第67話 ルードが帝国の皇子様だと知ってショックを受けました

エルザさんに叫んでいる男性はおそらく、エルザさんの御主人様のエーリック様の筈だ。

エーリック様はエルザさんの方へ駆け寄ってきた。


「さあ、エルザ、帰ろう!」

エーリック様は私の目の前で、エルザさんに手を差し出したが、


「まあ、クラウちゃんが泣いた原因が入ってきたわ」

エルザさんはその手を無視して、私を再度抱きしめてくれたのだ。


えっ、私の涙の原因ってエーリック様なの?

それは違うと思うんだけど……

私にはエルザさんの言う意味がよく判らなかった。


「あなた、良くも私達の目の前におめおめと出て来れたわね!」

エルザさんは私を抱きしめながら言い放ってくれた。


「えっ、いや、エルザどういうことだ?」

エーリック様もよく判っていないみたいだ。


「あなたが私の言うことを聞いてくれなかったから、このクラウちゃんは食事も満足に取れなかったのよ」

「えっ?」

エーリック様はエルザさんと私を見比べてた。

「この子がクラウディアさん?」

「そうよ。私の親友で従姉妹の娘よ。今も我が家のお肉を食べて、生まれて初めてこんな美味しいものを食べたって泣いていたのよ。それもこれもあなたが私のお願いをちゃんと聞いてくれていなかったからよ。可哀想にクラウちゃんはあなたが私が頼んだことをしてくれなかったから、継母に虐められて満足に食事さえ与えられなかったのよ」

何か、少しエルザさんが誇張している気がするけれど、エルザさんが怒っている前で指摘するのは良くないだろう、と私は黙っていることにした。


「いや、それは本当に申し訳なかった」

エーリック様は私達に頭を下げてくれたんだけど、

「私に謝ってどうするのよ。この子に謝りなさいよ」

きっとしてエルザさんが指摘すると、


「いや、色々苦労をかけて申し訳なかった」

エーリック様が私に頭を下げてくれたのだ。


「いえ、あの、エーリック様のせいではございませんので。頭をお上げください」

私は驚いて言った。貴人に頭を下げさせるわけにはいかない。


「ほら、この子もそう言っているではないか」

それに気を良くしてエーリック様はエルザさんの地雷を踏んでいた。


「はああああ! あなた何か言った? それはこの子の立場からしたらそう言う事しか出来ないわよ。

あなたはこの帝国の皇太子なのよ。皇太子に頭を下げられたら私でもそう言うわよ」


「えっ!」

私はその言葉にぎょっとした。

「エーリック様って皇太子殿下だったんですか」

私は完全に固まってしまった。

今、その皇太子殿下から頭を下げられたってこと?


ちょっと待って、エーリック様が皇太子ということはその妻のエルザさんは皇太子妃なの!

なのにエルザさんってさん付けで呼んでいた!


というか、じゃあ、ルードはその息子ってことは、皇太子の息子ということは皇子殿下で、それも一番上だって聞いたからひょっとしなくても未来の皇太子、じゃあ、いずれは皇帝陛下になるの!

そんな人を属国の男爵令嬢風情がルードって呼び捨てにしていたってこと!

私は青くなった。


皆が色々文句を言ってくるはずだ。

私はレセプションでその皇子殿下と踊って二人で会場を抜け出したんだ。


それは皆怒るわ。

と言うか、なんでヘレナは教えてくれなかったのよ!


私はそんなことを一瞬で考えた。


と言うか、今も私を皇太子妃様が抱いてくれているんだけど、これって良いの?


「どうしたの? クラウちゃんは私の夫が皇太子だって知らなかったの?」

驚いてエルザさん、いやエルザ様が聞いてこられた。


「はい」

「まあ、ルードも言わなかったんだ」

「はい」

「まあ、昔は危険だから身分を隠してあなたの所に行かせたいたものね。クラウちゃん、そんなに気にしなくてもいいわ。私もいつまでも妃を続けているかわからないし」

「な、何を言うんだ。エルザ!」

皇太子殿下がエルザさんに詰め寄ろうとしたが、私が間にいて近寄れない。


「ちょっと、父上。何、クラウに近付いているんですか!」

そこへ、ルードまで入ってきて、もう訳がわからなくなりつつあるんだけど……


すみません。申し訳ないですけど、私は属国の男爵家の令嬢でしかありませんので、高貴な方々は別の場所で喧嘩してくださいと思わず言いそうになった。


でも、喧嘩の原因が私だ! どうしよう?


とりあえず、私をエルザさんが抱きしめて、皇太子殿下と私の間にルードが入ってくれた。


「ルード、退け!」

「どきませんよ。父上こそクラウに近づきすぎです」


「あなた、良いですか」

そこに回り込んでエルザ様が皇太子殿下を指さされた。


「私はこのクラウちゃんがちゃんと生活できるようにくれぐれもカッセル国王に頼んで下さいとお願いしましたよね」

エルザ様がもったいなくもそのようなことを皇太子殿下に頼んでくれらしい。


「ああ、だから俺も外務卿にカッセル国王にはくれぐれもちゃんと面倒を見るように依頼させたのだ」

 私なんかのことを皇太子殿下がわざわざ国王陛下に依頼してくれていたの!

私は感激した。


「その結果クラウちゃんは奴隷のような生活をさせられていたんですけど、これはどういうことですの?」

でも、エルザ様は許さなかった。


「いや、それはだな……」

「継母に鞭打ちまでされていたそうではありませんか。エレオノーレが今際の際に私にどうかこの子のことはお願いねって頼んでいったのに! どういうことなのです!」

ますますエルザ様は激昂しているんだけど……


「いや、そんな事になっているとは思ってもいずに」

「なんでこうなったか、じっくりと説明して下さい。誰の責任でこうなったか?

今回の件、私は全然納得しておりませんから」

「判った。すぐに関係各位を集めて確認する」

「まだ、してませんの? 本当に遅いのね」

「いや、早急にするから」

「当たり前です。きっちりとした説明ない限り私は絶対に帰りませんからね」

エルザ様の捨て台詞を背に、皇太子殿下は慌てて帰って行かれた。



「あのう、エルザ様。皇太子殿下には謝って頂けましたし、ルード様にも助けていただきましたから私は別にもうなんとも」

「クラウちゃん、何を言っているの! 男はそれでなくてもつけあがるんだから。こういうところはきっちりとしないとだめなのよ。あなたもルードに対してはきっちりと線引するところは線引しないとなあなあではだめよ」

私が翻って怒られてしまった。


ルード様に線引するところって寮のご飯の時間までに補講を終えるようにしてほしいとかそう言うところだろうか? 

私には良く判らなかった。


「エルザ、喧嘩が終わったのなら、早く食べてしまいなさい」

それまで二人で食べておられた大叔母様夫妻は、皇太子殿下が現れて、嵐のように帰られても全く他人事だった。

ルードによるとよくあることらしい。


と言うか、ルードが皇子様だって知ってこれからどう接したら良いんだろう?

私は呆然としてしまったのだ。


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