第29話 ヒロイン視点 悪役令嬢が虐めてこないので、こちらから直接攻撃することにしました

私はデジレ。生まれは帝都で、小さな孤児院の前に捨てられていたそうだ。

だから両親の事は知らない。


そのまま拾われた孤児院で育てられた。

私の暮らしていた孤児院が帝都にあったからか、それとも帝国の施策がしっかりしていたからか、私は飢えたりすることはなかった。きちんと食事は与えられたし、寒さに震えることもなかった。

欲を言えば衣服は誰かの着たお古だったが、決してツギハギだらけとか言うこともなく、貧民街の住民に比べれば余程まともな生活を送れていたと思う。


私の髪の色は前世の日本にはなかった桃色だ。それもとてもきれいで優雅な色なのだ。

私のロメウス司祭が言うには、桃色は聖女の髪の色だとか。

何でも伝説の聖女様の髪の色が桃色だったそうだ。

聖女様は100年に一度、魔物が大発生する時に現れて魔物たちを浄化するのだとか、私は孤児院でよくその話は聞いた。


でも、伝説の話だ。私は自分が聖女様になるなんて夢にも思っていなかった。



私が10歳になった時だ。


私達は近くの森に樹の実を拾いに行った。

私達が皆で樹の実を採っている時に、いきなり巨大な魔物に襲われたのだ。


「キャーーーー」

私達は必死に逃げた。


しかし、逃げ切れない。

私は魔物の前で転けてしまったのだ。

振り返った時は、目の前に魔物の大きな口が迫っていた。

このままじゃ食べられる!


「いやあーーーーーー」

私は大声で叫んだのだ。

その瞬間だ。私の手が金色に光ったのだ。


凄まじい光の中で、私には前世の記憶が蘇ったのだ。

凄まじい量の記憶だった。

あまりの量の多さに、私は意識を無くしたのだ。



はっと気づいた時はベッドの中だった。

前世、私は日本という国の片田舎の普通の女子高生だった。

普通の高校生活を送っている時に、何故か死んでしまったみたいだった。

そのあたりの記憶は曖昧だ。


「聖女様、お目覚めですか?」

私を覗き込んだのは孤児院のロメウス司祭だった。

「聖女様?」

キョトンとした顔を私がすると

「そうです。デジレ様は聖女として覚醒されたのです」

「えっ?」

私はロメウスが何を言っているかよく判らなかった。


「覚えていらっしゃまいせんか? 魔物に襲われた時に浄化魔術で魔物を浄化して頂いたのです」

「あっ」

私はなんとなく思い出した。

私を襲った魔物は私から発せられた光によって包まれて消滅したのだ。

私がしたのは聖女の使う浄化だそうで、私に聖女の力が発言したのだとロメウス司祭は説明してくれた。


ロメウスは私がまだ疲れているから寝るようにと言って、去っていった。


私は気を失ったからか、それとも聖女になったからなのか、いつもの雑魚寝部屋ではなくて、個室に寝かされていた。


そして、目の前に鏡があった。

その鏡に写っている自分の顔をよく見るとどこかで見たことがあった。


「ああああ!」

私は思い出したのだ。

その顔が『帝国の桃色の薔薇』といいう高校生の間で大ヒットしていたゲームの中のヒロインのデジレであることに。

ゲームは王立学園の入学式から始まって、私は幾多の男達と浮世を流し、最後はルード様と結ばれるのだ。

私は何度もゲームをしたことがあるから、どうやればルード様の気を引けるか理解していた。



それからは話はとんとんと進んだ。


聖女になった私は、教会派の伯爵、モントラン家の養女となったのだ。


さすが帝国の伯爵邸は立派だった。

建物も3階建で、庭も広かった。

そこにはお父様とお母様と年の離れた兄がいて、皆私を可愛がってくれた。


私、週に四度、教会通って聖女の勉強をして、残りは伯爵邸でゆったりと過ごしていた。

私は孤児院時代とは比べ物にならない贅沢な生活が出来たのだ。


何故、前世で亡くなったか判らないが、今生は絶対に幸せになると心に決めていた。


そして、来たるべき学園の入学式の日がきた。


そこには夢にまで見た、リアルルード様が新入生代表として挨拶に立たれたのだ。

その姿は見目麗しく、体つきは鍛えているのかガッシリとしていた。

私はうっとりとその雄姿に見とれたのだ。


ルード様は気の強い婚約者のクラウにいつもきつく当たられて、嫌になっておられた。

人懐っこくて優しい私は、胸のないそのきつい婚約者に代わってこの大きな胸の中でルード様をお癒やしして親しくなるのだ。


しかし、昼食の時の一緒に食べるイベントは、銀髪がシチュウをルード様にぶっかけて無くなった。

代わりにルード様に慰められたけれど……

それはまだ良い。


オリエンテーションではゲーム通り、ルード様と一緒のチームになれたのだ。ブリアックとか言う平民が邪魔してくれたけれど、結構いい感じだった。

途中でルード様が私を押し倒してくれもしたし……


その時はこれで行けたと思った。


でも、その日のレセプションのエスコートはルード様に拒否されたのだ。


そして、なんということか! ルード様は悪役令嬢のクラウディアをエスコートしていたのだ。


ゲームではそんな事もたまにあった。でも、2回目に私と踊ってくれてその後仲良くなれる筈だ。

私は何としても二回目を踊ろうとした。しかし、なんと、クラウディアはルード様を連れて逃げ出してくれたのだ。

どういう事? こんなのゲームにはなかった。

そもそも、悪役令嬢のクラウディアが同じA組ではなくて、E組にいる事自体がおかしかった。

逃げ出した二人は必死に探したけれど、見つからなかった。


仕方がない。次のイベントにかけるしか無いのだ。

しかし、そのためにはクラウディアが邪魔だ。


私はなんとかして、邪魔なクラウディアを外そうと水をぶっかけたり、花瓶を頭の上から落としたが、うまく行かなかった。


それに、なんかクラウディアの行動も少しおかしい。

何故か虐めてこないのだ。

私がクラウディアに虐められて、それをかわいそうに思ってルード様が庇ってくれて、親しくなるイベントもあるのだ。それがこのままではうまくいかない。


私はこれはクラウディアが転生者でわざと私の邪魔をしていると思った。

しかし、所詮悪役令嬢は悪役令嬢。

いくらあがいても無駄だ。いずれ排除断罪されるのだから。


私は直接そう言ってやろうとした。


しかし、何故か礼儀作法のアデライド先生に邪魔されてしまった。

延々怒られてしまった。


ゲームでは本来アデライド先生はヒロインの私の味方なのだ。いつも悪役令嬢に虐められる私を悪役令嬢から庇ってくれるのに!

そうなっていない。


そもそも、悪役令嬢が私を虐めてこないのは変だった。

絶対にあいつは転生者だ。


こうなったら仕方がない。

私は決意した。

向こうがその気ならこちらも作戦を変更する必要がある。

こうなったらクラウディアを階段からでも突き落として怪我させて、学園からしばらく退場してもらうしかない。悪役令嬢さえしばらくいなくなれば、ルード様も私の魅力に気づいてくれるはずだ。

私はその機会を虎視眈々と狙っていたのだった。

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