第22話 逃げ出した先で勉強させられてしまいました
私達が踊り終わると、目の色を変えた令嬢達がこちらに向かってきた。
「ルード様!」
「次は私と踊って下さい」
「私よ」
「私のほうが先よ」
令嬢達が睨み合っている隙に、ルードは私の手を引いて駆け出してくれたのだ。
「ちょっと、ルード様!」
「お待ち下さい!」
令嬢達は私とルードを追いかけてきた。
その先頭はデジレだ。ピンクの髪の毛を振り乱して追ってくる。
その後をたくさんの令嬢が追いかけてきた。
私は走ることはそんなにしていなかったので、すぐに息が切れたが、ルードは許してくれない。
そのまま校舎の中にもつれる足で駆け込まされたのだ。
ルードは校舎の中に入り込むと、前から一人の騎士が歩いてきた。
「後は任せた。クルト!」
そう叫ぶと、私が最初に連れてこられた部屋に飛び込んだのだった。
「騎士様。こちらに二人連れが駆けてきませんでした」
デジレの声が聞こえる。
「あちらに走っていかれましたよ」
騎士の声が聞こえて、周りは静かになった。
騎士は別の方向を指さしてくれたみたいだ。
「もう、ルード、逃げるなら自分ひとりで逃げてよ」
私が文句を言うと
「何言っているんだ。元々俺はレセプションでは踊るつもりはなかったんだ。でも、昔、クラウが舞踏会で踊ってみたいと言っていたのを思い出したから踊ってやっただけだろう」
ルードの言葉に私はキョトンとした。
「えっ、そんな事言ったっけ?」
「言ったぞ。私も帝国の学園に行けたら、ルードと踊ってあげるわって、えらく上から目線で言われた」
ルードがムッとしていってきたが、
「上から目線はルードでしょ。たとえそのような事を私が言ったとしても、踊ってあげるとは言っていないはずよ」
私が言い返した。
「変わらないことを言っていた気がするぞ」
「と言うか、令嬢達と踊るのが嫌なんだったら、一人で逃げればよかったでしょ! なんで、私まで、ここに連れてくる必要があったのよ!」
私が文句を言った。
これでまた明日から、ルードと一緒に二人でパーテイー会場を抜け出したとか、ルードと踊りたかったのに私に邪魔されたとか言って令嬢達に虐められるのが決まってしまったではないか!
「何を言うんだ! あのままお前を置いて逃げたら、お前がアイツラに捕まって大変だろうと思って連れてきてやったんだよ。それに今日の分の補講がまだだろう」
「えっ、補講って、まだ、やる気なの?」
私は唖然としてルードを見た。
「当たり前だろう。クラウ、前期にどれだけ覚えないといけないと思っているんだ!」
昨日残していった本の山を見せつけつつルードが説明してくれた。
「えっ、これ1年間でやるのではなくて、前期だけでやる分なの?」
私は本の山を見て呆然としたのだ。
「当たり前だろう! 帝国の学園は最高峰の教育機関なんだよ。普通の貴族はここに来る前に大半の勉強は終わらせてるんだ」
ルードは言ってくれるが、
「そんな事言われても、私、これだけ覚えられる自信がないんだけど」
私はもう涙目だ。
「泣くな! だから俺がない時間をひねり出して面倒を見てやろうとしているんだろ」
「ええええ! でも、ルード教えるの下手でしょ」
「お、お前なんて言うことを言うんだ! クラス分けテストは貴族点なしでも俺がトップだったんだぞ! それに比べてお前は最下位だ! 最下位の分際で俺に文句を言うのか?」
ルードは言ってくれるが、
「勉強ができるイコール教え方がうまいってことはないでしょ。
出来るやつほどできない理由が判らなくて、なんでこんな物も出来ないんだって怒ることになるじゃない! ルードも昔はよくそう言って怒ってきたじゃない!」
私が言い張ると
「できるだけ善処する。俺ももう16だからな! 大人なんだから」
ルードは胸を張っていってくれるが、
「でも、私が理解できなかったら、なんでこんなの理解できないんだって怒り出さない?」
「善処する」
ルードは頷いてくれた。
善処かよと思わないでもなかった。
「うーん、本当かな」
私が疑い深そうに聞くと、
「じゃあクラウ。お前これだけの量一人で覚えられるのか」
逆に開き直られてしまった。
「いや、流石にそれは……」
そんなのは絶対に無理だ。途中で投げ出してしまいそうだ。
「それ見てみろ。俺が見てやった方が良いだろう!」
自慢気にルードが言ってくれた。
「うーーーー」
私は唸るしか出来なかった。
「じゃあ、帝国の歴代皇帝だ。今から何やったのか説明していくからな。後の細かいことは本を読んで覚えるんだぞ」
ルードは帝国の皇帝の名前とその主な業績を教えてくれ始めたのだ。
「どうだ? 判ったか?」
「そんなのこんな短時間で覚えられるわけはないでしょ」
私は文句を言った。
「全然覚えられなかったのか?」
「少しは入ったかな」
そう言いつつも、ある程度の流れは頭に入った。
まあ、前世の受験時代に結構暗記はしたのだ。ある程度はなんとかなるだろうと私は思えてきた。
思ったよりもルードの教え方もまともだった。
「うーん、まあ良い。明日の放課後までに皇帝の名前とその業績は全て頭に入れてこい」
「ええええ! こんなにたくさん?」
「これだけ覚えなければいけないんだから、仕方がないだろう。やる気になれば出来る」
私は強引に覚えてくると約束させられたのだ。
その後、要らないと言ったのにルードは寮の前まで送ってくれることになった。
もうパーティーも流石にお開きになっていた。
外に出るとまだ4月の夜は寒かった。
「これでも着ていけ」
ルードは薄いコートを貸してくれた。
空は晴れていて星空がきれいに見えた。
まあ、前世の地球の星空とは当然違ったが、星空はきれいだった。
「この前は見れなかったが、オイシュタットの星空は今もきれいなんだろうな」
「そうだと思う。あまり星を見る暇もなかったけれど」
夜は疲れて寝ていたし、寝る時間も遅かったのだ。下手したら鞭で打たれていたし……
「悪かったな。クラウがあんな目にあっているって知らなくて」
私はルードの言葉に驚いた。ルードが私のことを心配してくれたなんてあり得なかった。
「悪いのはルードではないから」
私が首を振ると
「クラウのお母さんが死んだと聞いた時にもう少しちゃんと気にしておけば良かった」
ルードは反省してくれた。
「ううん、それよりもわざわざ時間を作って私をここにつれてきてくれて有難う」
私がお礼を言うと
「そうだ。時間のない俺様が時間を作っているんだからな。ちゃんと勉強しろよ」
「えっ、そう来るんだ」
私はその言葉にげっそりとしたが、気を取り直した。もともとそう言うやつなのだ。
ルードは。
「じゃあ、ここまで送ってくれて有難う」
私は寮の前でルードにお礼を言った。
「またな」
ルードは手を振って去っていった。
私は少しの間その後姿を見つめていたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます