第56話 女の人がルードのお母様だと判りました

私と一緒に怒られた女の人はエルザさんという名だとおっしゃられた。

学園メイド服に似た服装をしているが、立ち居振る舞いが無駄のない洗練された動きで、どう見ても貴族のご婦人だ。


「エルザさんもエルザさんです。なにもクラウディアさんと一緒になって遊ぶことはないでしょう」

アデライド先生がエルザさんに目くじら立てて怒っている。


「まあ、アデライド先生、久しぶりに学園に来たので、学生気分に戻ったのです」

「あなたという方は……」

ニコニコ笑って言うエルザさんにアデライド先生が頭を押さえていた。

そういうところを見るとエルザさんはこの学園の卒業生っぽかった。


「よく、ここに来るのをエーリック様が許されましたね」

「何故、私がここに来るのにあの人の許しを得ないといけないのよ」

エルザさんがアデライド先生の言葉に反論するとアデライド先生は頭を抱えていたんだけど。

エーリックってどこかで聞いたことのある名前なんだけど……誰だったっけ?

私は思い出せなかった。


「とりあえず、エーリック様が不在を聞きつけられて騒ぎになる前にお戻りなさい」

「ええええ! 久しぶりに学園に来たのに」

「エルザさん!」

「まあ、いいわ。今日はクラウちゃんとお知り合いになれたから。またね、クラウちゃん」

笑って私に手を振るとエルザさんは帰って行かれたのだ。




でも次の日もエルザさんは現れたのだ。

それも礼儀作法の補講の時間に。

今日はエルザさんは貴族の装いで、侍女を二人連れていらした。


「実践練習も必要でしょう」

強引にアデライド先生に言うと、連れてきた侍女たちがテーブルでお茶のセッティングをはじめたのだ。


アデライド先生は頭を抱えていた。

「まあまあ、アデライド先生もお掛けになって」

エルザさんが勧める。


「しかし、エルザ様。クラウディアさんはまだ貴方様と一緒にお茶など取れるほど礼儀作法が出来ておりません」

いきなりアデライド先生の口調が代わってエルザさんを様呼びに変えたんだけど、


「何を言っているのよ。わたしはこの学園の卒業生なんだから。別に礼儀作法なんて最低限のことが出来ていたら良いわ。それにクラウちゃんは姿勢がとても良いわよ。エレオノーレにきちんとしつけられていたんでしょ」

エルザさんから母の名前が出たのだ。


「母をご存知なんですか?」

「ご存知も何もないわよ。そもそもエレオノーレは学園時代の私の親友だったのよ。あんなに早く流行病で無くなるなんて思ってもいなかったわ」

「そうだったんですか!」

わたしは驚いてエルザさんをみた。


「だからクラウちゃんは私の親友の娘なのよ。なのに、あなたが虐待を受けていた時に何も出来ずにごめんなさいね」

エルザさんは頭を下げてくれたけど、

「いえ、エルザさんが謝って頂くことではありませんから」

私が首を振って言うと、

「そんな事ないわよ。あなたのお母さんにはとてもお世話になったんだから。それなのに、まさかあなたが虐待されていたなんて! カッセルの国王にはくれぐれもきちんと面倒を見るようにと弟を通じて依頼していたのに、やっていなかったなんて信じられないわ。抗議したら、謝罪文と「クラウちゃんを虐めていた継母と連れ子は鉱山に送ったから二度とあなたの前に出てくることはないから安心してほしい」と言ってきたけれど、本当に遅いわよね」

私はエルザさんの言葉に唖然とした。継母達は修道院に送られたはずだったけれど、鉱山に代わったんだ! 私は驚いた。

「えっ? いえ、エルザさん。流石にカッセル王国の陛下に面倒を見てもらうわけには……」

私が戸惑って言うと、

「何言っているのよ。本来ならば私がちゃんと面倒を見られたら良かったんだけど、流石に属国といえども、私がくちだすのは良くないと思ったから、国王に頼んだのに! 私からの依頼をないがしろにするなんて、本当にカッセル国王は思い上がりもほどほどしいわ」

エルザさんが怒っているんだけど、話したことはないけれどカッセルの国王陛下よりもエルザさんの方が圧倒的に力が強いのは良く判った。

絶対にこの人には逆らわないようにしようと私が心に思った時だ。


「母上、何しているんですか?」

そこにルードが大声を上げて飛び込んできたのだ。

そして、私の前に立ってエルザさんを睨みつけていた。


「母上って、エルザさんはルードのお母様だったんですか?」

私が驚いて聞くと

「あら、言っていなかったかしら」

エルザさんは笑って誤魔化してくれたんだけど、私は青くなった。

でも、よく隣で見れば二人は見た感じが似ていた。

「というか、母上は何故、私に無断でクラウに接触しているんですか? まさか虐めていたんじゃないでしょうね」

きっとしてルードが睨みつけた。

「何言っているのよ。私がクラウちゃんを虐めるわけないでしょ」

「本当ですか」

疑り深そうにルードはエルザさんを見るんだけど、

「虐めていないわよね。クラウちゃん」

「はい」

私は頷いた。

「クラウ、嘘をつかなくていいぞ。虐められたらいつでも言うんだ」

ルードが言ってくれた。


「あのね。そもそもあなたが全然紹介してくれないから悪いんでしょ」

膨れてエルザさんが言うんだけど。

「それはクラウがまだ礼儀作法も全然出来ていなくて」

「そんなの関係ないわ。あなたが停学になってしまうし、クラウちゃんの友達のコンスタンツェちゃんも一緒に停学でしょ。学園にいるクラウちゃんが心無い貴族たちに何かされているんじゃないかって心配になるのは当然じゃない」

「その点は私も色々と手を打って」

「ふんっ、だからあなたはまだまだなのよ。あんな平民の男の子じゃ全然ダメよ。特に性悪聖女がいろいろとやっいたから、教会にも再度注意をしておいたわ」

そうか、それで今日は嫌がらせが少なかったんだ。

私は判った。


「と言うか、あなた停学中でしょ。勝手に出てきてよかったの?」

「はいっ! 母上が俺に黙って学園に向かったと聞いたから、クラウになにかするつもりかもしれないと慌てて飛んできたんです」

「あなたね。実の母親が信じられないの?」

「母上は強引ですからね。なにするかわかりませんし。今もアデライド先生の授業を邪魔していますよね」

ルードは言い張った。


「何言っているのよ。せっかくやっとクラウちゃんと会えたんだからお茶くらいしてもいいじゃない」

「だから、まだクラウは礼儀作法が」

「だから学園でやっているんでしょ」

二人が言い合いを始めたのだ。

私はぽかんとしてみていた。

母がいたら私もこんな感じで喧嘩していたのだろうか?

私は少し羨ましかった。


「ルードさん。あなたは停学の身なのですから、皆に見つからないうちにすぐに帰りなさい」

「そうよ。さっさと帰りなさい」

「母上がいたら安心して帰れません」

「なんなの? あなた実の母が信用ならないの?」

「はい、母上、帰りましょう。クラウとお会いできたから良いでしょ」

「えっ、まだ話足りないのに。あなたの子ども頃のこととか話していないし」

「余計なこと言わなくて良いんです」

ルードは抵抗する母親を強引に連れて帰ったのだ。


「じゃあ、クラウちゃん、またね」

ルードのお母様は私に手を振りながら息子に手を引っ張られて少し嬉しそうに帰っていったのだった。


私はそのルードのお母様と次の日も会うとは思ってもいなかったのだ。

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