第30話 ルードからお守りのペンダントを受け取りました
その日は昨日と違って何言もなく過ぎた。
お昼休みにまた何か周りから言われるかなと警戒したのだが、コンス達が私の周りを囲んでくれて、私を一人にしないで、いてくれた。
あいも変わらず、ピンク頭はルードに纏わりついていたけれど、ルードは無視していた。
うーん、それでよいのか?
ピンク頭は確かヒロインだったと思うんだけど。
うまくいかないからって、ピンク頭の怒りが私に向くのは止めてほしいんだけど……
コンスの一睨みは強力だ。何しろ昨日の部活見学で剣術部でいきなり主将を叩きのめしたそうだ。本当に強い。その他の並み居る剣術自慢を全て叩きのめしたとか。
今日は朝からコンスを見かけた剣術部員たちが先輩も同輩もかかわらず、全員が頭を下げてくるのだ。
それをコンスは頭を軽く振って受けているのだ。なんかとてもシュールだった。
そんなコンスの前で私に余計なことをする勇気があるやつなんてこの学園にはいないだろう。
私も何か部活に入りたかった。
剣術部なんて無理だけど、文化系ならなんとかなるはずだ。
前世日本では帰宅部だったけれど、せっかく帝国の学園に入れたんだし、何かやってみたかった。
でも、ルードの補講があるから難しい。
はあああ、補講は頭が痛かった。
そして、その日の放課後になった。
私はまた昨日にみたいに囲まれるのが嫌なので、無理言って部活に行くコースを少し遠回りしてもらってコンスに教室の前まで一緒に来てもらった。
「大丈夫か、クラウ? 何なら私からルードに一言、言ってやろうか?」
コンスは親切にも言ってくれたが、
「有難う。どうしてもって時は頼むわ」
「そうか、まだ学園が始まったところなんだからそんなに勉強することはないと思うぞ」
残念そうに言いながらコンスは去って行った。
私はため息をつくとノックしたのだ。
「遅いぞ、クラウ」
そして、中に入った途端に、怒りの声が飛んできた。
そこにはむっとしたルードが既にきていた。
「えっ、授業が終わってすぐに来たんだけど」
流石に私もむつっとして返すと
「教えてやる俺様より遅く来るやつがあるか? そもそもA組の方がここから遠いだろうが」
「ええええ? そうかな。私のE組は階段の上にあるんだけど」
「俺のA組は1階だが、この教室に繋がつている渡り廊下の横の階段までは4クラス分ある」
ルードは言い張った。
たしかに距離は遠いかもしれないけれど、階段上り下りは大変なのだ。
何故かE組だけが特別教室のある二階にあって毎回上り下りが大変なのに!
「まあ、良い。今日はちゃんと勉強してきたんだろうな?」
ルードが話題を変えてくれた。
「やったわよ。覚えたかどうかわからないけれど……」
「何だよ、それは、じゃあ、五代皇帝は」
いきなりルードが問題を出してくれた。良かった。まだ覚えている。
「ユグノー帝、帝都の城壁を拡張されたのよ」
「そう、それと」
「えっ、まだあったっけ?」
私はドキッとした。
「それと、そうよ。孤児院を作られたのね」
「そうだ。窮民の施策を色々された慈愛の皇帝だ。じゃあ7代は」
「ルードリック帝」
それからしばらく、問題をやり取りした。
今日はある程度完璧だった。
さすが受験勉強を乗り越えた私だ。まあ、旧帝大には1点差で落ちたけど……
「うん、その調子だ。明日はここまでな」
ルードが教科書を開いてまた莫大な量を指定してくれるんだど、
「ええええ! こんなにたくさん覚えるの」
「当たり前だろう! こんなの帝国の高位貴族なら6歳で覚える量だぞ」
ルードは当然のごとく言ってくれるが、
「私はカッセルの片田舎の男爵家の人間で帝国貴族ですらないのよ」
私が文句を言ったが、
「今後、帝国で生きていくんだろう? 帝国の歴史くらい知っていないと大変だぞ。それにこれは1年生のテスト範囲だ」
「そんな……」
私はそう言われたら何も文句は言えなかった。
「この学園で優秀な成績を収めればこの後は苦労しないからな。精々頑張るように」
ルードはそう言うと文具を片付けだした。
私は宿題の量にうんざりしつつ、のろのろ片付けた。
「クラウ、のんびりしていて良いのか? 食堂はそろそろラストオーダーの時間だぞ」
「やばい」
ルードに教えてもらって慌てて私は勉強道具を片付けだした。
そして、走って帰ろうとするのを
廊下を走ると危険だとルードに言われて、ルードに送ってもらった。
一人なら走ったのにとルードを睨むもルードは悠々と歩いてくれた。
「焦らなくても、時間はまだあるから」
ルードは笑ってくれたけれど、2日間夕食抜きの私は焦るわよ。
「じゃあ、ルード」
私は寮の前でさっさと寮に入ろうとしたら
「クラウ、これを」
私はルードから何か渡された。
それは真ん中に青い石が光っている金色の十字架がついたペンダントだった。
「えっ、なにこれ?」
私は驚いてルードを見た。
「宿題やって来たご褒美だ」
「えっ、でもこれ高価なんじゃないの?」
私は返そうとした。
ここまで連れてきてもらったけれど、施しは嫌だ。
「大したものじゃない。女たちに色々された迷惑料だ。お守りも兼ねているから必ずつけてくれ」
そう言うとルードはさっと身を翻したのだ。
「えっ、でも」
「ちゃんと宿題やって来いよ」
そう言うと、私の声を無視して、さっさとルードは去って行った。
「むう、宿題の褒美って……」
私は手の中のペンダントを見た。
とても高価そうだ。
まあ、女たちに半殺しにされそうになったのは事実だし、迷惑料としてもらって良いんだろうか?
お守りも兼ねているって言っていたし……何かあったら助けてくれる魔道具かもしれないし。
中につけたら、外からは見えないだろう。
私はルードからの好意を、とりあえず身につけることにしたのだ。
これが原因で、また色々言われることになるとは思ってもいなかったのだ。
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果たして、お義兄様の想いはエリーゼに通用するのか?
山場です。
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