第57話 ルード視点 母を呼びに行ったら父と二人で延々と怒られることになりました

俺はまさか自分が一週間の停学になるとは思ってもいなかった。

俺は単にコンスを示唆しただけで、教会の破壊には何もしていないのに……それに元はと言えばクラウを誘拐しようとした教会が悪いのだ!

何故、俺様が停学にならないといけない!


俺は学園で怒りまくったけれど、アデライド先生の決定は翻らなかった。

何でも示唆したのも罪だそうだ。

「じゃあ、クラウを誘拐しようとした教会の大司教はもっと悪いですよね」

「しかし、証拠はないでしょう」

「配下が勝手にやるわけはありません。絶対に大司教が咬んでいます」

「しかし、証拠はないのです」

教会は騎士は余程のことがないと入れないので、後のことは教会に任せるしかない。

俺は散々粘って大司教の管理不行き届きで1ヶ月の減給をさせることしか出来なかった。


まあ良い。停学の一週間は、貯まリに貯まっている仕事を自分の執務室に籠もってすればよいだろう。


ただ、クラウの事が心配なので、同じクラスの文官志望のベルナールにくれぐれも宜しくと任せたのだ。

コンスがいなくなるのが痛いが、クラウにはヘレナとポピーという友だちもいる。なんとかなるだろうと俺は思っていた。



そんな俺が、親父から回されていた仕事を必死にやっている時だ。

親父から急遽呼び出しがかかったのだ。


「なんなんだよ。この忙しい時に」

俺は親父の文官にブツブツ文句を言いつつ、親父のもとに行くと


「ルード、お前は学園を停学になったそうだな」

とても不機嫌な声で親父が言ってくれた。


「停学になったのは教会が学園の生徒をさらおうとしたからです。私はそれを助けるためにやったことです。文句は教会に言っていただきたい。私は悪いことは何一ついたしておりません」

俺は言い切ったのだ。


「何が悪いことをしておりませんだ。お前のせいで貴様の母親が学園から呼び出しを食らったそうではないが」

父はとても不機嫌そうに言った。

この父は見た目からは想像できないが母を溺愛しており、近くに母がいないと聞いただけで、機嫌が悪くなるのだ。


「はい? そんな事は私は聞いていませんが」

俺は反論した。


「何を言う。母の侍従はそう言ってきたぞ」

「そうは言われても私は知りません。そう言う名目でどこかに母上は行かれたのではありませんか」

俺が平然と言うと

「なんだと、それは真か」

父は怒りのあまり立ち上がったのだ。


皆顔を青くしている。


本当に父は面倒くさい性格なのだ。


あの竹で割ったような母の性格と全くの正反対。

いや、気の短いのは同じか。


「どういう事だ?」

侍従に父が聞いていた。

「いえ、確かにエルザ様は学園に向かわれております」

侍従が言うのに、今度は俺が慌てた。

「それは本当か」

「はい」


「くっそう、あのババア、勝手にクラウに会いに行ったな」

俺は慌てて父の部屋を辞して飛び出したのだ。

ただ、俺は思わず口走ってしまった汚い言葉が後で尾を引くとは思ってもいなかった。




俺が学園に行くと、案の定、母は俺に内緒でクラウに会っていたのだ。

あれほどまだ早いと俺が言っていたにも関わらずだ。


「母に虐められなかったか?」

俺がクラウに聞くと

「大丈夫です」

とクラウは言っていたが、判ったものではなかった。


「母上どういうことですか?」

帰りの馬車の中で俺は怒鳴りそうになっていた。

「何言っているのよ。そもそもあなたが全然会わせてくれないからいけないんでしょ」

開き直った母が言ってくれた。


「だからクラウが礼儀作法とかきちんと出来れば会わせると」

「あなたね。判っているの? 礼儀作法がきちんと出来たら会わせるって言うけれど、アデライド先生の合格点なんていつになったらもらえるかわからないでしょ。何しろ私ですら未だに注意受けているのよ」

母が言ってきた。

「いや、さすがに、そこまでは……」

「少なくとも学園の間の3年間は会わせるつもりが無かったでしょ」

俺の言葉をぶった切って母が言ってくるんだが

「いや、そこまでは思っていませんよ」

俺は否定したが、

「どうだか」

疑い深そうに母は俺を見てきた。


「それにあんたとコンスタンツェさんがいなくなったら誰もクラウちゃんを守れないじゃない。今日もあのエセ聖女がなんかやっていたから私がガツンと注意してやったわ」

「えっ、母上が全面に出られたのですか?」

「当たり前でしょ」

俺は母の声に頭を抱えた。


「次に余計なことしたらあなた達のお母様に言いつけるわと周りの令嬢たちを脅したのよ」

母は言うが、確かに母に逆らったらこの帝国の社交界には居づらくなるはずだった。

彼女らは真っ青になったはずだ。


「しかし、あまり母上が出しゃばられると父上が機嫌を損ねられますよ」

「はああああ! なんでエーリックの機嫌が悪くなるのよ」

今度は母が怒り出した。


「現実に私が父に呼び出されてお小言を言われたのです」

俺が言うと

「判ったわ。そこまで言うなら、エーリックにもきちんと話します」

母が言い出したんだが、これで良いのだろうか? 何故かこちらに飛び火しないかと俺は不安になった。


でも、俺の心配どこ吹く風で、母は俺を連れてそのまま父の執務室に突撃したのだ。

いや、一人でいってほしい! 俺を巻き込むなと俺は言いたかったが、言えなかった。


「あなた! 私のやることに文句があるんですって」

いきなり喧嘩口調で父の所に怒鳴り込んだのだ。


「えっ、いや、エルザ、そんな事は。そうだ! 俺に隠れてコソコソと何かしていると、ルードが言うものだから」

「はい?」

その言葉は寝耳に水だった。俺のせいにするか?

「ルードそんな事言ったの?」

「いえ、一言も」

俺が否定したのに、


「『あのババア、何を勝手にやってくれるんだ』と言って出ていったではないか」

父が余計な一言を覚えていたのだ。

いや父上、今それ言います?

余計に母上が怒りますよ!

俺は叫びたかったが、遅かった。父の一言が母の怒りに更に油を注いでくれたのだ。


「ルード! どういう事。そもそも私はあなたのためにやってあげたのに! ババアですって」

「えっ、いや母上、言葉が違います」

俺は必死に言い訳したが、母が怒り狂ったら手がつけられないのだ。


俺と父は延々と母に怒られることになってしまった。

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