第70話 ドレス工房との衣装合わせの途中にカッセル国王が来て、なんと私に頭を下げてくれました

ええええ!


な、なんで、ルードは私にキスしたの?


まあキスっていってもほっぺたにだけど。

親族間の親愛のキスなのか?


私の母とルードの母は従姉妹だそうだから私とルードはまた従姉妹だ。

それに幼馴染だ。

別にほっぺたにキスくらいならしてもいいとは思う。


でも、私の記憶にある限り、ルードが私にキスなんてしたことはなかった。


どんな意味があるんだろう?

それを考えると私は寝れなかった。

顔が赤くなってなんか体がほてっているんだけど……


よく考えろ私。


ルードにキスされる前までは私は、ルードが皇子様だということを知ってとてもショックを受けていた。

ルードは私を継母に奴隷のように扱われていた家から連れ出してくれて、行きたかった学園に連れてきてくれた私の大恩人だ。そんな彼が属国の男爵令嬢ですらない私からしたら雲の上の帝国の皇子様だと知って、私はとてもショックを受けていた。


だってルードは私が勉強できないと叱責されるから、おそらくルードのお母様のエルザ様にだと思うけど、毎日、私に勉強を教えてくれていたのだ。

私はそれを宿題も多いし面倒な事だと思ってはいたが、忙しい中で熱心に教えてくれるルードとの勉強を楽しんでいたのも事実だった。

でも、ルードの身分が皇子様だとわかったら、さすがの私でもずっと勉強を見てもらえるのは悪いと思っていたのだ。

何しろ彼はこの帝国の皇太子殿下の嫡男なのだから。

本来、彼は私なんかに構っている暇もないと思うし、私なんて属国の男爵令嬢が傍にいたら、ルードに迷惑になると思うのだ。


そんな事を考えて悩んでいたら、今度はルードにキスされてしまってそれどころでは無くなった。


ルードが私を好き……それはないはずだ。

何しろ最初は学園ではルードに気安く話しかけてくるなって言っていたくらいだから……


でも、なんでキスをしてきたんだろう?

異性にキスなんてしてもらったの初めてだから私はその夜は悶々として中々寝られなかったのだ……


そして、翌朝、カトリナさんが起こしてくれた時、私はあまり寝れてなくて頭がどんよりしていた。


「まあ、クラウディア様。目に隈を作られて、色々ご心労が貯まっていらっしゃるのですね」

カトリナさんに同情されて待ったんだけど、カトリナさんは私がルードやエルザさんの正体を知って驚いていると思っているんだ。

でも、私は今はそれどころでなくて、ルードがキスしてくれたことなんだけど……


1階のダイニングに降りると、公爵夫妻とエルザ様は既に食事を食べられていた。

ルードは仕事をしに皇宮に帰ったそうだ。どんな顔して目を合わせたら良いんだろうと思っていたので、私はホッとした。


「おはようございます」

私が挨拶すると

「おはよう、ちゃんと昨日は寝れた?」

大伯母様が優しく聞いてくれた。


「はい、少しは」

「まあ、クラウちゃん、化粧で隠しても目の下に隈を作ったのは判ってよ。まだ、あなたが皇家と親戚だって事が理解できないの?」

エルザ様が言ってくれるんだけど、というか、私はこの公爵家の縁者であるってことがまだ理解できていないような気がするんだけど……


「大変だと思うけれど、あなたもこのライゼマン公爵家の血を引いているのだから慣れるしかないわね」

あっさりと大伯母様は言ってくれるんだけど、それは絶対に慣れられないと思う。

私は曖昧に頷いた。



その朝食のすぐ後だ。ドレス工房の人たちがやってきた。


私は聞かれてもわからないので、大伯母様とエルザ様主導で話が進みだした。

細かく採寸された後で、私は大伯母様とエルザ様と工房の人たちに着せ替え人形のように取っ替え引っ替え衣装を着せられたり、布をあてがわれたりした。


「この色はクラウちゃん合うわね」

「でも、お母様、もう少し明るいほうがよくなくて?」

「ではこちらの布はいかがでしょうか?」

「そうね。でも、それならこちらの方が良くない?」

「さすが奥様。お目が高いです」


私は次々に服を着せられて、目が回りそうになった。


そんな時だ。ノックの音がしてカトリナさんが出て、慌てて大伯母様にメモを渡していた。


「まあ、早速皇太子殿下がカッセル国王を連れていらっしゃったみたいよ」

大伯母様が爆弾発言をしてくれたんだけど、

「えっ、陛下がですか?」

私は驚いた。


一応私はカッセル王国の住民で、私の頭の中では我が国で一番偉いのはカッセル国王陛下なのだ。

その陛下が来たということは皇太子殿下に呼ばれて来たに違いない。

私のせいで呼ばれたんだろうか?

私はとても申し訳ない気分になった。



「お待たせしました」

大伯母様を先頭にエルザ様と着替えた私が続いた。

席には皇太子殿下とカッセル国王が公爵様の向かいに座っておられたる。


「おお、皇太子殿下が待ちくたびれておられたぞ」

公爵様がエルザ様に言われるが

「まあ、カッセル国王、わざわざエーリックがお呼びしたの?」 

皇太子殿下は無視してエルザ様は疲れ切った様子のカッセル国王に目を向けた。

「お忙しいのに、大変だったでしょう。私が会いたいと言っても全然来てくださらないのですもの」

その言葉に盛大に陛下はむせていた。

「いえ、皇太子妃様がお呼びになられればいつでもどこでも即座に参りましたのに」

陛下は必死にエルザ様に頭を下げておられた。

我が国と帝国の力加減が良く判った。


「ふーん、その割に行動が遅いように思いますけれど」

「何をおっしゃいます。私としては最速で最善を尽くしたつもりです」

陛下は慌てて皇太子殿下を見られた。

「そうだ。エルザ。国王は尽力してくれてオイシュタット家は伯爵家に戻すことに決まったのだ」

皇太子殿下が自慢げにおっしゃられた。


「まあ、私が弟を通して頼んだ時は子爵家が限度だとおっしゃっていらっしゃったそうですけど」

更に皮肉をエリザ様がおっしゃられると

「いや、あの」

「まあ、エルザ、そういじめてやるな。今回は皇帝陛下にもお骨折り頂けたのだ」

皇太子殿下が横からとりなした。


「まあ、お義父様が。それでは仕方がございませんわね」

エルザ様が頷いて国王はホッとしたみたいだった。

「でも、カッセル国王。あなたがちゃんと面倒を見て頂けないから、わがライゼマン公爵家のクラウディアは、とても悲惨に目にあっていたのだけれど」

「いや、その件に関しては申し訳ありませんでしたな」

陛下がエルザ様に頭を下げられた。


「謝る相手が違うのではなくて」

エルザ様が国王を睨みつけるんだけど、


「クラウディア嬢、申し訳なかった」

今度は陛下が私に頭を下げてきてくれたんだけど……


ええええ!

ちょっと止めて。一国の国王がその配下の男爵家の令嬢に頭を下げるのは止めて!

私は心のなかで悲鳴を上げたのだった。






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