第35話 停学になった聖女が被害者で私が加害者のような噂を、友人が強引に叩き潰してくれました

私を突き落としたことで聖女は1週間の停学処分になった。


まあ、当然と言えば当然だった。

何しろ自分で突き落としておいて、私のお守りの反撃食らって自分で落ちたのだ。

その上、私を落としたとみんなに嘘をついた。

何の罪もない令嬢を突き落とそうとして、逆にお守りの反撃を受けて自分で落ちたのに、私に突き落とされたと嘘の証言をしたのだ。

本来ならば、退学になってもおかしくなかった。

ただ、100年に一度生まれるかどうかの聖女だったので、今回は特別処置になったとルードは言っていた。


教会側は

「聖女様を罰するのですか?」

と抵抗してきたようだが、アデライド先生が強引に話を決めたそうだ。一から教会側できちんと反省させて矯正しないと今度は退学にすると。

教会側も慌てて、大聖堂で1週間、祈らせて反省させるという話だった。

私にはあの聖女が反省するとは思えなかったが……


でも、そんなだいそれた事をしたのに、そこまで大きな噂にはなっていなかった。


教会側が穏便に済ませてほしいと言ってきたので、あまり大げさに出来ないとルードも言っていた。

後できちんと教会には謝罪させるとルード入ってくれたが、帝国の教会の偉い人なんかに謝ってもらうなんて出来ないと私は遠慮したのだ。

教会の偉い人なんて会うだけで緊張するし、教会関係者と言っても絶対に私よりも遥かに地位は高いはずだった。

そんな偉い人が私に謝ってくれたらあとが怖い。

ということであまり騒がないでほしいとお願いしたのもあった。


でも、私がカスパーに送ってもらった方が大きな噂になっているんだけど……

なんで?


それによって私に対する女性陣の視線がきつくなったのだ


「ねえねえ、知っている?」

「何をよ」

「あの銀髪、ルード様だけじゃなくてカスパー様まで手を出しているんですって」

「嘘! ルード様だけでも許せないのに、カスパー様まで」

「信じられない」

「聖女様も注意しようとしてくださったんだけど、うまくいかなかったみたいよ」

「本当に? 最悪じゃない」


私は廊下を歩く度にこんな事を噂されているのだ。

昨日その聖女から階段から突き落とされそうになって、その上冤罪を掛けられそうになったのは私なのに。なんで聖女が良いものになっているの?

なんかとても納得出来なかった。


コンス達がお手洗いに行って私が一人で残っていた時だ。


「ちょっと、クラウディアさん、どういうことなの?」

貴族の娘らしいイルマが声を駆けてきた。

「あなた、ルード様だけじゃなくて、カスパー様にも手を出したんですって」

そのとなりのユーリアも同じく声を荒げていた。

「私は手を出してなんていないわよ」

私が否定すると

「何言っているのよ。昨日もカスパー様と仲良く歩いていたじゃない」

「私達見たのよ」

二人は皆に聞こえるように言ってくれた。


「えっ、そうなの?」

「信じられない」

近くで聞いていた女たちの視線も厳しくなる。

このEクラスには平民の子が多いから、高位貴族のルードとカスパーとは関係ないかと思っていたんだけど、思った以上に貴族が多いみたい。皆こちらを怒りの表情で見てくるんだけど。


「いや、それはたまたま送ってもらっていただけで」

私が言い訳すると、

「たまたまって、何言っているのよ。私、そんなふうにお二人に送ってもらったことはないわよ」

「そうよ、そもそもあなたクラスも違うでしょ。どうやって知り合ったのよ」

二人が更に笠に着て言い出したんだけど。


「聖女様がせっかくあなたに注意して頂けたのに、あなたが逆ギレしたんですって!」

「その御蔭で聖女様は階段から落ちて大怪我をしたそうじゃない」

「えっ?」

私は一瞬イルマが何を言っているか判らなかった。

私が邪魔だから落とそうとしてお守りの反撃を受けて勝手に落ちたデジレが悪いのに、なんでこんな聖女に都合の良い噂になっているわけ?

私がムッとして言い返そうとした時だ。


「イルマ。もう一度言ってみろ!」

「えっ」

「もう一度言えと言ったんだ」

そこには怒り狂ったコンスがいた。


「いえ、あの、コンスタンツェ様」

イルマはコンスの怒りに真っ青になった。

「さっさと言え」

「いえ、あの、その」

今にも殴りかかりそうなコンスにもうイルマは蒼白だった。


「聖女デジレはルードとうまくいかないからと責任をクラウに押し付けてクラウを階段の上から突き落とそうとしたのだ。そこにお守りが反応して聖女が勝手に落ちたのだ」

「えっ、そうなのですか?」

イルマは驚いて聞いていた。

「それが事実だ。それはアデライド先生も認められた」

「それは知りませんでした」

イルマは驚いて頷いた。


「事実と正反対の変な噂をしているのは誰だ?」

「誰かは判りませんが、皆していて……」

イルマは必死に言い訳しようとする。


「イルマ、お前は何組だ?」

それを断ち切ってコンスが聞いていた。

「えっ、E組ですけど」

不審そうにイルマが答えた。

「聖女は何組だ」

「A組です」

「お前は悪辣非道な噂をするA組の味方をして、わがE組を裏切るのか」

「いえ、そのようなことは」

慌ててイルマは否定する。

「E組のクラスメイトが変な噂をされていたら訂正するのが筋だろう」

「えっ?」

イルマは驚いてコンスを見た。

「何を驚いている。当然のことだ。もし出来ないのならば、私に言え。その時はこのクラスから私が責任を持って追放する」

「えっ、追放するって……」

「仲間を裏切るようなやつは私が許さん。自分で職員室にでも居場所を作ってZ組でもなんでも作って良いぞ」

「そ、そんな」

「みんなもだ。悪いことをしたのに、良いことをしたと真実を捻じ曲げて噂をするなど私が許さん。気づけば私がその邪な考えを一から叩き直してやる」

コンスは皆を見渡していた。

「判ったか」

「はい」

「返事が小さい!」

コンスの声がクラス中に響いた。

「「「「はい」」」

私含めて男女問わず全員が返事していた。


「そうだ。次にもし聖女の肩を持つやつがいたら男といえども私が相手になってやる。必ず私に報告するように。判ったな。ベルナール!」

コンスはたまたま近くにいたベルナールに叫んでいた。

「えっ、俺? 何も関係のない俺に言うのか」

「何を言う。お前もEクラスだろう。それにお前は私と同じ剣術部だろうが」

「そんな」

唖然とした表情でベルナールはコンスを見たが、剣術部の先輩含めて全員に勝ったコンスに逆らえるわけはなかったのだ。

「返事は」

「はい!」

可哀想に騎士志望のベルナールは強引に返事をさせられていたのだ。


それ以降、我がクラスではコンスに遠慮してその噂話は出なくなったのだ。



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