第36話 大司教視点 ルードの女を取り上げる算段を画策しました
俺の名はバルトルト・コルターマン、この帝国の繁栄を支えるミネルヴァ教の大司教だ。
この世界では多くの神が信じられているが、戦神ミネルヴァを最高神とする宗派だ。
ミネルヴァ教は帝国で認められている唯一の宗教で信者はこの帝国全体で五千万を超える一大宗教なのだ。
当然、その中で一番偉い俺様は本来ならば帝国の皇帝と同程度、いや、我がミネルヴァ教は帝国以外でも信じられているからそれ以上に偉大な存在であるはずなのだ。
それも今は俺の祈りの力によって百年に一度現れるかどうかの聖女が降臨したのだ。
いろいろと言うものもいるが、俺のおかげでとある孤児に聖女の力が発現したのだ。
当然帝国皇帝よりも俺の方が地位は高いはずだ。
本来はもっと周りの者達に俺様の事を敬い、寄付を増やせと言いたかった。
特に帝国の貴族の奴らはその事をよく心得ていないやつが多い。
まあそれはこの頭のねじが少し緩んだ聖女もそうだったが……
「大司教様、どう思う? あのアデライドとかいう教師が私に停学を命じたのよ。この聖女様の私に!信じられないわよね」
大司教の俺様にため口をきくこの聖女もどうかとは思う。
本来いくら聖女といえども教会の大司教様にため口をきいてよいはずはないのだ。この聖女は元孤児で礼儀作法もなっていない。元々孤児にそのような教育をさせてはいなかったのが原因だ。
今後は大司教を見れば平伏するように教えさせなければなるまい。そうすればこの女も俺様に対して平伏するようになるだろう。
たぶん……
まあ、所詮、聖女など使い捨てのコマ。大司教である俺様にため口をきくなど許されることではない。いざとなれば魔物のエサにでもすればよい。まだ十分に使い道があると思うから、そうしないだけだ。
だが、この聖女、教育係のシスター達に礼儀作法を教えさせてもみんなさじを投げだした。
教会派の伯爵であるモントラル伯爵に預けたのにうまくいかず、やむを得ず学園に教育させるように送り込んだのだが、停学を食らって戻ってくる始末だった。
本当に役に立たない。
そもそも此奴はその学園のクラス分けのテストでも最下位の成績を取ってくれたのだ。
問題をランベールから前もって入手させて勉強させたにも関わらずだ。
どういう頭の構造をしているのだと私は頭を抱えたくなった。
それを教会の力をゴリ押ししてなんとか聖女点を特別加算させてAクラスに入れたのだ。
それでもギリギリだった。
追試の奴らが高得点を一人でも取ると落ちる位置にいたので、ランベールに理科の追試問題を学園で習う範囲に変更してなんとか、聖女の位置を守ったのだ。
そもそもモントラルは何を5年間もかけて教育をしていたのだ。
俺は頭が痛くなっていた。
その矢先にこの停学だ。この聖女は何を考えているのだ?
帝国の高位貴族に嫁げるように頑張れと送り出したら、生意気なルードの小僧に相手にもされずに、属国カッセルの男爵令嬢を突き落とそうとして失敗した挙げ句に停学になるとは、馬鹿かと思いっきり殴り倒してやりたかった。
せめて突き落とすのならば、憎きピザン公爵家のコンスタンツェにしろと言いたかった。ピザン公爵家は何かにつけて、教会のやることに反対してくれるのだ。それを日頃の恨みと突き落としたのなら、まだ、褒めようもあったが、属国の男爵家の令嬢を突き落として教会に何の利点があるのだ? もともとそんな低い身分ではルードの小僧の相手になどなれるわけもないであろうが!
ルードの小僧は、学園での遊びでその女に手を出しているだけだ。
冷静になれ、と俺様はそれをオブラートに包んで話してやった。
しかし、待てよ!
この聖女がそれで話が通じるのか?
頷いた聖女に俺はとても不安を感じた。
「ロメウス、あれで話はきちんとあの馬鹿に通じたと思うか?」
俺様は、あれの担当の司祭に聞いた。
「いえ、聖女様には少し難しかったかも知れません。後できちんと言い聞かせておきます」
「まあ、宜しく頼むぞ。
それよりこの学園からの保護者召喚でなぜ、俺様が学園に行かなければならないのじゃ?」
俺は召喚状を手に文句を言っていた。
「聖女様の後見人が大司教様でいらっしゃいますから、致し方ないのでは」
「なぜじゃ、なぜミネルヴァ教大司教である俺様が学園風情に呼び出されるのじゃ? あり得ないであろう」
俺様は文句を言った。
「皇帝陛下でもご子息が停学になれば呼び出されるそうでございます」
「なんじゃと、しかし、俺様はその皇帝ごときと比べて良い存在ではないわ!」
「ぞんじあげておりますが、ここで学園と揉めますと、また、問題かと。まあ、学園の見目麗しい女どもを眺められるのも目の保養になるかと」
「ふん、そのように目に止まるような女がおるのか?」
俺は胡散臭そうにロメウスに聞いていた。
「聖女様が、突き落とそうとした、お相手のクラウディアとか申す女は結構目立つ女かと」
「左様か、ルードの小僧が執心しておるとかいう末端貴族か。薬漬けにでもして娼館にでも、売り付けるか?」
俺様は面白いことを思い付いた。
そうなった時のルードの小僧の悔しがる様が、目に浮かんだ。
「そうですな。そうか、大司教様が味見されてもよかろうかと」
「ほう、それほどの上玉か、あの小僧から取り上げて遊ぶのもよかろうかの」
俺は学園に行くのがとても楽しみになった。
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