第21話 レセプションでルードと踊ってホッとしたら、ルード狙いの令嬢達から逃げるために一緒に会場から連れ出されました

私は生まれて初めて男の人にエスコートしてもらってレセプション会場に向かっていた。

私は今まで着たこともない、きれいな青い布地に金糸で模様が散りばめられているドレスを着て歩いている。

エスコートしてくれているのは、白い布地に銀糸で飾りがつけられていた燕尾服に緑色の蝶ネクタイをした立派になったルードだ。

あの意地悪ルードがこんなに立派になって、私をエスコートしてくれるなんて!

そう、ルードは本当に立派になっていた。顔も凛々しくなったし、体もがっしりしていた。

こんな素敵になるなんて思ってもいなかった!


私は全てに感激していた。


「ところで宿題は覚えたんだろうな」

「えっ?」

私は一瞬、ルードが何を言い出したか判らなかった。


「渡した教科書覚えたのかよ」

今、この感激している時に聞くか! 

私の感激は一瞬で半減した。


「第3代皇帝は?」

「コンスタン帝」

良かった!

オリエンテーションで出て来た問題だ。

私は初めて物理の先生に感謝した。


「おっ、出来てるじゃん」

ルードも喜んでくれた。

そこで終われと思った私は甘かった。



「じゃあ、第4代は」

「……」

「第5代は」

「……」

「ほとんど覚えていないじゃないか」

「だってあんな分厚い本、1日で覚えられるわけないでしょ」

私がむっとして睨みつけると、

「やろうと思えばできる」

「それが出来るのはルードくらいでしょ」

私が文句を言うと、

「じゃあ、第6代は」

「ルードルフ」

「はい正解」


「これはルードに名前が似ていたからまだ覚えられた」

そう言うと、何故かルードは嬉しそうだった。

でも、その後は全然だった。


会場に着いた時は私はルードの歴史問題に疲れ切っていた。

あまり答えられない私にルードはだんだん怒り出すし……

でも、そんなのこんな短時間で覚えられるわけないでしょ!


会場では長い学園長の挨拶がすでに始まっていた。


そんな皆が聞いている中で、私はルードにエスコートされて会場に入ったのだ。

考えたら、普通は今回の新入生歓迎レセプションのエスコートって上級生がやってくれるんじゃなかったっけ? 

何故同じ新入生のルードがしてくれたんだろう?

やっぱり成績最下位の私のエスコートをするのを先輩たちが嫌がって、誰もいないからルードがエスコートすることになったんだろうか?


というか、私なんかがルードにエスコートされて良いんだろうか?

私達が会場に入ると、ルードはそのままどんどん前に歩いて行くんだけど……


えっ、私は端で良いんだけど……


私達が前に行くにつれて私達を中心にざわめきが起こった。


「ねえ、あのルード様がエスコートしているの、誰よ?」

「二年生にあんな子いたっけ?」

「三年生にもいないわよ」

「あの子、一年生の女の子じゃない」

「あのコンス様の横にいた」

「えっ、あの地味な子?」

「嘘っ! 全然違うじゃん」

「信じられない」

「というか、何故一年生のあの子を同じ一年生のルード様がエスコートしているの?」

そんなのこちらが聞きたいわよ!

というか、皆がこちらを見て噂しているのだ。


私は壁の華で良かったのに!

と言うか、ルードにエスコートされる段階で壁の華は無理だった。

でも、何も真ん前に行く必要はないじゃない!

ルードは噂されても、いつもなれているのかびくともせずに、堂々と正面の壇上に向かって歩いて行くのだ。

もう本当に止めて欲しかった。

みんなが私達が横を通る度にギョッとしてみてくるのだ。


「な、なんで一年生のあの子がルード様の隣りにいるの」

「信じられない」

囁く声が聞こえる。もう私は針の筵だった。

ルードも最初は気安く話しかけてくるなって言っていたのに、私をエスコートしたら、そんな意味ないじゃない!


「許せない!」

なんかピンク頭、確か、デジレって呼ばれていたが私を睨んでいる。彼女からしたらルードにエスコートしてほしいと頼んだのに、私をエスコートしているから怒っているんだ。私はルードがエスコートしてくれるなんて知らなかったんだって!

