思うと少し憂鬱だった。


「頑張って」

そういうと、ルードの顔が近寄ったのだ。


チュッ


という音と柔らかい何かが頬に触れた気がした。


えっ?


「じゃあ」

私の戸惑いよりも先にルードはさっさと離れていったんだけど……



ええええ!

私は真っ赤になった。


今のキスだったよね!

私は唖然としてその場に突っ立ってルードを見送ったのだ。

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ここまで読んで頂いて有難うございました。

今年一年間私の小説、お読み頂いて有難うございました。

来年も頑張って更新していこうと思うのでよろしくお願いします。

皆様に来年一年間幸多い一年でありますように!


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