私はそう言いたかった。



長い学園長の話が終わって、生徒会長が壇上に上がろうとした。その横にはコンスがいて、ルードを見てムッとしていたが、私を見ると手をふってくれた。


なるほど、次に挨拶するからルードは前に来たのか……でも、それって私が完全に目立つじゃない!

私はもう泣きたかった。

明日からが怖い。デジレの視線も怖いし……


「何か困ったことがあったら、私達先輩に聞いて下さい」

生徒会長が言ってくれたが、私は今のこの状況をぜひとも相談したかった。


ルードが壇上に上がる。


ルードがいなくなって、一人になったらみんなの視線が、特に女の子の視線が痛いんだけど……


「先生方、諸先輩方。私達新入生を歓迎するレセプションを開いて頂いて本当にありがとうございます。私達はこれから3年間を学園で一生懸命に学んでいきます。その時々に色々とわからないことや、知らずにルールを破ることもあるかもしれません。そういう時は私達に手を差し伸べて頂き、お教え頂けたら嬉しいです。どうか3年間宜しくお願いします」

軽く頭を下げて、みんな一斉に拍手した。


そして、壇上から降りてきたルードに話しかけようと集団に囲まれそうになるが、ルードはさっとそれを躱して、私の傍に来たのだ。


「それでは皆さん。まず、一曲踊りましょう。最初はペアの人と一緒に踊って下さい」

マルタン先生の声がした。


「じゃあ、クラウ、踊るぞ」

「いや、ルード、私、踊ったことないから」

私が必死に否定した。

こんな人前で踊ったら恥をかくだけた。

それにルードと踊ったなんてことになったら、後で更になんて言われるか判ったものではなかった。


「ふん、大丈夫だ。踊るふりをしろ」

そう言うとルードは私を真ん中に連れて行ってくれたのだ。


「えっ、いや、ルード、私本当に踊ったことはないから」

「魔法を使うんだよ」

そう言うと、ルードは私の腰に手をおいてくれた。


「えっ」

私は体が軽くなるのを感じた。

ルードは少しだけ私を浮き上がらせてくれたのだ。


「うそ」

私は信じられなかった。

「最初だけだからな。後はクラウも練習しろよ」

ルードがそう言うと同時に音楽がなり始めた。


私はルードに魔法で持ち上げられて踊らされたというのが正解だった。


必死にルードの足を見て踊っているふりをする。


周りからは二人がいい雰囲気で踊っているように見えるかもしれないが、私を持ち上げてルードが一人で踊ってくれたのだ。

私はルードに合わせて踊っているようなふりをするだけで精一杯だった。


ルードは調子に乗って私を大きく宙に浮かしてくれたり、周りから喝采を受けていたけれど、本当に止めて欲しかった。


音楽が終わった時にはもうヘトヘトでルードにほとんど抱き付かないと立っていられない状態だった。


それを見てデジレは私を睨んでくれたし、コンスは驚いてみていたし、ポピーなんて口に手を当てて、「まあ」って赤くなっていた。


一曲終わって、みんな、虎視眈々とルードのお相手になろうとこちらを睨んでいた。

「「「ルード様」」」

私達めがけて女の子たちが殺到してきたのだ。


私はギョッとした。ここは逃げるにしかずだ。私はルードの手を離して離れようとした。

でも、ルードは私の手をしっかり握って来たのだ。

「えっ、ルード、私はこれで」

私はルードの手を振り払おうとして、失敗した。

更にきつくルードが手を取ってくれると


「じゃあ、クラウ、行こうか?」

「えっ?」

私はルードが一瞬何を言ったか理解できなかったのだ。


次の瞬間、ルードは私の手を引いて駆け出したのた。


「ちょっと、ルード様!」

「あの女、いつまでルード様を占拠しているのよ!」

「許さない!」

「ルード様、お待ち下さい!」

女たちが凄まじい迫力で追ってくる。


「えっ、ちょっと待って! そんな……」

私はルードに強引に手を引かれて会場から逃げ出してしまったのだ。

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果たして、お義兄様の想いはエリーゼに通用するのか?

山場です。

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